量子力学の様々な構成方法 第7部 第2章 §7.2.4 ★★★ 古典の流れの軌道が交わる焦点では密度が発散し、そこで量子ポテンシャルのエネルギーは古典のエネルギーと同じ大きさになる。束縛状態の定在波では Q が ℏ→0 でも小さくならず、局所的に平均した密度だけが古典に近づく
焦点:軌道が交わると ρ が発散する
(7.2.9) で見たとおり、古典の流れの密度は Jacobi 行列式 J が 0 になる所で発散する。J=0 は、隣り合う軌道どうしが交わって小さな体積が 0 になる点で、光学にならって焦点(多次元では軌道の包絡面で、火線とも呼ぶ)という。焦点を過ぎると、1つの点に複数の軌道が着くので、位置の関数としての運動量 ∇S が多価になる。(7.2.2) は単一運動量の流れの方程式なので、焦点の先ではそもそも解が1価の関数として定まらない。
具体例として、調和ポテンシャル V=21mω2x2 の中で、時刻 0 に静止した(S0=0)幅 σ0 のガウス分布を考える。古典の軌道は x(t)=x0cosωt で、どの x0 から出た粒子も ωt=π/2 で原点に集まる。J=cosωt なので、古典の流れの幅は σcl(t)=σ0∣cosωt∣ で、焦点で 0 になる。量子の幅は前の章の総合問題(第7部第1章)と同じ方程式 σ¨+ω2σ=ℏ2/(4m2σ3) の解で、σ(0)=σ0、σ˙(0)=0 から
σ(t)2=σ02cos2ωt+(σ0σg2)2sin2ωt,σg2=2mωℏ(7.2.14)
となる(σg は基底状態の幅。代入して確かめた)。焦点 ωt=π/2 での幅は σg2/σ0 で、0 にならない。σ0≫σg のとき、量子と古典の幅が目に見えて違うのは焦点の前後の短い時間だけである(図 7.2.1)。

図 7.2.1 調和ポテンシャルの中で静止から放したガウス分布(σ0=3σg)。灰色の細線は古典の軌道、実線は Q を無視した流れの幅 ±σcl=±σ0∣cosωt∣(近似)、点線は量子の幅 ±σ(t)(厳密。(7.2.14))。軌道は ωt=π/2 で1点に交わり、古典の幅は 0 になるが、量子の幅は σ0/9 で止まる。
焦点で何が起きているかは、エネルギーの分け方を見ると分かる。前の章で示したとおり、運動エネルギーの期待値は流れのエネルギー ∫ρmv2/2 と量子ポテンシャルのエネルギー ∫ρQ=ℏ2/(8mσ2)(ガウス分布のとき)の和である。時刻 0 では流れが止まっていて、エネルギーは ⟨V⟩=mω2σ02/2 と ∫ρQ=ℏ2/(8mσ02) に分かれている。焦点でも流れは止まる(σ˙=0 なので v=(σ˙/σ)x=0)。そこで
∫ρQ焦点=8mℏ2σg4σ02=2mω2σ02,⟨V⟩焦点=2mω2σ02σg4=8mσ02ℏ2
となり、2つの値がちょうど入れ替わっている。初めに古典の位置エネルギーとして持っていた mω2σ02/2 は、焦点ではすべて量子ポテンシャルのエネルギーになっている。σ0/σg をいくら大きくしても(つまり ℏ/(pL) をいくら小さくしても)この入れ替わりは起きるので、焦点の近くでは Q は無視できない。(7.2.6) の評価が焦点より前の時刻に限られていたのは、この事情による。
ガウス分布は焦点を過ぎても形を保つ特別な例で、一般の ρ0 では焦点の先で複数の軌道の寄与が重なり、密度に干渉の縞が現れる。縞の間隔は de Broglie 波長の桁なので、そこでは (7.2.3) の L が λ と同じになり、Q はやはり無視できない。複数の軌道の寄与を位相つきで足す処方は、流体の2本の式の中には無い。これを持っているのは経路積分の停留位相で、第5節で並べる。
定在波:Q が小さくならない場合
