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KMS 条件の定義と性質

2026年10月17日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第8部 第4章 熱平衡と相転移:KMS 条件
目次
  1. 定義
  2. KMS 状態は時間で変わらない
  3. 振動数で見た詳細つり合い
  4. KMS 状態の集合
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第8部 第4章 §8.4.2 ★★★ 一般の C*代数の上で、時間相関が帯状の領域で解析的につながることを熱平衡の定義にする。定義から時間不変性と振動数の詳細つり合いが出る

定義

無限系では e−βH^\mathrm{e}^{-\beta\hat H} が代数の元でないので、αiβℏ(B)\alpha_{\mathrm{i}\beta\hbar}(B) をそのまま書くことはできない。そこで (8.4.4) の形、つまり実時間の相関関数の解析接続として条件を書く。

定義 8.4.2(KMS 状態 ★★★)

A\mathfrak A を C*代数、αt\alpha_t を A\mathfrak A の *自己同型の1径数群(t↦αt(A)t\mapsto\alpha_t(A) がノルムで連続)、β>0\beta>0 とする。状態 ω\omega が (α,β)(\alpha,\beta)-KMS 状態であるとは、任意の A,B∈AA,B\in\mathfrak A に対して、帯 {z∈C:0≤Im⁡z≤βℏ}\{z\in\mathbb{C}:0\le\operatorname{Im} z\le\beta\hbar\} の上で有界かつ連続で、内部 0<Im⁡z<βℏ0<\operatorname{Im} z<\beta\hbar で正則な関数 FAB(z)F_{AB}(z) があり、実数 tt について

FAB(t)=ω(A αt(B)),FAB(t+iβℏ)=ω(αt(B) A)(8.4.5)F_{AB}(t)=\omega\bigl(A\,\alpha_t(B)\bigr),\qquad F_{AB}(t+\mathrm{i}\beta\hbar)=\omega\bigl(\alpha_t(B)\,A\bigr)\tag{8.4.5}

を満たすことをいう。

有限次元では FAB(z)=ωβ(Aαz(B))F_{AB}(z)=\omega_\beta(A\alpha_z(B)) がこの条件を満たし、定理 8.4.1 により KMS 状態は Gibbs 状態に限る。帯の幅が βℏ\beta\hbar であることは、Boltzmann 因子 e−βH^\mathrm{e}^{-\beta\hat H} が「虚数時間 βℏ\beta\hbar の発展」であることを映している。ℏ\hbar を消した単位系の文献では幅を β\beta と書く。z=t+isz=t+\mathrm{i} s で FAB(z)F_{AB}(z) が有界になることは、有限次元では Tr⁡(e−(β−s/ℏ)H^A e−sH^/ℏαt(B))\operatorname{Tr}\bigl(\mathrm{e}^{-(\beta-s/\hbar)\hat H}A\,\mathrm{e}^{-s\hat H/\hbar}\alpha_t(B)\bigr) の2つの指数がどちらも減衰の向き(0≤s≤βℏ0\le s\le\beta\hbar)であることに対応する。帯の外へ出ると片方の指数が増大の向きになり、無限系では有界性が失われる。

図

図 8.4.1 KMS 条件の帯。実軸の上の値が AA を左に置いた時間相関、上の縁の値が AA を右に置いた時間相関で、その間を正則な関数がつなぐ。縦の破線は虚時間 τ∈[0,βℏ]\tau\in[0,\beta\hbar] の方向で、第8.4.6節で虚時間の経路積分の周期境界条件と対応させる。

KMS 状態は時間で変わらない

命題 8.4.3(KMS 状態の時間不変性 ★★★)

