量子力学の様々な構成方法 第5部 第5章 §5.5.6 ★★★ 重み和(この章)・Bloch 方程式(第5部第3章)・位置表示の核(第5部第2章・第4部第4章)の3つの道が同じ Wβ に着く。各項 e−βEnWn が Bloch 方程式の解で、和の初期値は完全性 ∑nWn=1/(2πℏ)
2つの道は項ごとにつながる
この章の重み和と 第5部第3章の Bloch 方程式は、同じ関数を出すだけでなく、項ごとにつながっている。規格化していない記号Ω=2πℏZWβ=2πℏ∑ne−βEnWn を考える。各項は、命題 5.5.1 (i) から
∂β∂(e−βEnWn)=−Ene−βEnWn=−H⋆(e−βEnWn)
を満たすので、Bloch 方程式 ∂βΩ=−H⋆Ω の解である。方程式が線形なので和も解で、β=0 の初期値はΩ(0)=2πℏ∑nWn である。演算子の側では ∑n∣n⟩⟨n∣=1(完全性)で、1 の Weyl 記号は 1、W=ρW/(2πℏ) なので
n=0∑∞Wn(x,p)=2πℏ1(5.5.19)
となり、Ω(0)=1 で Bloch 方程式の初期条件と一致する。Bloch 方程式の解は初期値で一意に決まるので、2つの道が同じ Ω に着くことが、計算をやり直さずに分かる。(5.5.19) の左辺は各点で収束する級数ではなく(∣Wn∣ は n が増えても 0 に近づかない点がある)、∑n(−q)nLn で q→1 とする Abel の意味の和である。熱平衡の重み e−βEn が、ちょうどこの和を収束させる役を受け持っている。
もう1つの道は 第5部第2章の例題で、熱平衡の W から位置表示の ⟨x′∣ρ^∣x′′⟩ を復元し、第4部第4章の虚時間の Mehler 核(第3部第3章の Mehler 核で t=−iβℏ としたもの)と照合した。こちらは位置表示の核と Wigner 変換の1対1の対応を使う道で、固有状態を使わない点では Bloch 方程式の道に近い。3つの道を図 5.5.3 にまとめる。

図 5.5.3 熱平衡の Wigner 関数への3つの道。左はスペクトルと Wn を先に作る道(この章)、中央は β の微分方程式を記号の上で解く道、右は位置表示の核を Wigner 変換する道。破線は、重み和の各項が Bloch 方程式の解であること(本文)。
共通例題①の答えを部ごとに並べる
共通例題①の答え En=ℏω(n+21)、Z=1/(2sinh(βℏω/2))、⟨n⟩=1/(eβℏω−1) が、各部でどの道具から出たかを表 5.5.1 に並べる。どの部でも同じ3つの式が出ることは、それぞれの章の検算で正答表と照合されている。違うのは「量子化を決める条件」で、行列力学では正値性、経路積分では跡の周期性、位相空間では積分できること、流体では節を持たない密度が量子ポテンシャルと釣り合うこと、幾何学的量子化では偏極と半形式の補正である。
表 5.5.1 共通例題①の答えが各部でどの道具から出るか。どの行も En=ℏω(n+21)、Z=1/(2sinh(βℏω/2)) に着く。| 構成 | En を決めるもの | 熱平衡(Z・状態) |
| 行列力学(第2部第4章) | [a^,a^†]=1 と ∥a^∣E⟩∥2≥0 | Z は等比級数 |
| 経路積分(第3部第3章) | Mehler 核の跡 ∑ne−iω(n+21)t | t=−iβℏ で Z |
| 密度行列(第4部第4章) | (固有値を借りる) | ρ^=e−βH^/Z、位置表示の核 |
| 位相空間(この章・第5部第3章) | H⋆W=EW が積分できること (5.5.4) | 重み和 (5.5.8)/Bloch 方程式 |
| 第二量子化(第6部第1章) | 場の1つのモード | ⟨nk⟩、Z=∏k |
| 流体(第7部第1章) | v=0 で V+Q=En | (基底状態まで) |
| 代数(第8部第4章) | (CCR 代数の表現) | KMS 条件で c=coth(βℏω/2) |
| 幾何学的量子化(第10部第4章) | 正則偏極と半形式の補正 | (扱わない) |
学部の標準的な授業では、調和振動子は Hermite 多項式の波動関数で解き、Wigner 関数は扱わないか、W0 の Gauss 関数を見せるだけのことが多い。この章の Wn は、その波動関数 ψn を定義の積分に入れれば得られるもの(例題 5.5.1)で、Hermite 多項式の2つの積の Fourier 変換が Laguerre 多項式1つになる、という積分の公式を位相空間の側から言い直したものでもある。共通例題②は 第2部第3章(Heisenberg 方程式)・第4部第5章(Lindblad)・第9部第4章(一般確率論の Bloch 球)と、共通例題③は 第5部第2章(W の剪断)と対応する。
例題 5.5.6 完全性の Abel 和と、重み和の初期値 ★★
オリジナル
- (1) 母関数 (5.5.7) を使い、0<q<1 で e−u∑n(−q)nLn(2u) を閉じた形で求め、q→1 の極限が 21 になることを示せ。これから (5.5.19) を導け。
- (2) (1) の極限が、熱平衡の Ω=2πℏZWβ の β→0 の極限と同じものであることを示せ。
解答
(1) t=−q、z=2u として
e−un∑(−q)nLn(2u)=1+q1exp(−u+1+q2qu)=1+q1exp(−u1+q1−q) q→1 21.
Wn=πℏ(−1)ne−uLn(2u) なので ∑nWn=πℏ1⋅21=2πℏ1(Abel の意味)。u=1.3 で q=0.99, 0.999 の和は 0.4992, 0.4984 で、収束は u(1−q)/2 の桁でゆっくり進む。
(2) q=e−s とすると 1+q1−q=tanh2s なので、(1) から 2πℏ∑nqnWn=1+q2e−utanh(s/2) である。一方 Ω=2πℏ∑ne−s(n+21)Wn は、これに零点のエネルギーの重み e−s/2 を掛けたもので、Ω=1+e−s2e−s/2e−utanh(s/2)=cosh(s/2)1e−utanh(s/2) となり、第5部第3章の Bloch 方程式の解と同じ形になる。s→0 で q→1 なので、Abel 和の極限と高温の極限は同じ極限で、Ω(0)=1 は完全性 (5.5.19) の別の書き方である。
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