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出てくるもの(3):時間で決まる幅、Ramsey 干渉と断熱急速通過

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第24章 分光の線幅
目次
  1. 通過時間による広がり
  2. Rabi の線と Ramsey の縞
  3. 断熱急速通過
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

光学と量子エレクトロニクス 第24章 §24.4 ★★★ 光と原子が相互作用する時間 tt が有限だと、線は 1/t1/t より細くならない。時間を2つの短いパルスで挟んで干渉させる Ramsey の方法では縞の幅が自由な時間だけで決まり、周波数を掃引する断熱急速通過では不均一な集団がまとめて反転する

通過時間による広がり

これまでは、原子が光の中にいつまでもとどまり、定常状態に達するとした。実際の原子はビームを横切って出ていく。半径 ww の Gauss ビーム(電場の振幅が e−r2/w2\mathrm{e}^{-r^2/w^2})を速さ vv で横切る原子は、電場の振幅が e−t2/τt2\mathrm{e}^{-t^2/\tau_{\mathrm t}^2}(τt=w/v\tau_{\mathrm t}=w/v)で立ち上がって消える光を受ける。光が弱いとき、上の準位へ上がる振幅は時間に依存する摂動の1次で ∫Ω(t)eiΔt dt∝e−Δ2τt2/4\int\Omega(t)\mathrm{e}^{\mathrm{i}\Delta t}\,\mathrm{d} t\propto\mathrm{e}^{-\Delta^2\tau_{\mathrm t}^2/4} なので、上がる確率は e−Δ2τt2/2\mathrm{e}^{-\Delta^2\tau_{\mathrm t}^2/2} に比例する。この線の半値全幅は

Γt=22ln⁡2τt=2.35 vw(24.18)\Gamma_{\mathrm t}=\frac{2\sqrt{2\ln2}}{\tau_{\mathrm t}}=2.35\,\frac{v}{w}\tag{24.18}

である。これを通過時間による広がりと呼ぶ。相互作用の時間 τt\tau_{\mathrm t} の間しか続かない振動の Fourier 変換は、1/τt1/\tau_{\mathrm t} より細くならない。自然幅が寿命の逆数になったことと同じ理由である。自然幅の大きい遷移では Γt≪Γ\Gamma_{\mathrm t}\ll\Gamma で問題にならないが、寿命の長い遷移(原子時計に使う遷移など)では、線の幅は相互作用の時間で決まる。

Rabi の線と Ramsey の縞

寿命が十分長く、Γ\Gamma を無視できる遷移を考える。長さ τp\tau_{\mathrm p} の一定の強さの光のパルスを当てると、第19章(第19章)の Rabi 振動の式から

Pe(Δ)=Ω2Ω′2sin⁡2Ω′τp2,Ω′=Ω2+Δ2(24.19)P_e(\Delta)=\frac{\Omega^2}{\Omega'^2}\sin^2\frac{\Omega'\tau_{\mathrm p}}{2},\qquad \Omega'=\sqrt{\Omega^2+\Delta^2}\tag{24.19}

である。共鳴で原子をちょうど反転させる π\pi パルス(Ωτp=π\Omega\tau_{\mathrm p}=\pi)では、この線の半値全幅は数値で解いて 5.02/τp5.02/\tau_{\mathrm p}(周波数で 0.799/τp0.799/\tau_{\mathrm p})になる。

1949年に N. F. Ramsey が考えた方法1N. F. Ramsey, “A Molecular Beam Resonance Method with Separated Oscillating Fields,” Phys. Rev. 78, 695 (1950).下の脚注へ では、相互作用を2つの短い π/2\pi/2 パルス(Ωτp=π/2\Omega\tau_{\mathrm p}=\pi/2)に分け、その間に光を当てない自由な時間 tft_{\mathrm f} を置く。Bloch 球(第19章・解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第5章)の上で読むと、手順は次のとおりである。最初の π/2\pi/2 パルスが南極(∣g⟩| g \rangle)にある Bloch ベクトルを赤道へ倒す。自由な時間の間、回転座標では Hamiltonian が −ℏΔ2σz-\frac{\hbar\Delta}{2}\sigma_z だけになり、Bloch ベクトルは赤道の上を角 Δtf\Delta t_{\mathrm f} だけ回る。2つ目の π/2\pi/2 パルスは、Bloch ベクトルが回っていなければ北極(∣e⟩| e \rangle)まで倒し、π\pi だけ回っていれば南極へ戻す。パルスが ∣Δ∣τp≪1\lvert \Delta\rvert \tau_{\mathrm p}\ll1 を満たすほど短いとき、

