ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第1章 §5.1.2 ★★★ 外から加えた電荷に電子がどう応えるかを、相互作用しない電子の応答関数 χ0(Lindhard 関数)と、誘起された電荷が作る場を足し込む自己無撞着の条件で求める。答えは誘電関数 εr=1−vqχ0
相互作用しない電子の密度の応答
電子気体に、外から電荷密度 ρext(r,t) を持ち込む。電子が感じる静電ポテンシャルを ϕ(r,t) とすると、電子1個のポテンシャルエネルギーは −eϕ である。まず、電子どうしが相互作用せず、ポテンシャルエネルギー u(r,t)=uqei(q⋅r−ωt)eηt+c.c.(η→+0。t→−∞ でゆっくり入れる)を感じる場合の、電子の数密度の変化 δn を1次の摂動で求める。
平面波の状態 k は、u の eiq⋅r の成分によって k+q の状態を、e−iq⋅r の成分によって k−q の状態を少しだけ混ぜる。時間に依存する摂動論から、混ざる振幅は
εk+ℏω−εk+q+iℏηuqe−iωt,εk−ℏω−εk−q−iℏηuq∗eiωt
である(分母はエネルギーの差で、振動数 ω の分だけ光子を吸うか出すかに当たる)。状態 k の電子の密度 ∣ψk∣2 のうち ei(q⋅r−ωt) で振動する成分は、平面波とこの2つの振幅の干渉項から Vuq[εk+ℏω−εk+q+iℏη1+εk−ℏω−εk−q+iℏη1] になる(第2項は複素共役をとった項の寄与で、η の符号が反転する)。占有率 fk を掛けてスピンと k について足し、第2項で k→k+q と付け替えると、
δn(q,ω)=χ0(q,ω)uq,χ0(q,ω)=V1kσ∑ℏω+εk−εk+q+iℏηfk−fk+q(5.1.5)
を得る。χ0 を Lindhard 関数と呼ぶ(J. Lindhard, 1954)。分子の fk−fk+q は、占有された状態から空いた状態への遷移だけが数えられることを表す。これは解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第1章の量子の久保公式で、入力と出力をどちらも密度にしたものと同じである。η>0 は因果律の印で、χ0 は ω の上半面で解析的になる(記法の正本の時間の Fourier の流儀)。
静的(ω=0)で長い波長(q→0)の極限では、fk−fk+q≈(∂f/∂ε)(εk−εk+q) なので
χ0(q→0,0)=V1kσ∑∂ε∂f=−∫D(ε)(−∂ε∂f)dε=−∂μ∂n(5.1.6)
になる。ゆっくり変わるポテンシャルの中では、電子は各点で局所的に平衡になり、局所的な化学ポテンシャルが u だけ下がった分だけ電子が集まる、ということである。絶対零度の金属では ∂n/∂μ=D(εF)(第4部第1章の圧縮率)である。符号が負なのは、ポテンシャルエネルギーを上げた所から電子が逃げるからである。
自己無撞着の条件と誘電関数
相互作用する電子では、電子が感じる場は外から加えた場だけでない。集まった電子自身が電荷を作り、その電荷がまた場を作る。そこで、電子は全体の静電ポテンシャル ϕ=ϕext+ϕind に対して、相互作用しない電子と同じように応える、と仮定する:
δn(q,ω)=χ0(q,ω)(−eϕ(q,ω)).(5.1.7)
誘起された電荷 −eδn が作る ϕind は、Poisson 方程式 ε0q2ϕind=−eδn から ϕind=ε0q2e2χ0ϕ=vqχ0ϕ である。ϕ=ϕext+vqχ0ϕ を ϕ について解くと
ϕ(q,ω)=εr(q,ω)ϕext(q,ω),εr(q,ω)=1−vqχ0(q,ω)=1−ε0q2e2χ0(q,ω)(5.1.8)
を得る。外の電荷のまわりの電子の応答は、すべて誘電関数 εr(q,ω) にまとめられる。電子どうしの相互作用も、片方の電子を「外から持ち込んだ電荷」とみなせば同じように弱められ、遮蔽された相互作用 vq/εr(q,ω) になる。
仮定 (5.1.7) は、時間に依存する Hartree 近似である。各電子は全体の平均の場の中を独立に運動し、その平均の場を自分たちで作り直す。入っていないのは、誘起された電荷の分布そのものにある交換と相関(ある電子のまわりの交換孔が、その電子が感じる場を変える効果)である。この近似は、Bohm と Pines が電子気体の集団運動を調べたときの名にならって乱雑位相近似(RPA, random phase approximation)と呼ばれる。Hartree–Fock が平均の場を固定したのに対し、RPA は平均の場が電子の動きについて変わることを入れる。それが遮蔽の正体である。
静的・長波長の極限 (5.1.6) を入れると
εr(q,0)=1+q2qTF2,qTF2=ε0e2∂μ∂n=ε0e2D(εF)(5.1.9)
を得る。qTF を Thomas–Fermi の遮蔽波数と呼ぶ。自由電子では D(εF)=mkF/(π2ℏ2) なので qTF2/kF2=4/(πkFa0) で、金属では qTF は kF と同じ大きさである。
例題 5.1.2 2次元の電子気体の遮蔽 ★★
オリジナルGaAs のヘテロ接合の界面にできる2次元の電子気体(第4部第9章)を考える。電子は面内を有効質量 m∗=0.067m で動き、まわりの結晶の比誘電率を εb=12.9 とする(与えられた値。Coulomb 相互作用は e2/(4πε0εbr) になる)。
- (1) 2次元の Fourier 変換 ∫d2re−iq⋅r/(4πr)=1/(2q) を使い、面内の相互作用 vq(2) を書け。
- (2) 2次元の状態密度(単位面積・両スピン)D2=m∗/(πℏ2) を使い、静的・長波長の誘電関数を求めよ。
- (3) 遮蔽波数 qs を有効 Bohr 半径 a0∗=a0εbm/m∗ で書き、GaAs で数値を求めよ。3次元と比べて何が違うか。
解答
(1) vq(2)=ε0εbe2⋅2q1=2ε0εbqe2。3次元の 1/q2 が、面内に閉じ込めると 1/q に変わる。
(2) 式 (5.1.6) の2次元版で χ0→−D2 だから、εr=1+vq(2)D2=1+qs/q、qs=2πε0εbℏ2e2m∗ である。
(3) a0∗=4πε0εbℏ2/(m∗e2) を使うと qs=2/a0∗。GaAs では a0∗=0.0529×12.9/0.067=10.2nm、qs=0.196nm−1、遮蔽長 1/qs=5.1nm になる。3次元の qTF2∝D(εF)∝n1/3 と違い、2次元の qs は電子の密度によらない。2次元の状態密度がエネルギーによらない定数だからである。ただし遮蔽が 1+qs/q の形で q に対してゆっくりしか弱まらないので、2次元では遠くの不純物の Coulomb ポテンシャルが3次元より残りやすい。
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