相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第8章 §4.8.6 ★★ 第一法則の仕事 −PdV と熱 TdS・Kelvin と Clausius の原理・Carnot の効率・理想気体の Otto サイクルを、この章の式の特別な場合として並べる
熱力学の授業では、第一法則を dU=d′Q+d′W、準静的な仕事を d′W=−PdV、準静的な熱を d′Q=TdS と書く。この章の式 (4.8.1) をエネルギーの基底で書くと E=∑npnEn なので
d′W=n∑pndEn,d′Q=n∑Endpn
である。準位 En(V) が体積で決まるとき、d′W=∑npn∂V∂EndV=−PdV で、圧力は P=−⟨∂En/∂V⟩ である。熱状態のまま変化するときは lnpn=−βEn−lnZ と ∑ndpn=0 から dS=−∑ndpnlnpn=β∑nEndpn で、d′Q=TdS に戻る。仕事は「準位が動く」、熱は「占有数が動く」と読める。
第二法則の2つの言い方も、この章の式から出る。熱浴が1つで系が1サイクルで元に戻るとき、定理 4.8.2 で ΔSS=0 なので −βQ=Σ≥0、取り出す仕事は −W=Q≤0 で、1つの熱浴から周期的に仕事は取り出せない(Kelvin の原理)。熱浴が2つのときは Σcyc=−Qh/kBTh−Qc/kBTc≥0 がClausius の不等式 ∮d′Q/T≤0 で、ここから Carnot の効率の上限が出る。この章の形の違いは、等号からのずれ Σ が D の値として与えられることである。
| 授業の形 | この章の形 | どこで |
| 第一法則 dU=d′Q+d′W | dE=TrH^dρ^+Trρ^dH^ | 式 (4.8.1) |
| 最大仕事 W≥ΔF | W−ΔF=kBT[I+D(ρ^B′∥ρ^Bβ)] | 4.8.3 節 |
| Clausius ΔS≥Q/T | ΔSS−βQ=D(ρ^SB′∥ρ^S′⊗ρ^Bβ) | 式 (4.8.6) |
| Carnot η≤1−Tc/Th | ηC−η=kBTcΣcyc/Qh | 式 (4.8.18) |
| Landauer QB≥kBTln2 | βQB=−ΔSS+I+D | 式 (4.8.11) |
授業で習う理想気体の Otto サイクル(2つの断熱過程と2つの定積過程)の効率は、比熱比を γad として η=1−(V1/V2)γad−1 である(V1<V2)。この章の2準位の Otto サイクルの効率 1−ωc/ωh は、断熱の行程ですべての準位が同じ比で縮むときの効率で、2つは次の例題でつながる。
例題 4.8.6 箱の中の粒子の Otto サイクルと理想気体 ★★
オリジナル1辺 L の立方体の箱に閉じ込めた粒子の準位は En=2mL2π2ℏ2(nx2+ny2+nz2) である。箱を長さ Lh で高温の熱浴に、長さ Lc(>Lh)で低温の熱浴に接し、その間は熱浴から離して箱の長さだけを変える Otto サイクルを考える。
- (1) 断熱の行程で占有数が保たれることを示し、効率を求めよ。Lc=2Lh のときの値はいくらか。
- (2) 単原子の理想気体の Otto サイクルの効率と比べよ。
解答
(1) 箱の長さを変えても固有状態 ∣n⟩ は形を相似に変えるだけで、すべての準位が同じ比 (L/L′)2 で動く。準位の順序も間隔の比も変わらないので、H^(L) と H^(L′) は同じ固有ベクトルの組を持ち可換で、占有数 pn は保たれる(2準位の行程 B・D と同じ理由)。高温の熱浴から受け取る熱は Qh=∑nEn(Lh)(pnh−pnc)、低温の側は Qc=−∑nEn(Lc)(pnh−pnc) で、En(Lc)=(Lh/Lc)2En(Lh) だから η=1+Qc/Qh=1−(Lh/Lc)2 である。Lc=2Lh で η=0.75 である。温度にも占有数にもよらず、準位の縮む比だけで決まる。
(2) 体積は V=L3 で、単原子の理想気体は γad=5/3 なので (Vh/Vc)γad−1=(Lh/Lc)3⋅2/3=(Lh/Lc)2 で、(1) と同じ効率 0.75 になる。理想気体の断熱過程 TV2/3= 一定は、準位が V−2/3 で縮むのに占有数が変わらないことを、温度の言葉で書いたものである。1次元の箱でも同じで、そのときは V=L、γad=3(自由度1の比熱 CV=kB/2)で (Lh/Lc)2 になる。高温で ⟨E⟩→kBT/2(1次元)となる極限では、1サイクルの仕事は古典の式 −W=2kB(Th−Tc/r)(1−r)、r=(Lh/Lc)2 に近づく。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com