量子力学の様々な構成方法 第8部 第4章 §8.4.6 ★★★ 密度行列の Gibbs 状態・代数の KMS 状態・虚時間の経路積分の周期境界条件は同じ熱平衡の3つの書き方で、KMS の帯の幅 βℏ が虚時間の周期にあたる。第二量子化の占有数も KMS 条件の2行で出る
この節でも調和振動子の角周波数を ω と書くので、振動子の状態は φ と書く。
密度行列から代数へ、代数から密度行列へ
定理 8.4.1 が、基準(第4部の密度行列 第4部第4章)と代数の熱平衡の両向きの橋である。並べて書くと
第4部:密度行列ρ^β=Ze−βH^, ⟨A⟩=Tr(ρ^βA)⟺第8部:KMS 条件ω(Aαiβℏ(B))=ω(BA) (∀A,B)(8.4.20)
で、左から右はトレースの巡回性、右から左は「すべての行列と可換な行列はスカラー」である。有限次元ではどちらから出発しても同じ1つの状態に行き着く。無限系では左の書き方が失われ、右の書き方だけが残る。第8.4.4節の熱力学極限の結果 (b) は、左の書き方の極限が右の書き方に入ることを保証している。
虚時間の経路積分の周期境界条件
KMS の帯の上の関数 FAB を縦の線 z=iτ(0≤τ≤βℏ)に制限すると、虚時間の相関関数になる。振動子の位置の場合、x^H(t)=x^cosωt+p^sinωt/(mω) と φβ(x^2)=cℏ/(2mω)、φβ(x^p^)=iℏ/2(対称化した部分 x^p^+p^x^ の期待値は 0)からF(t)=φβ(x^αt(x^))=2mωℏ(ccosωt+isinωt) で、t=iτ を入れて (8.4.13) を使うと
K(τ):=F(iτ)=2mωℏ(ccoshωτ−sinhωτ)=2mωℏsinh(βℏω/2)cosh(ω(τ−βℏ/2))(8.4.21)
を得る。KMS 条件は K(βℏ)=φβ(x^x^)=K(0) を与え、K(τ) は τ=βℏ/2 について対称である。これは、虚時間 τ の上で周期 βℏ の周期関数として延ばせることを意味する。
一方、第3部では虚時間の経路積分で分配関数を Z=∮Dxe−SE[x]/ℏ(x(0)=x(βℏ) の周期境界条件つき)と書き、その経路積分の中の相関 ⟨x(τ)x(0)⟩ が (8.4.21) と同じ形になる(第3部第6章)。経路積分の周期境界条件は、トレース Tre−βH^=∫dx⟨x∣e−βH^∣x⟩ で始めと終わりの位置を同じ x にそろえて積分することを経路の言葉で書いたもので、KMS 条件はトレースを使わずに同じ周期性を状態の性質として述べたものである。対応をまとめると次のようになる。
経路積分(第3部)虚時間の周期 βℏ、x(0)=x(βℏ)⟨x(τ)x(0)⟩経路積分⟷⟷代数(第8部)KMS の帯の幅 βℏ、FAB(t+iβℏ)=ω(αt(B)A)Fxx(iτ)=φβ(x^αiτ(x^))
虚時間の相関から実時間の相関を取り出す操作(解析接続)は、帯の中の正則な関数を縦の線から実軸へ延ばすことで、KMS 条件はその解析接続ができることも保証している。
第二量子化の占有数
第8.4.3節の2行の計算は、第二量子化の1つのモードにそのまま使える。ボース粒子のモード(エネルギー ℏω)では αt(a^)=e−iωta^、フェルミ粒子のモード(エネルギー ε)では αt(c^)=e−iεt/ℏc^ で、KMS の関係に A=a^†(c^†)、B=a^(c^)を入れると
eβℏω⟨a^†a^⟩=⟨a^a^†⟩=⟨a^†a^⟩+1,eβε⟨c^†c^⟩=⟨c^c^†⟩=1−⟨c^†c^⟩(8.4.22)
になる。右側の等号が交換子 [a^,a^†]=1 と反交換子 {c^,c^†}+=1 の違いで、解くと
⟨a^†a^⟩=eβℏω−11,⟨c^†c^⟩=eβε+11
と Bose 分布と Fermi 分布が出る(化学ポテンシャル μ を入れるときは ℏω→ℏω−μ、ε→ε−μ と時間発展を取り替える)。第6部では大分配関数のトレースから同じ分布を出す(第6部第5章)。ここでは分布の違いが「交換か反交換か」という代数の関係だけから出ることが見える。CAR 代数は有界なので、フェルミ粒子の側の計算は形式的でなく、そのまま厳密である。
例題 8.4.6 虚時間の相関と Fermi 分布 ★★
オリジナル
- (1) 振動子で βℏω=ln2 のとき、K(0) と K(βℏ/2) を ℏ/(2mω) を単位に求めよ。
- (2) 例題 8.4.1 の量子ビットで Kσ(τ)=ω(σzαiτ(σz)) を例題 8.4.2 の G> から求め、Kσ(0)=Kσ(βℏ) を確かめ、Kσ(βℏ/2) を求めよ。
- (3) フェルミ粒子のモードで βε=ln3 のとき、(8.4.22) から占有数を求めよ。
解答
(1) 例題 8.4.3 から c=3。K(0)=c=3、K(βℏ/2)=1/sinh(ln2/2)=22=2.83(どちらも ℏ/(2mω) 単位)。τ=0 で最大、τ=βℏ/2 で最小になり、τ=βℏ で再び 3 に戻る。
(2) G>(t)=0.64+0.36(0.9eiΩ′t+0.1e−iΩ′t) に t=iτ を入れると Kσ(τ)=0.64+0.36(0.9e−Ω′τ+0.1eΩ′τ)。Kσ(0)=0.64+0.36=1。eΩ′βℏ=9 なので Kσ(βℏ)=0.64+0.36(0.9/9+0.1×9)=0.64+0.36=1 で一致する。eΩ′βℏ/2=3 なので Kσ(βℏ/2)=0.64+0.36(0.3+0.3)=0.856。
(3) eln3n=1−n から n=1/4。Fermi 分布 1/(eln3+1)=1/4 と一致する。ボース粒子で βℏω=ln2 なら 2n=n+1 から n=1 で、例題 8.4.3 の値と同じである。
この章の橋の一覧

図 8.4.4 熱平衡の書き方どうしの橋。密度行列と KMS 状態は有限次元で同値、無限系では KMS 状態だけが残り、そこで初めて相(端点 KMS 状態)が複数になりうる。
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