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相転移:KMS 状態が1つに決まらないこと

2026年10月17日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第8部 第4章 熱平衡と相転移:KMS 条件
目次
  1. 定義
  2. 平均場の模型で相を見る
  3. 自発的対称性の破れは表現の選択
  4. 2次元 Ising 模型との比較
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第8部 第4章 §8.4.5 ★★★ 同じ温度の KMS 状態が複数あることを相転移と定義する。端点の KMS 状態が純粋な相で、自発的対称性の破れは相を1つ選ぶこと、つまり表現を1つ選ぶことになる

定義

定義 8.4.4(相と相転移 ★★★)

(α,β)(\alpha,\beta)-KMS 状態が2つ以上あるとき、その温度で系は相転移を起こしているという。端点 KMS 状態を純粋な相、端点でない KMS 状態を混合相と呼ぶ。

前の節で見たように、有限の系と相互作用の無い無限系では KMS 状態はただ1つで、相転移は起こらない。到達距離が有限の1次元の量子スピン鎖でも、どの温度でも KMS 状態はただ1つであることが証明されている1H. Araki (1975), Commun. Math. Phys. 44, 1.下の脚注へ。相転移には2次元以上の格子か、長距離の相互作用が必要になる。

端点 KMS 状態には、次の特徴づけがある(Bratteli–Robinson 第2巻)。KMS 状態 ω\omega が端点であることと、その GNS 表現の von Neumann 代数 πω(A)′′\pi_\omega(\mathfrak A)'' の中心がスカラーだけ(因子)であることは同値である。中心の元は、すべての観測量と可換な「古典的な」量で、格子の上では巨視的な平均 MNM_N の極限がその代表である。端点の相では巨視的な平均はゆらがず数に収束し、混合相では巨視的な平均が数でない値をとる(どの純粋な相にいるかが確率的に混ざる)。定理 8.4.1 の証明で「すべてと可換な行列はスカラー」を使ったことを思い出すと、相転移は、その性質が無限系の GNS 表現で破れることだと言い換えられる。

平均場の模型で相を見る

具体的に計算できる例として、NN 個のスピンの Curie–Weiss 模型(平均場の Ising 模型)

H^N=−J2N(∑k=1Nσz(k))2(J>0)(8.4.15)\hat H_N=-\frac{J}{2N}\Bigl(\sum_{k=1}^N\sigma_z^{(k)}\Bigr)^2\qquad(J>0)\tag{8.4.15}

をとる。すべてのスピンが同じ強さ J/NJ/N で互いに揃おうとする。H^N\hat H_N は σz\sigma_z だけで書けるので、Gibbs 状態は σz\sigma_z の固有状態の上の古典的な確率分布になる。磁化 MN=1N∑kσz(k)M_N=\frac1N\sum_k\sigma_z^{(k)} の値 mm(N(1+m)/2N(1+m)/2 個が上向き)の確率は

PN(m)∝(NN(1+m)/2)exp⁡(βJNm22)≈exp⁡(−Nβf(m)),βf(m)=−βJ2m2+1+m2ln⁡1+m2+1−m2ln⁡1−m2(8.4.16)\begin{gathered} P_N(m)\propto\binom{N}{N(1+m)/2}\exp\Bigl(\frac{\beta JN m^2}{2}\Bigr)\approx\exp\bigl(-N\beta f(m)\bigr),\\ \beta f(m)=-\frac{\beta J}{2}m^2+\frac{1+m}{2}\ln\frac{1+m}{2}+\frac{1-m}{2}\ln\frac{1-m}{2} \end{gathered}\tag{8.4.16}

