量子力学の様々な構成方法 第8部 第4章 §8.4.3 ★★★ 振動子の CCR 代数の Gauss 型の不変な状態は1径数の族をなし、KMS 条件がその中から熱平衡を1つ選ぶ。そこから占有数・エネルギー・分配関数が出る
この節では調和振動子の角周波数を ω と書くので、状態を φ と書く。
Gauss 型の不変な状態の族
観測量の代数は、前の章の CCR 代数 W(R2) で、元は Weyl 演算子 W(a,b)=ei(ap^+bx^)/ℏ である(第8部第3章)。無次元の座標 X=amω/ℏ、Y=b/mωℏ を使い、複素数 ζ:=X+iY で z=(a,b) を表す。前の章の無次元の長さは ∣z∣ω2=X2+Y2=∣ζ∣2、シンプレクティック形式は s(z1,z2)/ℏ=X1Y2−Y1X2=Im(ζˉ1ζ2) と書ける。時間発展 αt(W(z))=W(z(t)) は、第8部第2章の式で (a,b) を回すもので、ζ の言葉では
ζ(t)=ζe−iωt(8.4.9)
になる(X(t)=Xcosωt+Ysinωt、Y(t)=Ycosωt−Xsinωt をまとめたもの)。
正の数 c を1つ選び、
φc(W(z))=exp(−4c∣ζ∣2)(8.4.10)
で状態を定める。c=1 は第8部第2章の基底状態の特性関数で、一般の c では x^ と p^ の分散がどちらも基底状態の c 倍になる。∣ζ(t)∣=∣ζ∣ なので、どの c でも φc∘αt=φc で、時間で変わらない。c には下限があり、c<1 では不確定性関係 ⟨x^2⟩⟨p^2⟩≥ℏ2/4 が破れて(8.4.10) は正値な汎関数にならない。したがって c≥1 の1径数の族があり、全部が時間で変わらない状態である。時間不変性だけでは熱平衡は決まらない、という第8.4.2節の注意の具体例になっている。
KMS 条件が c を1つに決める
F(t)=φc(W(z1)αt(W(z2))) を計算する。Weyl の関係 W(z1)W(z2)=eis(z1,z2)/(2ℏ)W(z1+z2) と (8.4.10) から、w:=ζˉ1ζ2e−iωt(=ζˉ1ζ2(t))とおくと ∣ζ1+ζ2(t)∣2=∣ζ1∣2+∣ζ2∣2+2Rew なので
F(t)=Cexp(2iImw−2cRew),C:=exp(−4c(∣ζ1∣2+∣ζ2∣2)).
Imw=(w−wˉ)/(2i)、Rew=(w+wˉ)/2 を入れると、指数は 41[(1−c)w−(1+c)wˉ] になる。wˉ=ζ1ζˉ2eiωt なので、
F(t)=Cexp(4(1−c)ζˉ1ζ2e−iωt−(1+c)ζ1ζˉ2eiωt)(8.4.11)
で、右辺は t を複素数にしてもそのまま意味をもつ整関数である。逆の順序 G(t)=φc(αt(W(z2))W(z1)) では Weyl の関係の位相の符号が逆になり、同じ計算で指数は 41[−(1+c)w+(1−c)wˉ] になる。
KMS 条件は F(t+iβℏ)=G(t) である。t→t+iβℏ で e−iωt は eβℏω 倍、eiωt は e−βℏω 倍になるので、x:=βℏω とおくと条件は
(1−c)ex=−(1+c),−(1+c)e−x=1−c(8.4.12)
の2つで、どちらも同じ1つの式である。c について解くと c(ex−1)=ex+1、すなわち
c=eβℏω−1eβℏω+1=coth2βℏω(8.4.13)
で、c はただ1つに決まる。これは第8部第2章で熱平衡状態の特性関数として与えた coth(βℏω/2) 倍そのものである。あちらでは密度行列 e−βH^/Z から計算した値を状態として置いたが、ここでは時間不変な状態の族の中から KMS 条件だけで選び出した。
占有数・エネルギー・分配関数
(8.4.10) を b で2回微分すると φc(x^2)=cℏ/(2mω)、a で2回微分すると φc(p^2)=cmℏω/2 が出る(第8部第2章の例題の (1) と同じ手順)。したがって
φβ(H^)=2ℏωcoth2βℏω,φβ(a^†a^)=2c−1=eβℏω−11(8.4.14)