Pe(Δ)=cos⁡2Δtf2(24.20)P_e(\Delta)=\cos^2\frac{\Delta t_{\mathrm f}}{2}\tag{24.20}

になる。これを Ramsey の縞と呼ぶ。中央の縞の半値全幅は π/tf\pi/t_{\mathrm f}(周波数で 1/(2tf)1/(2t_{\mathrm f}))で、パルスの強さや長さによらず自由な時間だけで決まる。

同じ全体の時間 tft_{\mathrm f} を1つの π\pi パルスに使った Rabi の線(半値全幅 5.02/tf5.02/t_{\mathrm f})に比べ、Ramsey の縞は 5.02/π=1.605.02/\pi=1.60 倍細い。Ramsey の方法の利点は細さだけではない。自由な時間の間は光を当てないので、光による準位のずれ(光シフト)やパワーによる広がりが入らない。縞の幅を決める tft_{\mathrm f} は、2つの相互作用の領域の間を原子が飛ぶ時間なので、領域の間隔を広げれば縞は細くなる。縞の包絡線は1つのパルスの Rabi の線(幅 ∼1/τp\sim1/\tau_{\mathrm p})で、パルスが短いほど広い範囲に縞が並ぶ(図 24.4)。原子時計への応用は第28章(第28章)で扱う。

図

図 24.4 Ramsey の縞と Rabi の線。黒の点線は長さ τp=tf/10\tau_{\mathrm p}=t_{\mathrm f}/10 の2つの π/2\pi/2 パルスで挟んだ Ramsey の方法の厳密な PeP_e(パルスの間の離調も含めて時間発展を計算した値)、赤の実線は短いパルスの近似 cos⁡2(Δtf/2)\cos^2(\Delta t_{\mathrm f}/2)(中央の付近だけ描く)、青の点線は同じ時間 tft_{\mathrm f} を1つの π\pi パルスに使った Rabi の線。Ramsey の中央の縞は Rabi の線より細く、縞の包絡線は短いパルスの Rabi の線で決まる

例題 24.5 原子のビームで作る Ramsey の縞 ★★

オリジナル平均の速さ v=270 m s−1v=270\,\mathrm{m\,s^{-1}} の原子のビームが、間隔 L=1 mL=1\,\mathrm m だけ離れた2つの相互作用の領域を通る。各領域の長さは 1 cm1\,\mathrm{cm} である。

  1. (1) 自由な時間 tft_{\mathrm f} と、Ramsey の中央の縞の周波数での半値全幅を求めよ。
  2. (2) 1つの領域だけを π\pi パルスとして使うと、線の周波数での半値全幅はいくらか。
  3. (3) 原子の速さに分布があると、縞はどうなるか。
解答

(1) tf=L/v=3.70 mst_{\mathrm f}=L/v=3.70\,\mathrm{ms} で、縞の半値全幅は周波数で 1/(2tf)=135 Hz1/(2t_{\mathrm f})=135\,\mathrm{Hz} である。

(2) 1つの領域を通る時間は τp=10−2/270=37 μs\tau_{\mathrm p}=10^{-2}/270=37\,\mu\mathrm s で、π\pi パルスの線の幅は 0.799/τp=21.6 kHz0.799/\tau_{\mathrm p}=21.6\,\mathrm{kHz} になる。Ramsey の縞は、領域の間隔と長さの比 100100 の程度だけ細い。

(3) 速さ vv の原子は tf=L/vt_{\mathrm f}=L/v の縞を作るので、速さの分布で縞の周期がばらつく。中央の縞は Δ=0\Delta=0 ですべての原子に共通なので残るが、中央から離れた縞は周期のずれが積もって平均で消える。そのため、測った信号では中央の数本の縞だけがはっきり見える。中央の縞が位置を変えないことが、Ramsey の方法で線の中心を読むときの拠り所になる。

断熱急速通過

Doppler 幅のある集団を π\pi パルスで反転させようとすると、離調 uu の原子にとってはパルスが π\pi からずれ、式 (24.19) の分だけしか反転しない。集団全体を反転させるには、離調によらない方法が要る。断熱急速通過では、Rabi 周波数 Ω\Omega を一定に保ったまま、離調を Δ(t)=Δ˙ t\Delta(t)=\dot\Delta\,t のように負の大きな値から正の大きな値まで掃引する。Hamiltonian −ℏΔ2σz−ℏΩ2σx-\frac{\hbar\Delta}{2}\sigma_z-\frac{\hbar\Omega}{2}\sigma_x の固有状態は、Δ→−∞\Delta\to-\infty では ∣g⟩| g \rangle(エネルギーの低い方)で、Δ→+∞\Delta\to+\infty では ∣e⟩| e \rangle になる。掃引がゆっくりなら、原子は断熱定理に従って同じ固有状態に乗ったまま ∣g⟩| g \rangle から ∣e⟩| e \rangle へ運ばれる。