(α,β)(\alpha,\beta)-KMS 状態 ω\omega は ω∘αt=ω\omega\circ\alpha_t=\omega を満たす。

証明

A=1A=1 とおく。F(z)≔F1B(z)F(z)\coloneqq F_{1B}(z) は帯の上で有界・連続、内部で正則で、実軸で F(t)=ω(αt(B))F(t)=\omega(\alpha_t(B))、上の縁で F(t+iβℏ)=ω(αt(B))F(t+\mathrm{i}\beta\hbar)=\omega(\alpha_t(B)) である。つまり下の縁と上の縁で同じ値をとる。そこで F(z+iβℏk)≔F(z)F(z+\mathrm{i}\beta\hbar k)\coloneqq F(z)(k∈Zk\in\mathbb{Z})として帯を縦に並べてつなぐと、縁の値が一致するので連続な関数が複素平面全体にでき、縁をまたいでも正則になる(Painlevé の定理:連続な関数が直線の両側で正則なら直線の上でも正則)。こうしてできた関数は整関数で、各帯で有界だから全体で有界である。Liouville の定理により定数で、ω(αt(B))=ω(B)\omega(\alpha_t(B))=\omega(B) がすべての tt で成り立つ。

熱平衡が時間で変わらないことは、基準の書き方では [ρ^β, H^]=0\left[\hat\rho_\beta,\,\hat H\right]=0 から出る当たり前のことだった。KMS の書き方では、虚数方向の周期性と Liouville の定理から出る。時間不変な状態は熱平衡に限らない(どの固有状態も不変である)ので、逆は成り立たない。

振動数で見た詳細つり合い

KMS 条件を Fourier 変換すると、物理の言葉で読みやすい形になる。時間の Fourier 変換を記法の正本どおり f~(ν)=∫dt f(t) eiνt\tilde f(\nu)=\int\mathrm{d} t\,f(t)\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\nu t}、f(t)=∫dν2πf~(ν)e−iνtf(t)=\int\frac{\mathrm{d}\nu}{2\pi}\tilde f(\nu)\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\nu t} とし(振動数の変数を ν\nu と書くのは、ω\omega を状態に使っているため)、

GAB>(t)≔ω(A αt(B)),GAB<(t)≔ω(αt(B) A)(8.4.6)G^>_{AB}(t)\coloneqq\omega\bigl(A\,\alpha_t(B)\bigr),\qquad G^<_{AB}(t)\coloneqq\omega\bigl(\alpha_t(B)\,A\bigr)\tag{8.4.6}

とおく。KMS 条件は GAB<(t)=GAB>(t+iβℏ)G^<_{AB}(t)=G^>_{AB}(t+\mathrm{i}\beta\hbar) で、Fourier 表示に入れると e−iν(t+iβℏ)=eβℏνe−iνt\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\nu(t+\mathrm{i}\beta\hbar)}=\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\nu t} なので

G~AB<(ν)=eβℏν G~AB>(ν)(8.4.7)\tilde G^<_{AB}(\nu)=\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu}\,\tilde G^>_{AB}(\nu)\tag{8.4.7}

を得る。有限次元で確かめると、H^\hat H の固有基底 ∣m⟩| m \rangle(固有値 EmE_m)で GAB>(t)=∑m,kpmAmkBkmei(Ek−Em)t/ℏG^>_{AB}(t)=\sum_{m,k}p_mA_{mk}B_{km}\mathrm{e}^{\mathrm{i}(E_k-E_m)t/\hbar} なので、e−iνt\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\nu t} の振動数は ν=(Em−Ek)/ℏ\nu=(E_m-E_k)/\hbar である。同じ振動数の G<G^< の係数は pkBkmAmkp_kB_{km}A_{mk} で、比は pk/pm=e−β(Ek−Em)=eβℏνp_k/p_m=\mathrm{e}^{-\beta(E_k-E_m)}=\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu} と (8.4.7) に一致する。ν<0\nu<0 の成分(系がエネルギー ℏ∣ν∣\hbar\lvert \nu\rvert を受け取る向きの遷移)は、ν>0\nu>0 の成分と Boltzmann 因子の比で結ばれる。これが詳細つり合いで、前の章で見た振動子の時間相関 Fβ(t)F_\beta(t) の ±ω\pm\omega の重みの比 e−βℏω\mathrm{e}^{-\beta\hbar\omega}(第8部第2章)はこの式の1つの例である。