で、共通例題①の占有数 ⟨n⟩=1/(eβℏω−1) が出る。分配関数は、第8部第2章で見たとおり −∂lnZ/∂β=φβ(H^) を積分し、β→∞ で基底状態のエネルギー ℏω/2 だけが残る条件で積分定数を決めると Z=1/(2sinh(βℏω/2)) になる。β→∞ では c→1 で、KMS 状態は基底状態 φ0 に近づく。
占有数は KMS 条件からもっと短く出すこともできる。CCR 代数の正則な表現の中で a^ を作り直すと(前の章の Stone–von Neumann の定理)、αt(a^)=e−iωta^ なので形式的に αiβℏ(a^)=eβℏωa^ である。KMS の関係 (8.4.3) に A=a^†、B=a^ を入れると
eβℏωφβ(a^†a^)=φβ(a^a^†)=φβ(a^†a^)+1
で、ただちに φβ(a^†a^)=1/(eβℏω−1) を得る。a^ は非有界なのでこれは厳密な証明でなく、(8.4.13) の計算がその裏付けにあたる。同じ2行の計算はフェルミ粒子にも使え、第8.4.6節で Fermi 分布を出す。
例題 8.4.3 βℏω=ln2 の振動子を KMS 条件だけで解く ★★★
オリジナル共通例題①の振動子で βℏω=ln2 とする。
- (1) (8.4.13) から c を求め、φβ(a^†a^)、φβ(H^)、Z を出せ。
- (2) c=2 の Gauss 型の状態は時間で変わらないが KMS 状態でないことを、(8.4.12) で確かめよ。この状態はどの温度の KMS 状態か。
- (3) 前の章の例題で求めた真空への射影の期待値 φβ(P)=1−e−βℏω と (1) の値が、基準の Boltzmann 分布と矛盾しないことを確かめよ。
解答
(1) eβℏω=2 なので c=(2+1)/(2−1)=3。(8.4.14) から φβ(a^†a^)=(3−1)/2=1=1/(2−1)、φβ(H^)=3ℏω/2。sinh(ln2/2)=(2−1/2)/2=1/(22) なので Z=1/(2sinh(ln2/2))=2。
(2) βℏω=ln2 のまま c=2 を (8.4.12) に入れると左辺 (1−2)⋅2=−2、右辺 −(1+2)=−3 で等しくない。したがって F(t+iβℏ)=G(t) で、この温度の KMS 状態でない。c=2 を (8.4.13) で解くと ex=(c+1)/(c−1)=3、つまり β′ℏω=ln3 の KMS 状態である。c と温度は1対1に対応し、c を指定することは温度を指定することと同じになる。
(3) Boltzmann 分布 pn=e−βEn/Z では p0=e−ln2/2/2=1/2 で、φβ(P)=1−1/2=1/2 と一致する。平均は ∑nnpn=∑nn(1/2)n+1=1 で (1) の占有数と一致する。
無限個の振動子:Araki–Woods の表現
振動子を番号 k=1,2,… で無限個並べ、どの番号も同じ β の熱平衡にした積状態 φβ⊗∞ を考える。時間発展は番号ごとの回転 (8.4.9) の積で、有限個の番号に台をもつ観測量については、その番号たちの有限次元近似の熱平衡と同じ計算になる。したがって積状態は無限個の振動子の CCR 代数の KMS 状態である。一方、前の章の総合問題の (5) で見たとおり、この状態は真空 φ0⊗∞ の Fock 表現のどの密度行列でも書けない。e−βH^/Z による定義は使えないが、KMS 条件による定義は何の変更もなく使える。この状態の GNS 表現は Araki と Woods が自由なボース気体の熱平衡として構成したもので、Araki–Woods の表現と呼ばれる1H. Araki and E. J. Woods (1963), J. Math. Phys. 4, 637.。
1 H. Araki and E. J. Woods (1963), J. Math. Phys. 4, 637.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com