である。2つ目の近似は二項係数の Stirling の公式によるもので、f(m)f(m) は磁化を mm に固定したときの1スピンあたりの自由エネルギーにあたる。ff の極小の条件 f′(m)=0f'(m)=0 は βJm=12ln⁡1+m1−m\beta Jm=\tfrac12\ln\frac{1+m}{1-m}、すなわち

m=tanh⁡(βJm)(8.4.17)m=\tanh(\beta Jm)\tag{8.4.17}

で、平均場の自己無撞着方程式である。βJ≤1\beta J\le1 では解は m=0m=0 だけ、βJ>1\beta J>1 では m=0m=0 が極大になり、±m∗\pm m^*(m∗>0m^*>0)の2つの極小が現れる。βJ=1\beta J=1 が転移温度である。

N→∞N\to\infty で PN(m)P_N(m) は極小の位置に集中する。βJ>1\beta J>1 では f(m∗)=f(−m∗)f(m^*)=f(-m^*) なので、+m∗+m^* と −m∗-m^* に半分ずつの重みが乗る(図 8.4.2)。有限の NN の Gibbs 状態の極限は

ωβ=12 ω++12 ω−,ω±=⨂kω±,1,ω±,1(σz)=±m∗(8.4.18)\omega_\beta=\tfrac12\,\omega_+ +\tfrac12\,\omega_-,\qquad\omega_\pm=\bigotimes_k\omega_{\pm,1},\quad\omega_{\pm,1}(\sigma_z)=\pm m^*\tag{8.4.18}

になる。ω±\omega_\pm は磁化 ±m∗\pm m^* の向きに揃った積状態である。mm を固定した確率分布の中ではスピンは互いに独立に近く、その1点の分布が磁化 ±m∗\pm m^* の分布になるからである。平均場の模型は相互作用が無限に遠くまで届くので、(a) の意味での無限系の時間発展が準局所代数の上に定まらず、KMS 条件を直接課すかわりに有限系の Gibbs 状態の極限を調べた。到達距離が有限の2次元 Ising 模型では、同じ構造(低温で上向きの相と下向きの相の2つの端点 KMS 状態があり、Gibbs 状態の極限がその混合になる)が KMS 状態の言葉で厳密に成り立つ。

図

図 8.4.2 Curie–Weiss 模型の Gibbs 状態での磁化 MNM_N の分布(βJ=54ln⁡3\beta J=\tfrac54\ln3、厳密な有限 NN の値なので点線)。NN を大きくすると ±m∗=±0.8\pm m^*=\pm0.8(灰色の破線)の2か所に集中し、m=0m=0 の重みは e−N×0.0714\mathrm{e}^{-N\times0.0714} の速さで消える。極限の状態は上向きの相と下向きの相の半分ずつの混合である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 1/z1/z(各スピンが相互作用する相手の数 zz の逆数。Curie–Weiss 模型は z=N−1z=N-1 で到達距離が無限) | 証明 条件付き(到達距離が無限に長く強さが無限に弱い Kac 型の相互作用の極限で、自由エネルギーが Maxwell 構成つきの平均場の値になることを Lebowitz–Penrose 1966 が証明。有限の到達距離では臨界指数が平均場と違い、2次元 Ising の磁化は Onsager–Yang の式) | 行き先 近似の数理 第6章

自発的対称性の破れは表現の選択

(8.4.15) は、すべてのスピンを裏返す操作 γ\gamma(各点で σz→−σz\sigma_z\to-\sigma_z、σx→σx\sigma_x\to\sigma_x、σy→−σy\sigma_y\to-\sigma_y。σx\sigma_x のまわりの π\pi 回転)で変わらない。γ\gamma は準局所代数の *自己同型で、ωβ∘γ=ωβ\omega_\beta\circ\gamma=\omega_\beta だが、ω+∘γ=ω−\omega_+\circ\gamma=\omega_- である。純粋な相 ω±\omega_\pm はハミルトニアンの対称性を破っている。

命題 8.4.5(破れた対称性はユニタリで実装できない ★★★)

