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出てくるもの(2):光格子と魔法波長

2026年10月15日14分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第28章 原子時計
目次
  1. 動く原子の問題
  2. Lamb–Dicke の領域
  3. 格子の光による周波数のずれ
  4. 分極率の模型で交点を見る
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

光学と量子エレクトロニクス 第28章 §28.3 ★★★ 原子を光の定在波の底に閉じ込め、振動の広がりを時計の光の波長より小さくすると、Doppler のずれと反跳のずれが消える。格子の光が基底と励起で違う光シフトを与える問題は、2つの分極率が等しくなる魔法波長で解く

動く原子の問題

光の時計の遷移は周波数が高いので、原子の運動の影響も大きい。速さ vv の原子が時計の光の進む向きに動くと、1次の Doppler のずれ v/λv/\lambda が出る。レーザー冷却した原子でも v=1 cm s−1v=1\,\mathrm{cm\,s^{-1}} の程度は残り、λ=698.4 nm\lambda=698.4\,\mathrm{nm} では v/λ=14.3 kHzv/\lambda=14.3\,\mathrm{kHz} になる。これは縞の幅 1 Hz1\,\mathrm{Hz} の4桁上である。原子が光子を吸収するときの反跳のエネルギーの分だけ共鳴の周波数がずれる問題(反跳のずれ)もある。自由に落ちる原子では、これらを避けられない。

マイクロ波の噴水時計がこの問題を避けられたのは、波長(Cs で 3.26 cm3.26\,\mathrm{cm})が原子の雲より大きく、原子の位置で場の位相がほとんど変わらないからである。光の時計で同じ状況を作るには、原子をその場に閉じ込め、原子の位置の広がりを時計の光の波長よりずっと小さくすればよい。

Lamb–Dicke の領域

第27章(第27章)の1次元の光格子では、波長 λlat\lambda_{\mathrm{lat}}、波数 klat=2π/λlatk_{\mathrm{lat}}=2\pi/\lambda_{\mathrm{lat}} の向かい合う光の定在波が、双極子力のポテンシャル

U(z)=−U0cos⁡2(klatz)(28.11)U(z)=-U_0\cos^2(k_{\mathrm{lat}}z)\tag{28.11}

を作る(赤い離調で U0>0U_0>0。第25章の Udip=−14α′∣E∣2U_{\mathrm{dip}}=-\frac14\alpha'\lvert \mathcal E\rvert ^2 で、定在波の腹の電場の振幅を入れたもの)。各井戸の底のまわりで U≈−U0+U0klat2z2U\approx-U_0+U_0k_{\mathrm{lat}}^2z^2 と展開すると、原子は角周波数

ℏωtr=2U0ER,ER=ℏ2klat22m(28.12)\hbar\omega_{\mathrm{tr}}=2\sqrt{U_0E_{\mathrm R}},\qquad E_{\mathrm R}=\frac{\hbar^2k_{\mathrm{lat}}^2}{2m}\tag{28.12}

の調和振動子になる。ERE_{\mathrm R} は格子の光の光子1個の反跳エネルギーで、第27章の格子の反跳エネルギー(式 (27.3))である。

格子の振動子の基底状態の広がりを xzp=ℏ/(2mωtr)x_{\mathrm{zp}}=\sqrt{\hbar/(2m\omega_{\mathrm{tr}})} とし、時計の光の波数を kck_{\mathrm c} とすると、比

η=kcxzp=Erec,cℏωtr,Erec,c=ℏ2kc22m(28.13)\eta=k_{\mathrm c}x_{\mathrm{zp}}=\sqrt{\frac{E_{\mathrm{rec,c}}}{\hbar\omega_{\mathrm{tr}}}},\qquad E_{\mathrm{rec,c}}=\frac{\hbar^2k_{\mathrm c}^2}{2m}\tag{28.13}