もう1つの場合は束縛状態である。1次元の束縛状態の固有関数は実数に選べるので、位相 S は定数で v=0 になり、量子 HJ 方程式は V+Q=En という静水圧のつり合いになる(第7部第1章の共通例題①)。したがって
Q=En−V(x)
で、これは古典的に許される領域で運動エネルギーと同じ大きさである。ℏ→0(大きい n)にしても、Q は小さくならない。
理由は、実数の固有関数が右向きと左向きの2つの WKB の波の重ね合わせだからである。転回点から離れた所でψn≈(2C1/2/p)cos(ℏ1∫xpdx′−4π) と書け、
ρn≈p(x)4Ccos2(ℏ1∫xpdx′−4π)
となる。密度は波長 λ/2 の周期で 0 と最大値の間を振動し、密度の変わる長さ L は λ と同じ桁である。(7.2.3) の比が小さくならないのはこのためで、1つの点に運動量 +p と −p の2つの流れがある状態を、単一運動量の流体は v=0 と大きな Q で書くしかない。
それでも、振動を数波長の幅で平均すると cos2 が 1/2 になり、平均した密度は 2C/p(x)、つまり (7.2.11) の古典の滞在時間の密度に近づく。ρn は各点で古典の密度に収束するのではなく、区間の上の確率として(弱い意味で)収束する。図 7.2.2 は調和振動子の n=20 でこれを示している。

図 7.2.2 調和振動子の n=20 の密度(点線・厳密)と、同じエネルギーの古典粒子の滞在時間の密度(実線・Q を無視した近似)。縦の破線は古典の転回点 ξ=±41。量子の密度は波長の半分の周期で振動し、各点では古典の密度に近づかないが、数波長の幅で平均すると実線に乗る。
例題 7.2.4 調和振動子の高い準位の密度を区間で比べる ★★★
オリジナル調和振動子のエネルギー En=ℏω(n+21) の固有状態を考える。ξ=xmω/ℏ を使う。
- 同じエネルギーの古典粒子の振幅 A(ξ の単位)と、滞在時間の密度 Pcl(ξ) を求めよ。
- 古典粒子が ∣ξ∣<A/2 にいる確率を求めよ。
- 数値積分によると、量子の固有状態で ∣ξ∣<A/2 にいる確率は n=20 で 0.3436、n=100 で 0.3321 である。(2) と比べ、何が言えるか。
- n=100 の中心で、局所的な波長 2π/A の幅で ∣ψn∣2 を平均した値は 0.02245 である。Pcl(0) と比べよ。
解答
(1) ξ の単位で H/(ℏω)=21(η2+ξ2)(η は同じく無次元にした運動量)なので、η=0 になる振幅は A2=2n+1、A=2n+1 である。軌道 ξ=Asinθ(θ=ωt)で θ が一様に回るので、Pcl(ξ)dξ=dθ/π(半周期 π で ξ の区間を1回ずつ通る)から
Pcl(ξ)=π1dξdθ=πA2−ξ21
である。これは (7.2.11) の C/p を規格化したものになっている。
(2) ∫−A/2A/2Pcldξ=π2arcsin21=π2⋅6π=31 である。
(3) n=20 で差 0.010、n=100 で差 −0.0012 で、n を大きくすると 1/3 に近づく。区間の幅 A は波長 2π/A の A2/(2π) 倍、つまり多数の波長を含むので、区間の端での振動の切れ端の分だけがずれとして残り、その割合は n とともに小さくなる。区間の上の確率は古典に近づくが、これは各点の密度が近づくこととは違う。
(4) Pcl(0)=1/(πA)=1/(π201)=0.02245 で、1波長の平均と4桁一致する。一方、∣ψ100(0)∣2 そのものは振動の山にあって、この値の約2倍である。
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