ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第1章 §5.1.3 ★★★ 金属に入れた電荷は、格子間隔より短い距離で完全に遮蔽される。ただし Fermi 面が鋭いので、遮蔽の雲の外側に波長 π/kF で振動して r−3 で減る電荷の揺れ(Friedel 振動)が残る
Thomas–Fermi の遮蔽
電荷 Q の点電荷を電子気体に入れる。ϕext(q)=Q/(ε0q2) を式 (5.1.9) の εr で割ると ϕ(q)=Q/(ε0(q2+qTF2)) で、実空間に戻すと
ϕ(r)=4πε0rQe−qTFr(5.1.10)
になる。裸の Coulomb ポテンシャルが、距離 1/qTF を超えると指数関数的に消える。これが第4部第2章で不純物の散乱に使った遮蔽された Coulomb ポテンシャルで、そこで使った遮蔽の波数がこの qTF である。遮蔽された相互作用の Fourier 成分 e2/(ε0(q2+qTF2)) は q→0 で有限になる。5.1.1節の Hartree–Fock で速さが発散したのは q→0 の 1/q2 のためだったので、遮蔽された相互作用で交換の自己エネルギーを計算し直すと、発散は消える。
遮蔽を担う電荷の分布は、Poisson 方程式 ρind=−ε0∇2ϕ−ρext から
ρind(r)=−4πrQqTF2e−qTFr
で、全体を積分すると −Q になる。外の電荷はちょうど打ち消される(完全遮蔽)。金属の内部に静電場が入り込めないことの、微視的な言い方である。
Lindhard 関数の全体の形
長波長の近似を外し、静的な Lindhard 関数を全ての q で求める。式 (5.1.5) の2つの項を k→−k−q でまとめると、絶対零度ではχ0(q,0)=V4∑∣k∣<kFεk−εk+q1(主値)になる。εk+q−εk=2mℏ2(2kqu+q2)(u は角の余弦)の角の積分を先に行うと ∫−112kqu+q2du=2kq1ln∣q−2kq+2k∣ で、残りの k の積分から
χ0(q,0)=−D(εF)L(2kFq)(5.1.11)
を得る。L は Hartree–Fock の式 (5.1.4) と同じ関数である。どちらも「Fermi 球の中の状態について 1/(波数の差) の重みで足す」という同じ和なので、同じ関数になる。
L の3つの性質がそのまま物理になる。第1に、L(0)=1 で式 (5.1.9) の Thomas–Fermi に戻る。第2に、q≫2kF では L≈31(2kF/q)2 と小さくなり、εr→1 になる。電子は Fermi 波長より細かい凹凸のポテンシャルには集まりきれないので、短い距離の相互作用はほとんど遮蔽されない。第3に、q=2kF で L 自身は連続(値 1/2)だが、その傾きが対数的に発散する。q=2kF は、Fermi 球の一方の端の電子を反対側の端へ移す波数で、この q を境に「占有された状態から空いた状態へ、エネルギーをほとんど使わずに移れるかどうか」が切り替わる。Fermi 面が鋭いことが、q の関数の角として残る。

図 5.1.1 銅の密度(qTF/kF=1.33)の電子気体で、遮蔽された相互作用と裸の相互作用の比 1/εr(q,0)。実線が Thomas–Fermi の近似 (5.1.9)、点線が Lindhard 関数 (5.1.11) による RPA の値。長い波長では両者が一致し、短い波長では Lindhard のほうが早く 1 に近づく(遮蔽が弱まる)。点線は q=2kF で傾きが不連続に見えるが、実際には傾きが対数的に発散する角になっている。
Friedel 振動
q=2kF の角は、実空間では遠方まで続く振動になる。最も簡単な場合として、原点に置いた短距離のポテンシャル u(r)=u0δ(3)(r) に対する、相互作用しない電子の密度の変化 δn(r)=u0χ0(r) を計算する。χ0(r)=∫(2π)3d3qeiq⋅rχ0(q,0) を式 (5.1.11) から求めると、