を Lamb–Dicke パラメータと呼ぶ。第27章の式 (27.18) の kk を時計の光の kck_{\mathrm c} にしたもので、Erec,cE_{\mathrm{rec,c}} は第25章の反跳エネルギー ErecE_{\mathrm{rec}} の時計の光の版である。2つ目の形は、時計の光の反跳エネルギーと振動の量子の比の平方根である。時計の光を吸収する過程の Hamiltonian は eikcz^\mathrm{e}^{\mathrm{i} k_{\mathrm c}\hat z} を含み、z^=xzp(b^+b^†)\hat z=x_{\mathrm{zp}}(\hat b+\hat b^\dagger)(b^\hat b は格子の振動子の消滅演算子)と書くと eiη(b^+b^†)\mathrm{e}^{\mathrm{i}\eta(\hat b+\hat b^\dagger)} になる。η≪1\eta\ll1 なら展開の第1項 11 が主で、振動の量子数を変えない遷移(搬送波)が最も強い。振動の量子数を ±1\pm1 変える遷移(側帯波)は η\eta 倍の振幅しか持たず、周波数は ±νtr\pm\nu_{\mathrm{tr}} だけ離れる。縞の幅が νtr\nu_{\mathrm{tr}} よりずっと狭いと、搬送波だけを選んで測ることができる。搬送波の周波数は原子の重心の運動の状態によらないので、Doppler のずれも反跳のずれも入らない。この状況を Lamb–Dicke の領域と呼び、正確には η2(2n+1)≪1\eta^2(2n+1)\ll1(nn は振動の量子数)を条件とする。光の波長より小さな箱に閉じ込められた原子は、光子の運動量を原子1個でなく格子全体に渡すと読むこともできる。

格子の光による周波数のずれ

格子を使うと、新しい問題が1つ加わる。双極子力のポテンシャルは、原子の準位ごとの光シフトである。基底状態 ∣g⟩| g \rangle と励起状態 ∣e⟩| e \rangle の分極率を αg(ω)\alpha_g(\omega), αe(ω)\alpha_e(\omega) とすると、格子の電場の振幅 ∣E∣\lvert \mathcal E\rvert の所で

h δν=−14(αe(ωlat)−αg(ωlat))∣E∣2=−Δααg U0(28.14)h\,\delta\nu=-\frac14\bigl(\alpha_e(\omega_{\mathrm{lat}})-\alpha_g(\omega_{\mathrm{lat}})\bigr)\lvert \mathcal E\rvert ^2=-\frac{\Delta\alpha}{\alpha_g}\,U_0\tag{28.14}

だけ時計の遷移の周波数がずれる(Δα=αe−αg\Delta\alpha=\alpha_e-\alpha_g、U0=14αg∣E∣2U_0=\frac14\alpha_g\lvert \mathcal E\rvert ^2 は基底状態から見た格子の深さで、格子の光の角周波数を ωlat\omega_{\mathrm{lat}} と書いた)。格子の深さは数十 μK\mu\mathrm K、周波数にして数百 kHz\mathrm{kHz} なので、Δα/αg\Delta\alpha/\alpha_g がふつうの大きさなら、ずれは kHz\mathrm{kHz} の程度になる。しかも原子ごとに感じる強さが違い、光の強さの揺らぎもそのまま周波数の揺らぎになる。

香取は 2003 年に、格子の光の波長を選んで αe(ωlat)=αg(ωlat)\alpha_e(\omega_{\mathrm{lat}})=\alpha_g(\omega_{\mathrm{lat}}) にすれば、2つの準位が同じだけずれ、遷移の周波数は格子の強さによらなくなることを示した(H. Katori, M. Takamoto, V. G. Pal'chikov, V. D. Ovsiannikov, Phys. Rev. Lett. 91, 173005 (2003))。この波長を魔法波長と呼ぶ。Sr の 1S0{}^1S_0–3P0{}^3P_0 では魔法波長はおよそ 813.4 nm813.4\,\mathrm{nm} で、Takamoto たち(2005、Nature 435, 321)がこの波長の格子で光格子時計を動かした。

分極率の模型で交点を見る

魔法波長が存在する理由は、2つの準位の分極率が別の遷移で決まることにある。第11章(第11章)の Lorentz 振動子の分極率を、各準位から出る遷移について足し合わせる。

αi(ω)=e2me∑jfijωij2−ω2(i=g,e)(28.15)\alpha_i(\omega)=\frac{e^2}{m_{\mathrm e}}\sum_j\frac{f_{ij}}{\omega_{ij}^2-\omega^2}\qquad(i=g,e)\tag{28.15}

fijf_{ij} は準位 ii から jj への遷移の振動子強度、ωij\omega_{ij} はその角周波数である。基底状態 1S0{}^1S_0 の分極率は、主に波長 461 nm461\,\mathrm{nm} の強い遷移(1S0→1P1{}^1S_0\to{}^1P_1)で決まり、813 nm813\,\mathrm{nm} はその赤い側にあるので αg>0\alpha_g>0 で、波長が長くなると緩やかに減る。励起状態 3P0{}^3P_0 は、679 nm679\,\mathrm{nm} の遷移(3P0→3S1{}^3P_0\to{}^3S_1)の赤い側で正の大きな寄与を受け、それより長い波長の赤外の遷移(3P0→3D1{}^3P_0\to{}^3D_1 など)から負の寄与を受ける。このため αe\alpha_e は 679 nm679\,\mathrm{nm} の共鳴から離れるにつれて急に下がり、緩やかに変わる αg\alpha_g とどこかで交わる。

