ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第3章 §4.3.4 ★★ 熱の収支から Thomson 熱が出る。半導体では Fermi 準位がギャップにあるので S が金属の数百倍になり、熱電変換の効率は ZT で決まる
電流が流れる導体の熱の収支と Thomson 係数
温度勾配のある導線に電流を流すと、導線のどこで熱が出入りするかを求める。定常状態で電流は保存し(∇⋅J=0)、電気化学ポテンシャル μˉ=μ−eϕ を含めたエネルギーの流れ JQ+μˉJN も保存する。JN=−J/e、∇μˉ=eE′ なので
∇⋅JQ=−∇⋅(μˉJN)=−JN⋅∇μˉ=J⋅E′
である。左辺は熱の流れの湧き出しで、その場所で単位体積・単位時間に生まれる熱に当たる。E′=J/σ+S∇T と JQ=ΠJ−κ∇T を入れ、∇Π=(dΠ/dT)∇T を使うと
−∇⋅(κ∇T)=σJ2−μThJ⋅∇T,μTh:=dTdΠ−S=TdTdS(4.3.18)
を得る。左辺は熱伝導で外へ出ていく熱、右辺の第1項は Joule 熱、第2項が Thomson 熱である。μTh を Thomson 係数と呼び、定義の dΠ/dT−S の形を Kelvin の第1関係と呼び、最後の等号は第2関係 Π=TS から出る。Joule 熱は電流の向きによらないが、Thomson 熱は電流を温度勾配に沿って流すか逆らって流すかで符号が変わる。自由電子では S∝T なので μTh=S である。
半導体の Seebeck 係数
非縮退の n 型半導体では、Fermi 準位 μ がギャップの中、伝導帯の底 εc より数 kBT 以上下にある(第2部第7章)。伝導帯の電子だけを考えると −∂f0/∂ε≈e−(ε−μ)/(kBT)/(kBT) で、放物線のバンドで τ∝(ε−εc)r なら σ(ε)∝(ε−εc)3/2+r である。すると (4.3.10) の K1/K0 は、重み (ε−εc)3/2+re−(ε−εc)/(kBT) での ε−μ の平均で、⟨ε−εc⟩=(5/2+r)kBT(Gamma 関数の比 Γ(7/2+r)/Γ(5/2+r))を使うと
S=−ekB[kBTεc−μ+25+r](4.3.19)
となる。金属の式 (4.3.17) と比べると、kBT/εF の小ささが無く、逆に (εc−μ)/(kBT) という大きな数が入っている。半導体では電気を運ぶ電子はすべて μ より εc−μ 以上上にいて、上下の打ち消しが起きないからである。p 型では正孔が運ぶので符号が逆になる。
例題 4.3.4 n 型 Si の熱電能 ★★★
オリジナルn 型の Si で、伝導帯の電子密度が n=1×1022m−3、状態密度の有効質量が m∗=1.08m(第2部第7章の例題と同じ値)、T=300K とする。散乱は音響フォノンが主で r=−1/2 とする。
- (1) 伝導帯の有効状態密度 Nc=2(m∗kBT/(2πℏ2))3/2 と (εc−μ)/(kBT)=ln(Nc/n) を求めよ。
- (2) S を求め、例題 4.3.3 の Cu の値と比べよ。
- (3) ドーピングを10倍にすると S はどれだけ変わるか。
解答
(1) m∗=m なら Nc=2.51×1025m−3(第2部第7章)で、1.083/2=1.122 倍して Nc=2.82×1025m−3。非縮退の式 n=Nce−(εc−μ)/(kBT) から (εc−μ)/(kBT)=ln(2.82×103)=7.94 である。
(2) (4.3.19) で 5/2+r=2 なので S=−86.17μVK−1×(7.94+2)=−857μVK−1。Cu の自由電子の値 −1.56μVK−1 の 548 倍である。
(3) n を10倍にすると ln(Nc/n) が ln10=2.30 減るので、∣S∣ は 86.17×2.30=198μVK−1 減って 659μVK−1 になる。ドーピングを増やすと σ∝n は増えるが S は対数で減る。熱電材料のキャリア密度は、この綱引きの中で S2σ が最大になる所に選ぶ。
熱電変換の効率
p 型と n 型の半導体の棒を高温側 Th と低温側 Tc の間に並べ、端をつないで負荷抵抗 RL に電流 I を流す。これが熱電発電の素子である。2本をまとめて Seebeck 係数 S(2本の差)、内部抵抗 R、熱コンダクタンス K とし、温度によらないとする。起電力 SΔT(ΔT=Th−Tc)から I=SΔT/(R+RL)。高温側の接合から吸う熱は、熱伝導の分 KΔT、Peltier 熱 ΠI=SThI から、内部で生じた Joule 熱のうち高温側へ戻る半分 21I2R を引いたものである。効率は
η=KΔT+SThI−21I2RI2RL=ThΔT(1+m)−2ThΔT+ZTh(1+m)2m,m=RRL,Z=KRS2
となる。m について最大化すると m=1+ZTˉ(Tˉ=(Th+Tc)/2)で
ηmax=ThΔT⋅1+ZTˉ+Tc/Th1+ZTˉ−1(4.3.20)
を得る。第1因子は Carnot 効率で、第2因子は ZTˉ→∞ で 1 に近づく。物質の性質は Z=S2σ/κ(棒の形によらない組み合わせ)だけを通して入る。S2σ を大きく、κ を小さくすることが熱電材料を探す指針になる。Wiedemann–Franz 則があるので、電子の熱伝導 κe=L0σT は σ と切り離して下げることができない。電子だけなら ZT=S2/L0 で、ZT=1 には S=156μVK−1 が要る。金属の S(数 μVK−1)はこの値の 1/100 ほどで、半導体の S(数百 μVK−1)はこの値を超える。
例題 4.3.5 ZTˉ=1 の熱電発電 ★★
オリジナルTh=400K、Tc=300K で、ZTˉ=1 の素子を使う。
- (1) Carnot 効率と最大効率 ηmax を求めよ。
- (2) そのときの負荷抵抗と内部抵抗の比 m を求めよ。
- (3) 同じ材料を Peltier 冷却に使い、低温側を Tc=300K、ZTc=1 とすると、つけられる最大の温度差は ΔTmax=21ZTc2 である。この値を求め、(1) と合わせて ZT の大きさの意味を述べよ。
解答
(1) Carnot 効率は 1−300/400=0.25。(4.3.20) の第2因子は (2−1)/(2+0.75)=0.4142/2.1642=0.191 なので、ηmax=0.25×0.191=0.0479、つまり 4.79% である。
(2) m=1+ZTˉ=2=1.41。負荷抵抗を内部抵抗より少し大きくすると、電流が減って内部の Joule 熱が減るので、電力を最大にする条件 m=1 よりも効率が上がる。
(3) ΔTmax=21×1×300K=150K。Peltier 冷却では、Peltier 熱で運び出す熱 ΠI に対して、Joule 熱 I2R と熱伝導で戻る熱 KΔT が逆らう。ZT は Peltier の項と、Joule 熱・熱伝導の項の比を測る数で、ZT=1 でも発電の効率は Carnot の 2 割、冷却の温度差は Tc の半分にとどまる。熱電変換が身近な発電に使われない理由は、この ZT の小ささにある。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com