(8.4.7) から、交換子と対称化した相関の比が決まる。SAB=12(G>+G<)S_{AB}=\tfrac12(G^>+G^<)、CAB=G>−G<C_{AB}=G^>-G^<(交換子の期待値 ω([A, αt(B)])\omega(\left[A,\,\alpha_t(B)\right]))とすると

C~AB(ν)=(1−eβℏν)G~AB>(ν),S~AB(ν)=12(1+eβℏν)G~AB>(ν),C~AB(ν)=−2tanh⁡(βℏν2)S~AB(ν)(8.4.8)\begin{gathered} \tilde C_{AB}(\nu)=\bigl(1-\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu}\bigr)\tilde G^>_{AB}(\nu),\qquad\tilde S_{AB}(\nu)=\tfrac12\bigl(1+\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu}\bigr)\tilde G^>_{AB}(\nu),\\ \tilde C_{AB}(\nu)=-2\tanh\Bigl(\frac{\beta\hbar\nu}{2}\Bigr)\tilde S_{AB}(\nu) \end{gathered}\tag{8.4.8}

である。交換子の期待値は線形応答の応答関数(散逸)を、対称化した相関はゆらぎを与えるので、(8.4.8) は揺動散逸定理の形をしている。Kubo が線形応答の理論で導いた関係は、KMS 条件を振動数で書いたものにあたる。

例題 8.4.2 量子ビットの σz\sigma_z の相関で詳細つり合いを確かめる ★★

オリジナル例題 8.4.1 の熱平衡状態で、A=B=σzA=B=\sigma_z とする。

  1. (1) σz\sigma_z を n⋅σ\bm{n}\cdot\bm{\sigma} と、それに垂直な成分 e⊥⋅σ\bm{e}_\perp\cdot\bm{\sigma}(e⊥=(0.8,0,−0.6)\bm{e}_\perp=(0.8,0,-0.6))に分け、G>(t)G^>(t) と G<(t)G^<(t) を求めよ。
  2. (2) 振動数 ν=±Ω′\nu=\pm\Omega' の成分で (8.4.7) を確かめよ。
  3. (3) 対称化した相関 S(t)S(t) と交換子の期待値 C(t)C(t) を求め、(8.4.8) の比 −2tanh⁡(βℏν/2)-2\tanh(\beta\hbar\nu/2) を ν=−Ω′\nu=-\Omega' の成分で数値で確かめよ。
解答

(1) n⋅z^=0.8\bm{n}\cdot\hat{\bm{z}}=0.8、e⊥⋅z^=−0.6\bm{e}_\perp\cdot\hat{\bm{z}}=-0.6 なので σz=0.8 n⋅σ−0.6 e⊥⋅σ\sigma_z=0.8\,\bm{n}\cdot\bm{\sigma}-0.6\,\bm{e}_\perp\cdot\bm{\sigma}。n⋅σ\bm{n}\cdot\bm{\sigma} は H^\hat H と可換で時間で変わらず、e⊥⋅σ\bm{e}_\perp\cdot\bm{\sigma} は固有基底で非対角(∣g′⟩⟨e′∣+∣e′⟩⟨g′∣| g' \rangle \langle e' |+| e' \rangle \langle g' | に位相を除いて等しい)で、αt\alpha_t により ∣e′⟩⟨g′∣→eiΩ′t∣e′⟩⟨g′∣| e' \rangle \langle g' |\to\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}| e' \rangle \langle g' | と回る。状態は固有基底で対角なので、交差項 ω((n⋅σ)(e⊥⋅σ))\omega\bigl((\bm{n}\cdot\bm{\sigma})(\bm{e}_\perp\cdot\bm{\sigma})\bigr) は 00 である。残りは

G>(t)=0.64 ω((n⋅σ)2)+0.36(pg′eiΩ′t+pe′e−iΩ′t)=0.64+0.36(0.9 eiΩ′t+0.1 e−iΩ′t).G^>(t)=0.64\,\omega\bigl((\bm{n}\cdot\bm{\sigma})^2\bigr)+0.36\bigl(p_{g'}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}+p_{e'}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\Omega't}\bigr)=0.64+0.36\bigl(0.9\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}+0.1\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\Omega't}\bigr).