この形を見るために、ここでは3本の遷移だけの模型を置く。基底状態は 461 nm461\,\mathrm{nm} に f=1.92f=1.92、励起状態は 679.3 nm679.3\,\mathrm{nm} に f=0.6f=0.6 と 2.6 μm2.6\,\mu\mathrm m に f2f_2 を置き、交点が実験の 813.4 nm813.4\,\mathrm{nm} に来るように f2=0.429f_2=0.429 と選ぶ。振動子強度の値は実在の Sr の値を写したものでなく、交点の形を見るための仮の値である。図 28.3 が結果で、分極率を原子単位 4πε0a034\pi\varepsilon_0a_0^3 で表した。交点では αg=αe=289\alpha_g=\alpha_e=289 原子単位で、交点の近くでは Δα\Delta\alpha が格子の光の周波数にほぼ比例して変わり、周波数を上げる(波長を短くする)と Δα>0\Delta\alpha>0 になる。

図

図 28.3 式 (28.15) の3本の遷移の模型による Sr の2つの準位の分極率。振動子強度は交点を実験の魔法波長に合わせて選んだ仮の値。基底状態(青)は遠い 461 nm461\,\mathrm{nm} の共鳴で緩やかに変わり、励起状態(赤)は近い 679 nm679\,\mathrm{nm} の共鳴と赤外の共鳴に挟まれて急に変わるので、1か所で交わる

交点からわずかに外れると、式 (28.14) のずれが戻ってくる。必要な精度を見積もるのが次の例題である。ずれの大きさは U0U_0 に比例し、Δα\Delta\alpha の傾きにも比例するので、浅い格子ほど、魔法波長からのずれに寛容になる。ただし浅すぎる格子では ωtr\omega_{\mathrm{tr}} が下がり、Lamb–Dicke の条件が悪くなる。

例題 28.4 魔法波長に合わせる精度 ★★★

オリジナル上の模型で、交点の近くの傾きは d(Δα/αg)/dνlat=1.96×10−5 GHz−1\mathrm{d}(\Delta\alpha/\alpha_g)/\mathrm{d}\nu_{\mathrm{lat}}=1.96\times10^{-5}\,\mathrm{GHz^{-1}} である。Sr の質量は m=87 um=87\,\mathrm u とする。

  1. (1) 格子の光の反跳エネルギー ER/hE_{\mathrm R}/h(λlat=813.4 nm\lambda_{\mathrm{lat}}=813.4\,\mathrm{nm})を求めよ。
  2. (2) 深さ U0=100ERU_0=100E_{\mathrm R} の格子で、格子の光の周波数が魔法の値から 1 GHz1\,\mathrm{GHz} ずれたときの時計の周波数のずれを求めよ。
  3. (3) ずれを ν0\nu_0 の 10−1810^{-18} 以下に抑えるには、格子の光の周波数を魔法の値にどれだけの精度で合わせる必要があるか。
  4. (4) 魔法波長を使わず、模型で 1064 nm1064\,\mathrm{nm} の格子(深さ 100ER100E_{\mathrm R}、反跳エネルギーは 1064 nm1064\,\mathrm{nm} の値)を使うと、ずれはいくらになるか。模型の Δα(1064 nm)=−297\Delta\alpha(1064\,\mathrm{nm})=-297 原子単位、αg(1064 nm)=242\alpha_g(1064\,\mathrm{nm})=242 原子単位を使え。
解答

(1) ER/h=h/(2mλlat2)=6.626×10−34/(2×1.445×10−25×(813.4×10−9)2) Hz=3.47 kHzE_{\mathrm R}/h=h/(2m\lambda_{\mathrm{lat}}^2)=6.626\times10^{-34}/(2\times1.445\times10^{-25}\times(813.4\times10^{-9})^2)\,\mathrm{Hz}=3.47\,\mathrm{kHz} である。