π+\pi_+ を ω+\omega_+ の GNS 表現とする。π+\pi_+ のヒルベルト空間のユニタリ UU で、すべての A∈AA\in\mathfrak A について Uπ+(A)U−1=π+(γ(A))U\pi_+(A)U^{-1}=\pi_+(\gamma(A)) となるものは存在しない。

証明

そのような UU があるとする。η≔U−1ξ+\eta\coloneqq U^{-1}\xi_+ とおくと、⟨η, π+(A)η⟩=⟨ξ+, Uπ+(A)U−1ξ+⟩=ω+(γ(A))=ω−(A)\langle \eta,\,\pi_+(A)\eta\rangle =\langle \xi_+,\,U\pi_+(A)U^{-1}\xi_+\rangle =\omega_+(\gamma(A))=\omega_-(A) なので、ω−\omega_- は π+\pi_+ のベクトル状態、とくに正規状態になる。ところが ω+\omega_+ と ω−\omega_- は1点の期待値 ω±,1(σz)=±m∗\omega_{\pm,1}(\sigma_z)=\pm m^* が違う積状態なので、前の章の定理(第8部第3章)により ω−\omega_- は π+\pi_+ の正規状態でない。矛盾する。

有限の NN では、γ\gamma は ⨂kσx(k)\bigotimes_k\sigma_x^{(k)} というユニタリで実装でき、Gibbs 状態は対称で、上向きの状態と下向きの状態は同じヒルベルト空間の中のベクトルにすぎない。無限系では対称性の操作は代数の自己同型としては残るが、純粋な相の表現の中ではユニタリで書けない。基底状態や熱平衡が対称性を破ることは、「どの相の表現を選ぶか」という選択として書ける。混合相 ωβ\omega_\beta の表現は π+⊕π−\pi_+\oplus\pi_- に分かれ(前々章の「純粋 ⇔ 既約」の端点 KMS 版)、γ\gamma はこの直和の2つの成分を入れ替えるユニタリとして実装できる。磁場を少しだけかけてから外す、あるいは境界のスピンを上向きに固定してから Λ→Zd\Lambda\to\mathbb{Z}^d とすると、極限は混合でなく ω+\omega_+ の方を選ぶ。実験で磁石が片方の向きに磁化しているのは、この選択が実際に起きていることの表れである。

例題 8.4.5 磁化 0.80.8 の平均場の相 ★★★

オリジナルCurie–Weiss 模型 (8.4.15) で βJ=54ln⁡3\beta J=\tfrac54\ln3 とする。

  1. (1) m∗=0.8m^*=0.8 が (8.4.17) を満たすことを確かめ、それが ff の極小であることを f′′f'' で確かめよ。
  2. (2) βf(0)\beta f(0) と βf(0.8)\beta f(0.8) を求め、N=100N=100 で PN(0)/PN(0.8)P_N(0)/P_N(0.8) の大きさを見積もれ。
  3. (3) 混合相 ωβ\omega_\beta と純粋な相 ω+\omega_+ で、MN2M_N^2 の期待値の N→∞N\to\infty の極限と、MNM_N の分散の極限を比べよ。どちらが端点 KMS 状態の性質(巨視的な平均がゆらがない)をもつか。
解答

(1) tanh⁡(βJ⋅0.8)=tanh⁡(ln⁡3)=0.8\tanh(\beta J\cdot0.8)=\tanh(\ln3)=0.8 で満たす。βf′′(m)=−βJ+1/(1−m2)\beta f''(m)=-\beta J+1/(1-m^2) なので βf′′(0.8)=−1.373+1/0.36=1.40>0\beta f''(0.8)=-1.373+1/0.36=1.40>0 で極小。m=0m=0 では βf′′(0)=1−1.373<0\beta f''(0)=1-1.373<0 で極大である。