χ0(r)=−π3ℏ22mkF4x4sinx−xcosx,x=2kFr(5.1.12)
になる(数値の Fourier 変換と照合した)。遠方 x≫1 では
δn(r)≈u0π3ℏ22mkF4(2kFr)3cos(2kFr)(5.1.13)
で、密度は波長 π/kF(Fermi 波長の半分)で振動しながら r−3 で減る。これを Friedel 振動と呼ぶ。Fourier 変換の遠方の振る舞いは、q の関数のいちばん強い特異点で決まる。χ0(q,0) は滑らかでない点を q=2kF にだけ持つので、遠方の振動の波数は 2kF になる。Thomas–Fermi の指数関数的な遮蔽 (5.1.10) には振動が無いが、それは L を L(0)=1 で置き換えて角を捨てたからである。遮蔽を自己無撞着に入れても、εr(q,0) の滑らかでない点は同じ q=2kF にあるので、振動の波長と r−3 の減り方は変わらない。
式 (5.1.12) は、スピンを持つ磁性の不純物が伝導電子のスピンを偏らせる場合にもそのまま使え、離れた2つの磁性の不純物の間に符号が振動する交換相互作用を作る(RKKY 相互作用。第5部第2章)。また、イオンの間の相互作用も電子に遮蔽されるので、フォノンの分散 ω(q) も q=2kF で傾きが変わる(Kohn 異常)。

図 5.1.2 Friedel 振動。式 (5.1.12) に x3=(2kFr)3 を掛けた (sinx−xcosx)/x を kFr の関数として描いた(厳密な式なので点線)。r−3 の減衰を掛け戻したので振幅は一定に見え、波数 2kF(kFr で周期 π)の振動が遠方まで続くことが分かる。
例題 5.1.3 銅の中の点電荷を遮蔽する雲の大きさ ★★
オリジナル銅の伝導電子(n=8.47×1028m−3、εF=7.03eV、kF=1.36×1010m−1)に、電荷 Q の不純物を入れる。
- (1) qTF と遮蔽長 1/qTF を求めよ。qTF/(2kF) はいくらか。
- (2) 半径 R の球の中に入る誘起電荷の割合を qTFR の式で求め、90% が入る R を求めよ。銅の最近接原子の距離 0.256nm と比べよ。
- (3) 遮蔽の雲が不純物の位置に作る静電ポテンシャル ϕind(0) を求めよ。
解答
(1) D(εF)=3n/(2εF) から qTF2=2ε0εF3ne2=3.27×1020m−2、qTF=1.81×1010m−1、1/qTF=0.0552nm。qTF/(2kF)=0.665 で、Thomas–Fermi が当てはまる q≪2kF の範囲の端にある。遮蔽長が Fermi 波長と同じ大きさなので、遮蔽の雲の形の細部は Lindhard 関数で計算し直す必要がある(図 5.1.1)。
(2) ∫0R4πr2ρinddr=−Q[1−(1+qTFR)e−qTFR]。1−(1+t)e−t=0.9 を解くと t=3.89 で、R=3.89/qTF=0.215nm。最近接距離 0.256nm(1/qTF の 4.6 倍)より小さい。不純物の電荷は、隣の原子の位置ではほとんど打ち消されている。
(3) ϕ(r)=4πε0rQe−qTFr から裸の 4πε0rQ を引いて r→0 とすると ϕind(0)=−4πε0QqTF。雲の電荷 −Q が、半径 1/qTF の殻に集まっているのと同じポテンシャルを作る。Q=e なら −eqTF/(4πε0)=−26V で、電子のエネルギーにして 26eV と大きい。この値は Thomas–Fermi の雲を点の近くまで信じた見積もりで、実際には Lindhard 関数の q≫2kF での弱い遮蔽のために点の近くの遮蔽はもっと弱い。
ほかの巻では
- 近似の数理 第6章:Thomas–Fermi 理論を多体の極限として正当化した所で、遮蔽の波数 qTF の数学の側が読める
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com