(2) U0/h=347 kHzU_0/h=347\,\mathrm{kHz} で、式 (28.14) から ∣δν∣=1.96×10−5×347×103 Hz=6.81 Hz\lvert \delta\nu\rvert =1.96\times10^{-5}\times347\times10^{3}\,\mathrm{Hz}=6.81\,\mathrm{Hz} である。これは時計の縞の幅 1 Hz1\,\mathrm{Hz} を超え、ν0\nu_0 の 1.6×10−141.6\times10^{-14} にあたる。周波数を上げる側にずれると Δα>0\Delta\alpha>0 で、δν<0\delta\nu<0 になる。

(3) ν0×10−18=4.29×10−4 Hz\nu_0\times10^{-18}=4.29\times10^{-4}\,\mathrm{Hz} なので、許されるずれは 4.29×10−4/6.81 GHz=6.30×10−5 GHz=63.0 kHz4.29\times10^{-4}/6.81\,\mathrm{GHz}=6.30\times10^{-5}\,\mathrm{GHz}=63.0\,\mathrm{kHz} である。格子の光(369 THz369\,\mathrm{THz})の周波数を相対的に 1.7×10−101.7\times10^{-10} で合わせればよく、これは光周波数コムに格子のレーザーを合わせれば難しくない。

(4) 1064 nm1064\,\mathrm{nm} の反跳エネルギーは (813.4/1064)2×3.47 kHz=2.03 kHz(813.4/1064)^2\times3.47\,\mathrm{kHz}=2.03\,\mathrm{kHz} で、U0/h=203 kHzU_0/h=203\,\mathrm{kHz} である。δν=−(Δα/αg)U0/h=(297/242)×203 kHz=2.49×105 Hz\delta\nu=-(\Delta\alpha/\alpha_g)U_0/h=(297/242)\times203\,\mathrm{kHz}=2.49\times10^{5}\,\mathrm{Hz} で、ν0\nu_0 の 5.8×10−105.8\times10^{-10} にあたる。魔法波長を使うことで、このずれが8桁以上小さくなる。

例題 28.5 格子の深さと Lamb–Dicke パラメータ ★★

オリジナル813.4 nm813.4\,\mathrm{nm} の格子(U0=100ERU_0=100E_{\mathrm R})に Sr を閉じ込める。時計の光の反跳エネルギーは Erec,c/h=4.70 kHzE_{\mathrm{rec,c}}/h=4.70\,\mathrm{kHz}(698.4 nm698.4\,\mathrm{nm})である。

  1. (1) 式 (28.12) を U(z)U(z) の2階微分から導き、振動の周波数 νtr\nu_{\mathrm{tr}} を求めよ。
  2. (2) 格子の深さを温度で表せ。
  3. (3) Lamb–Dicke パラメータ η\eta を求め、Ramsey の縞の幅(tf=0.5 st_{\mathrm f}=0.5\,\mathrm s で 1 Hz1\,\mathrm{Hz})と側帯波の間隔を比べよ。
解答

(1) U′′(0)=2U0klat2U''(0)=2U_0k_{\mathrm{lat}}^2 なので mωtr2=2U0klat2m\omega_{\mathrm{tr}}^2=2U_0k_{\mathrm{lat}}^2、ℏ2ωtr2=2U0ℏ2klat2/m=4U0ER\hbar^2\omega_{\mathrm{tr}}^2=2U_0\hbar^2k_{\mathrm{lat}}^2/m=4U_0E_{\mathrm R} で、式 (28.12) を得る。数値では νtr=2100 ER/h=20×3.47 kHz=69.3 kHz\nu_{\mathrm{tr}}=2\sqrt{100}\,E_{\mathrm R}/h=20\times3.47\,\mathrm{kHz}=69.3\,\mathrm{kHz} である。

(2) U0/kB=100×6.626×10−34×3466/(1.381×10−23) K=16.6 μKU_0/ k_{\mathrm B}=100\times6.626\times10^{-34}\times3466/(1.381\times10^{-23})\,\mathrm K=16.6\,\mu\mathrm K である。Sr を光で冷やした温度(μK\mu\mathrm K の程度)より深いので、原子は井戸の底の近くにとどまる。

(3) η=4.70/69.3=0.260\eta=\sqrt{4.70/69.3}=0.260 で、η2=0.068≪1\eta^2=0.068\ll1 である。側帯波は搬送波から 69.3 kHz69.3\,\mathrm{kHz} 離れ、縞の幅 1 Hz1\,\mathrm{Hz} の 7×1047\times10^{4} 倍外にある。搬送波だけを選んで測るので、原子の振動による Doppler のずれは周波数を動かさず、振幅を η2\eta^2 の程度変えるだけである。

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

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