どれだけゆっくりなら良いかは、線形の掃引に対する厳密な解(Landau と Zener の公式2L. D. Landau, Phys. Z. Sowjetunion 2, 46 (1932);C. Zener, “Non-Adiabatic Crossing of Energy Levels,” Proc. R. Soc. Lond. A 137, 696 (1932).下の脚注へ)が与える。状態 ∣g⟩| g \rangle, ∣e⟩| e \rangle のエネルギーの差は ℏΔ(t)\hbar\Delta(t) で、結合の行列要素は ℏΩ/2\hbar\Omega/2 なので、固有状態から外れて ∣g⟩| g \rangle に取り残される確率は

Pna=exp⁡(−πΩ22∣Δ˙∣)(24.21)P_{\mathrm{na}}=\exp\Bigl(-\frac{\pi\Omega^2}{2\lvert \dot\Delta\rvert }\Bigr)\tag{24.21}

で、反転の確率は 1−Pna1-P_{\mathrm{na}} である。∣Δ˙∣≪Ω2\lvert \dot\Delta\rvert \ll\Omega^2 なら反転はほぼ完全になる。

この反転の確率は、掃引の範囲の中に共鳴が入ってさえいれば、原子の離調のずれ uu にも、Ω\Omega の多少のばらつきにもほとんどよらない。共鳴を通る時刻がずれるだけだからである。したがって Doppler 幅のある集団でも、掃引の範囲より内側の速度の組はまとめて反転する。不均一な広がりのある集団の占有を確実に入れ替える方法として、磁気共鳴の分野で生まれ、光の遷移でも使われる。ただし掃引にかかる時間が上の準位の寿命より短くないと、途中で自然放出が起きて反転が崩れる。そのため断熱急速通過は、寿命の長い遷移か、寿命に比べて十分速く掃引できる強い光で使う。

例題 24.6 99 % の反転に要る掃引の速さ ★★

オリジナル寿命の長い遷移を Rabi 周波数 Ω\Omega の光で断熱急速通過させる。

  1. (1) 反転の確率を 99 %99\,\% にする掃引の速さ Δ˙\dot\Delta を Ω2\Omega^2 を単位として求めよ。
  2. (2) 離調を −10Ω-10\Omega から +10Ω+10\Omega まで掃引するのにかかる時間を求め、Ω/2π=10 kHz\Omega/2\pi=10\,\mathrm{kHz} のときの値を出せ。
  3. (3) 掃引の中心から 3Ω3\Omega ずれた原子は反転するか。同じ原子に共鳴の π\pi パルスを当てた場合と比べよ。
解答

(1) Pna=0.01P_{\mathrm{na}}=0.01 から πΩ2/(2Δ˙)=ln⁡100\pi\Omega^2/(2\dot\Delta)=\ln100、すなわち Δ˙=πΩ2/(2ln⁡100)=0.341 Ω2\dot\Delta=\pi\Omega^2/(2\ln100)=0.341\,\Omega^2 である。

(2) 掃引の時間は 20Ω/Δ˙=58.6/Ω20\Omega/\dot\Delta=58.6/\Omega で、Ω=2π×104 s−1\Omega=2\pi\times10^4\,\mathrm s^{-1} なら 0.933 ms0.933\,\mathrm{ms} になる。この遷移の寿命がこれより十分長いことが条件である。

(3) ずれた原子にとっては、離調が −13Ω-13\Omega から +7Ω+7\Omega まで掃引されたことになる。共鳴は範囲の中にあり、両端で ∣Δ∣≫Ω\lvert \Delta\rvert \gg\Omega なので、Schrödinger 方程式を数値で解くと反転の確率は 0.980.98 を超える。同じ原子に共鳴の π\pi パルス(Ωτp=π\Omega\tau_{\mathrm p}=\pi)を当てると、式 (24.19) で Δ=3Ω\Delta=3\Omega として Pe=0.1sin⁡2(10π/2)=0.10P_e=0.1\sin^2(\sqrt{10}\pi/2)=0.10 しか反転しない。

ほかの巻では

  • 近似の数理 第7章:断熱急速通過の前提にある断熱定理の主張と、誤差がギャップでどう決まるか

1 N. F. Ramsey, “A Molecular Beam Resonance Method with Separated Oscillating Fields,” Phys. Rev. 78, 695 (1950).

2 L. D. Landau, Phys. Z. Sowjetunion 2, 46 (1932);C. Zener, “Non-Adiabatic Crossing of Energy Levels,” Proc. R. Soc. Lond. A 137, 696 (1932).

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