第2項は、∣g′⟩| g' \rangle から出発して ∣e′⟩| e' \rangle を経て戻る経路(重み pg′p_{g'}、位相 ei(Ee′−Eg′)t/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i}(E_{e'}-E_{g'})t/\hbar})と、その逆の経路の和である。順序を入れ替えると重みが入れ替わり

G<(t)=0.64+0.36(0.1 eiΩ′t+0.9 e−iΩ′t).G^<(t)=0.64+0.36\bigl(0.1\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}+0.9\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\Omega't}\bigr).

(2) eiΩ′t=e−iνt\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\nu t} は ν=−Ω′\nu=-\Omega' の成分で、G~</G~>=0.1/0.9=1/9=e−βℏΩ′=eβℏν\tilde G^</\tilde G^>=0.1/0.9=1/9=\mathrm{e}^{-\beta\hbar\Omega'}=\mathrm{e}^{\beta\hbar\nu}。ν=+Ω′\nu=+\Omega' では 0.9/0.1=9=eβℏΩ′0.9/0.1=9=\mathrm{e}^{\beta\hbar\Omega'}。ν=0\nu=0 の成分 0.640.64 は両方に共通で、比は e0=1\mathrm{e}^0=1。どれも (8.4.7) を満たす。

(3) S(t)=0.64+0.36cos⁡Ω′tS(t)=0.64+0.36\cos\Omega't、C(t)=G>−G<=0.36⋅0.8 (eiΩ′t−e−iΩ′t)=0.576 isin⁡Ω′tC(t)=G^>-G^<=0.36\cdot0.8\,(\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Omega't}-\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\Omega't})=0.576\,\mathrm{i}\sin\Omega't。ν=−Ω′\nu=-\Omega' の成分では S~∝0.36/2=0.18\tilde S\propto0.36/2=0.18、C~∝0.288\tilde C\propto0.288 で、比は 0.288/0.18=1.6=−2tanh⁡(−ln⁡3)=2×0.80.288/0.18=1.6=-2\tanh(-\ln3)=2\times0.8。ゆらぎ(S~\tilde S の成分 0.180.18)と応答(C~\tilde C の成分 0.2880.288)の比が温度だけで決まり、2tanh⁡(βℏΩ′/2)=1.62\tanh(\beta\hbar\Omega'/2)=1.6 である。

KMS 状態の集合

定義 8.4.2 は状態について線形なので、β\beta を固定した KMS 状態の2つの凸結合 λω1+(1−λ)ω2\lambda\omega_1+(1-\lambda)\omega_2 もまた KMS 状態である(FABF_{AB} も同じ凸結合をとればよい)。したがって KMS 状態の全体は凸集合をなす。その端点(ほかの KMS 状態の凸結合に分けられないもの)を端点 KMS 状態と呼ぶ。有限次元では定理 8.4.1 により集合は1点で、端点もそれ1つである。無限系では集合が2点以上になることがあり、第8.4.5節でそれを相転移と呼ぶ。

もう1つの性質として、β→∞\beta\to\infty の極限で KMS 状態は基底状態(エネルギーを下げる向きの遷移が起こらない状態)に近づく。有限次元では e−βH^/Z\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z が最低固有値の固有空間への射影(を次元で割ったもの)に近づくことに対応する。KMS 状態の理論の数学的な詳細(存在・端点の特徴づけ・基底状態との関係)は Bratteli と Robinson の教科書の第2巻にまとまっている1O. Bratteli and D. W. Robinson, Operator Algebras and Quantum Statistical Mechanics 2, Springer (1981;第2版 1997)。下の脚注へ。

1 O. Bratteli and D. W. Robinson, Operator Algebras and Quantum Statistical Mechanics 2, Springer (1981;第2版 1997)。

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