(2) βf(0)=ln⁡12=−0.6931\beta f(0)=\ln\tfrac12=-0.6931。βf(0.8)=−1.37332×0.64+0.9ln⁡0.9+0.1ln⁡0.1=−0.4395−0.0948−0.2303=−0.7645\beta f(0.8)=-\tfrac{1.3733}{2}\times0.64+0.9\ln0.9+0.1\ln0.1=-0.4395-0.0948-0.2303=-0.7645。差は 0.07140.0714 で、PN(0)/PN(0.8)≈e−100×0.0714=7.9×10−4P_N(0)/P_N(0.8)\approx\mathrm{e}^{-100\times0.0714}=7.9\times10^{-4}(二項係数の前因子を除いた見積もり)。m=0m=0 付近の磁化は N=100N=100 で既にほとんど現れない。

(3) ω+\omega_+ は積状態なので、前の章の補題により MN→m∗=0.8M_N\to m^*=0.8 に収束し、ω+(MN2)→0.64\omega_+(M_N^2)\to0.64、分散 ω+(MN2)−ω+(MN)2=(1−0.64)/N→0\omega_+(M_N^2)-\omega_+(M_N)^2=(1-0.64)/N\to0。混合相では ωβ(MN)=12(0.8)+12(−0.8)=0\omega_\beta(M_N)=\tfrac12(0.8)+\tfrac12(-0.8)=0、ωβ(MN2)→12(0.64)+12(0.64)=0.64\omega_\beta(M_N^2)\to\tfrac12(0.64)+\tfrac12(0.64)=0.64 で、分散は 0.640.64 に収束して消えない。巨視的な平均がゆらがないのは ω+\omega_+ の方で、これが端点(純粋な相)の性質である。混合相では MNM_N の極限が「確率 12\tfrac12 で ±0.8\pm0.8」という古典的な確率変数になり、表現の中心に住む。

2次元 Ising 模型との比較

到達距離が有限の Ising 模型でも、2次元以上なら低温で2つの純粋な相が現れる。正方格子の最近接 Ising 模型 H=−J∑⟨ij⟩σz(i)σz(j)H=-J\sum_{\langle ij\rangle}\sigma_z^{(i)}\sigma_z^{(j)} について、Onsager が転移温度sinh⁡(2J/(kBTc))=1\sinh(2J/( k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}))=1、すなわち kBTc/J=2/ln⁡(1+2)=2.269k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}/J=2/\ln(1+\sqrt2)=2.269 を求め、Yang が純粋な相の磁化

m(T)=(1−sinh⁡−42JkBT)1/8(T<Tc)(8.4.19)m(T)=\Bigl(1-\sinh^{-4}\frac{2J}{ k_{\mathrm B} T}\Bigr)^{1/8}\qquad(T<T_{\mathrm c})\tag{8.4.19}

を証明した2L. Onsager (1944), Phys. Rev. 65, 117;C. N. Yang (1952), Phys. Rev. 85, 808.下の脚注へ。図 8.4.3 で平均場の m∗m^* と並べると、どちらも T<TcT<T_{\mathrm c} で 00 でない値をとるが、TcT_{\mathrm c} の近くの立ち上がり方(臨界指数:平均場は 1/21/2、2次元 Ising は 1/81/8)が違う。「純粋な相が2つあること」は KMS 状態の言葉で模型によらず定義でき、それがどれだけ磁化をもつかは模型ごとの計算になる。

図

図 8.4.3 純粋な相の磁化を温度に対して描いたもの。実線は平均場(近似)、点線は2次元正方格子 Ising 模型の厳密解 (8.4.19)。どちらも横軸はそれぞれの転移温度で割ってある。T>TcT>T_{\mathrm c} では KMS 状態は1つで磁化は 00、T<TcT<T_{\mathrm c} では純粋な相が上向きと下向きの2つある(図は上向きの相)。

1 H. Araki (1975), Commun. Math. Phys. 44, 1.

2 L. Onsager (1944), Phys. Rev. 65, 117;C. N. Yang (1952), Phys. Rev. 85, 808.

木下の勉強ステータス

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