量子力学の様々な構成方法 第7部 第6章 §7.6.6 ★★★ 各構成の2時刻の相関を1つの表に並べ、基底状態の Nelson の相関を解析接続すると基準の実時間の相関が両向きに取り戻せることを示す
2時刻の相関の表
共通例題①の熱平衡(T=0 を含む)の2時刻の位置の相関を、この巻の構成ごとに並べる。
表 7.6.3 共通例題①の2時刻の位置の相関を構成ごとに並べたもの。t=0 ではすべて 2nˉ+1 で一致する。| 構成 | 2時刻の位置の相関(σg2 を掛ける) | 置き場 |
| 基準(実時間) | C(t)=(nˉ+1)e−iωt+nˉeiωt | 第2部第3章 |
| 基準の対称化した相関 | ReC(t)=(2nˉ+1)cosωt | この章 (7.6.8) |
| 虚時間の経路積分 | G(τ)=(nˉ+1)e−ωτ+nˉeωτ=C(−iτ) | 第3部第6章 |
| 位相空間(Wigner 関数を Liouville で運ぶ) | (2nˉ+1)cosωt | 第5部第3章 |
| Bohm (A) / (B) | 2nˉ+1 / 2nˉcosωt+1 | 第7部第4章 |
| Nelson (A) / (B) | 2nˉ+1→1.387 (βℏω=1) / 2nˉcosωt+e−ω∣t∣ | この章 |
| Nelson の基底状態 (T=0) | e−ω∣t∣=G(∣t∣)β→∞ | 第7部第5章・この章 |
表から3つのことが読める。第一に、基準の実時間の相関 C(t) と虚時間の相関 G(τ) は t=−iτ の解析接続で移り合い(G(τ) は第3部第6章で求めたσg2cosh(ω(τ−βℏ/2))/sinh(βℏω/2) を指数関数に分けたもの)、G(βℏ−τ)=G(τ) が第8部第4章の KMS 条件に当たる(第8部第4章)。第二に、2次の H^ では Moyal 方程式が Liouville 方程式に一致するので(第5部第3章)、Wigner 関数を古典の流れで運んだ相関は基準の対称化した相関に厳密に一致する。(x,p) の上の確率過程なら、第3節の Doob の定理の制約を受けない。第三に、Nelson の基底状態の相関は、基準の相関の実時間でなく虚時間の値に一致する。最後の点を命題にする。
両向きの橋
命題 7.6.4(Nelson の基底状態の相関と基準の相関 ★★★)
H^ が孤立した正の基底状態 ψ0 を持つとする。有界な f, g について、
- (i) (基準 → Nelson)定常な基底状態の Nelson の過程の2時刻の相関は、t≥0 で
E[f(X(0))g(X(t))]=⟨ψ0∣f(x^)e−(H^−E0)t/ℏg(x^)∣ψ0⟩(7.6.13)
で、基準の相関 Bfg(t)=⟨ψ0∣f(x^)e−i(H^−E0)t/ℏg(x^)∣ψ0⟩=⟨ψ0∣f(x^H(t))g(x^)∣ψ0⟩ の時間を t→−it に置き換えた Bfg(−it) に等しい。2. (ii) (Nelson → 基準)逆に、t>0 のすべてで (7.6.13) の左辺が分かれば、右辺は複素数 z の関数 ⟨ψ0∣fe−(H^−E0)z/ℏg∣ψ0⟩ として Rez>0 で正則なので、一致の定理によりその値は一意に延長でき、Rez→0 の境界値として基準の実時間の相関が取り戻せる。
証明
(i) 推移密度 (7.6.6) と定常分布 ψ02 からE[f(X(0))g(X(t))]=∬ψ0(x)2f(x)pt(x→y)g(y)dxdy=∬ψ0(x)f(x)eE0t/ℏ⟨y∣e−H^t/ℏ∣x⟩ψ0(y)g(y)dxdyで、これは (7.6.13) の右辺を位置表示で書いたもの(核の対称性 ⟨y∣⋅∣x⟩=⟨x∣⋅∣y⟩ を使った)である。e−(H^−E0)t/ℏ の t を it に置けば実時間の発展になる。(ii) H^−E0≥0 なので e−(H^−E0)z/ℏ は Rez>0 で有界な正則関数の族で、Rez≥0 で連続である(第3部第6章の解析接続の命題と同じ)。正の実軸の上で値が決まった正則関数は一致の定理で一意に定まり、境界 z=it での値が基準の相関になる。
例題 7.6.6 Nelson の相関から基準の相関を取り戻す ★★
オリジナル共通例題①の基底状態で、Nelson の過程の相関 E[X(0)2X(t)2] を求め、命題 7.6.4 の (ii) の解析接続で基準の ⟨0∣x^H(t)2x^2∣0⟩ を作れ。同じことを第1励起状態の Nelson の過程(例題 7.6.3)でしようとすると何が起きるか。
解答
定常な Ornstein–Uhlenbeck 過程では (X(0),X(t)) は分散 σg2・相関係数 e−ωt の2次元ガウス分布なので、Isserlis の公式(Gauss 分布の4次のモーメントを2次の積の和に分ける公式)からE[X(0)2X(t)2]=σg4(1+2e−2ωt)。t→it と置くと σg4(1+2e−2iωt) になる。基準では x^2∣0⟩=σg2(∣0⟩+2∣2⟩) なので ⟨0∣x^H(t)2x^2∣0⟩=σg4(1+2e−2iωt) で、一致する。指数 e−2ωt の 2ω は、x^2 が基底状態をつなぐ先 ∣2⟩ との励起エネルギーで、Nelson の相関の減衰の速さが基準のスペクトルをそのまま運んでいる。
第1励起状態の Nelson の相関 C1(t)=∑kck2e−(k−1)ωt を同じく接続すると ∑kck2e−i(k−1)ωt になる。これは Dirichlet 条件を課した半直線の振動子の相関で、基準の σg2(eiωt+2e−iωt) とは違う(t=0 の値は同じ 3σg2 だが、周波数が 0,2ω,4ω,… で、基準の ±ω と合わない)。節で区切られた過程が知っているのは H^D であって H^ ではないので、命題の前提(正の基底状態)が外れると橋は架からない。
地図

図 7.6.2 この章の橋。両矢印は両向きに示した同値。基準と Nelson の過程は、虚時間の経路積分と Feynman–Kac の公式と Doob の変換の3段を経てつながり、その途中で時間が実から虚へ回る。測らない相関は基準の虚時間の相関に等しく、測定を入れた過程の統計は基準の実時間の対称化した相関に等しい。
Nelson の構成の「時間」を、基準のどの時間と読むべきかがこの橋で分かる。1時刻の分布と、測定を挟んだ多時刻の統計については、Nelson の時間は基準の実時間と同じである(等変性と第4節)。一方、測らない道筋の多時刻の相関については、Nelson の時間は基準の虚時間に当たる(命題 7.6.4)。Nelson の過程が基準と同じ1時刻の分布を持ちながら相関では違うのは、1本の過程の中で、各時刻の分布が実時間の発展に従い、時刻の間の推移が虚時間の発展に従うからである。複素の波動関数の非定常な状態では、Nelson の過程を虚時間の経路積分の Doob の変換として書くことはできない。それを補う試みとして、J.-C. Zambrini は時間の両端に条件を課した拡散(Bernstein 過程)で「Euclid の量子力学」を組み立てた(J.-C. Zambrini (1986), Journal of Mathematical Physics 27, 2307–2330)。
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