量子力学の様々な構成方法 第5部 第5章 §5.5.5 ★★ Liouville の流れに ℏ2V′′′∂p3 の源を足すと、補正は古典の流れの3階の微分で書ける。短い時刻の補正は正しく出るが、離散の準位による復活(時刻 ∝1/ℏ)はどの次数でも出ない
1次の補正を Liouville の流れで書く
H=p2/(2m)+V(x) の Moyal 方程式は(第5部第3章)
∂t∂W={H,W}−24ℏ2V′′′∂p3∂3W+O(ℏ4)
である。W=W(0)+ℏ2W(1)+O(ℏ4) と展開し、ℏ の次数ごとに分けると
∂t∂W(0)={H,W(0)},∂t∂W(1)={H,W(1)}−241V′′′∂p3∂3W(0),W(1)(0)=0(5.5.15)
となる。0次は古典の Liouville 方程式で、初めの W を古典の確率密度とみなして各点を Hamilton の流れ ϕt で運べばよい(W(0)(t)=W(0)∘ϕ−t)。この近似は量子光学や冷却原子で「切り詰めた Wigner 近似」と呼ばれる。1次は同じ Liouville の流れに源の項が加わった線形の方程式で、Duhamel の公式
W(1)(t)=−241∫0tds[V′′′∂p3∂3W(0)(s)]∘ϕ−(t−s)(5.5.16)
で解ける(時刻 s に源で作られた分を、残りの時間 t−s だけ古典の流れで運んで足し合わせる。t で微分すれば (5.5.15) の2つ目に戻る)。
物理量 A(x,p) の期待値の補正は、(5.5.16) に A を掛けて積分し、流れが相空間の体積を保つこと(Liouville の定理)で ϕ を A の側へ移し、p について3回部分積分すると
δ⟨A⟩(t)=24ℏ2∫0tds∫W(0)(s)V′′′∂p3∂3(A∘ϕt−s)dxdp(5.5.17)
となる。量子の補正は、古典の流れ A∘ϕτ を運動量について3回微分したものに比例する。流れが線形(H が2次以下)なら A∘ϕτ は x,p の1次式に A を合成したもので、A が2次以下なら3階の微分は 0 になり、補正は消える。これは 第5部第3章の「2次以下の H では Moyal 方程式は Liouville 方程式と一致する」を、期待値の側から言い直したものである。非線形な流れでは、振動数が作用に依存するために A∘ϕτ の初期値への依存が時間とともに強くなり、補正は時間とともに増える。
短い時刻の補正と、展開で書けない復活
t→0 で (5.5.17) の被積分関数は V′′′∂p3A に近づくので、A=p3 では
dtdδ⟨p3⟩t=0=24ℏ2⋅3!⟨V′′′⟩0=4ℏ2⟨V′′′⟩0
である(⟨⋅⟩0 は初めの W での平均)。この式は Moyal 括弧 {{p3,H}} の ℏ2 の項(第5部第3章の例題)とも一致する。⟨x⟩ や ⟨p⟩ のような低いモーメントの式には ℏ2 の項が入らないので、量子と古典の差はまず3次のモーメントに現れ、何段かのモーメントの式を経てから ⟨x⟩ に現れる。第5部第3章の図で t≲1 の間 ⟨x⟩ が量子と古典で 0.01 以内に重なっていたのはこのためである。
摂動の展開では書けない現象もある。同じ図で量子の ⟨x⟩ が t≈12 で戻り始める復活は、準位が離散的であることによる。Bohr–Sommerfeld の条件 (5.5.14) で作用変数 I=ℏ(n+21) ごとにエネルギー E(I) が決まると、隣り合う準位の振動数のずれは E′′(n)=ℏ2d2E/dI2 で、位相がそろい直す時刻は
trev=∣E′′(n)∣2πℏ=ℏ∣d2E/dI2∣2π(5.5.18)
である。trev は 1/ℏ に比例する。(5.5.15) を ℏ2 の何次まで続けても、各次の補正は時間の関数を ℏ のべきで掛けたものなので、ℏ→0 で 1/ℏ のように遠ざかる時刻の現象は、有限の次数の和では表せない。復活は Moyal 方程式そのもの(すべての次数)には含まれているが、ℏ の展開の外にある。離散の準位で直接計算する行列力学の見方は 第2部第3章が4次の非調和振動子で行った。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ→0 で Moyal 方程式を Liouville 方程式に ℏ2 の1次の補正を足したもの(切り詰めた Wigner 近似+1次)で置き換える | 証明 条件付き〔2次以下の H では補正が厳密に 0。一般の滑らかな V で有限の時刻に限れば漸近展開とみられるが、誤差の時間についての増え方の評価は要確認。時刻 ∝1/ℏ の復活は展開の外〕 | 行き先 近似の数理 第7章
例題 5.5.5 4次の振動子での補正の始まりと復活の時刻 ★★
オリジナルℏ=m=1、V=x4/4、初めの Wigner 関数を W=π1e−(x−2)2−p2 とする(第5部第3章の図と同じ)。
- (1) ⟨H⟩0 と、δ⟨p3⟩ の初めの増え方 4ℏ2⟨V′′′⟩0 を求めよ。
- (2) (5.5.18) を E=⟨H⟩0 で見積もれ。
解答
(1) x は平均 2・分散 21、p は平均 0・分散 21 の独立な Gauss 分布。⟨p2/2⟩=41、平均 μ=2・分散 σ2=21 の Gauss 分布では ⟨x4⟩=μ4+6μ2σ2+3σ4=16+12+0.75=28.75 なので ⟨V⟩=7.1875、⟨H⟩0=7.4375。V′′′=6x から 41⟨6x⟩0=41⋅12=3。数値で量子と古典の ⟨p3⟩ の差を時刻で割ると、t=0.01, 0.02, 0.05, 0.1, 0.2 で2.997, 2.989, 2.935, 2.774, 2.410 となり、t→0 で 3 に近づく。t=0.2 ではすでに 2.4 に下がっていて、この系の古典の運動の速さ(x=2 で V′′=12≈3.5)に比べて短い時刻でしか、初めの増え方の式は使えない。
(2) 例題 5.5.4 (1) から J=cE3/4、作用変数 I=J/(2π) なので E=(2πI/c)4/3、dI2d2E=94(c2π)4/3I−2/3。E=7.4375 で I=5.01、d2E/dI2=0.1316、trev=2π/0.1316≈48 である。初めの状態の n は平均 4.0・標準偏差 4.0 と広く分布し、厳密な準位の2階差分は n=2 から 6 で 0.21 から 0.11 まで変わる(2π をそれで割ると 30 から 57)。そのため位相は1つの時刻にはそろわず、厳密な計算では t≈12 の小さな戻り(⟨x⟩≈0.21)の後、t=34.4 で ∣⟨x⟩∣=0.88 まで戻る。どちらも見積もりの範囲(30〜57)か、その手前の部分的な戻りで、桁は (5.5.18) で合っている。
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