解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第14章 §1.14.3 ★★★ パラメータを周期に比べてゆっくり変えると、エネルギーも周期も変わるが、作用変数 J はほとんど変わらない
ゆっくり変わるパラメータ
Hamiltonian が外から操作できるパラメータ λ を含む系 H(q,p;λ) を考える。振り子の糸の長さ、ばね定数、箱の幅がその例である。λ を一定にしておけば運動は周期的で、作用角変数 (θ,J) が前節の方法で作ることができる。ここで λ を時間とともに変える。変え方が「ゆっくり」であるとは、1周期のあいだの λ の相対的な変化が小さいこと、すなわち
ϵ:=Tλ∣λ˙∣≪1(1.14.11)
をいう。ϵ はこの章でだけ使う小さいパラメータで、λ が大きく(O(1) の割合で)変わるまでにかかる時間は周期の 1/ϵ 倍ほどになる。H が時刻を含むのでエネルギーは保存しない。λ を変える操作が系に仕事をする。
定理 1.14.3(作用変数の断熱不変性 ★★★)
自由度1の系で、λ を ϵ≪1 の速さで変える。λ が O(1) の割合で変わるあいだ、各時刻の λ で計算した作用変数J(q,p;λ) の変化は O(ϵ) にとどまる。一方、エネルギーと周期は O(1) の割合で変わる。
この主張の数学としての証明(どの条件で、どの時間の範囲まで成り立つか)は第V巻の平均化定理の仕事で、ここでは理由の筋道を示す。
理由:J˙ は角度について平均すると 0
各時刻の λ で作った母関数 W(q,J;λ) を使って、時刻ごとに (q,p) を (θ,J) へ変換する。λ が時刻とともに変わるので、母関数は時刻を含み、新しい Hamiltonian に ∂F2/∂t が足される(第1部第12章)。
K(θ,J,t)=H(J;λ)+λ˙Λ(θ,J;λ),Λ:=(∂λ∂W)q,J.(1.14.12)
Λ は q と J を止めて λ で微分した W を、θ と J で書き直したものである。J の Hamilton 方程式は
J˙=−∂θ∂K=−λ˙∂θ∂Λ(1.14.13)
となる。右辺は λ˙ に比例するので小さいが、0 ではない。J は1周期のあいだに O(ϵJ) だけ揺れる。
要点は、Λ が θ について周期 2π の関数であることである。q が1周して同じ点に戻ると W は ∮pdq=2πJ だけ増えるが、この増え方は J だけで決まり λ によらない。したがって W を λ で微分した Λ は、1周で元の値に戻る。周期関数の導関数 ∂Λ/∂θ は、θ について1周平均すると 0 になる。
1周期のあいだ λ˙ はほとんど一定で、θ は一定の速さ ω で 2π だけ進むので、式 (1.14.13) を1周期にわたって積分すると
ΔJ1周≈−ωλ˙∫02π∂θ∂Λdθ=0
となる。λ˙ の1次の大きさでは、1周ごとの J の変化が打ち消し合う。残るのは λ˙ の2次の大きさ(λ˙ が1周期のあいだに変わる分と、θ の進み方が一様からずれる分)で、1周あたり O(ϵ2J) である。λ が O(1) 変わるまでの周回数は 1/ϵ ほどなので、積み重なっても O(ϵJ) にしかならない。これが定理 1.14.3 の中身である。一方、エネルギーは E˙=∂H/∂t=λ˙∂H/∂λ で変わり、右辺の平均は一般に 0 でないので、λ が O(1) 変わるあいだに E も O(1) の割合で変わる。
調和振動子では式で見える
ばね定数をゆっくり変える調和振動子 H=2mp2+21mω(t)2q2 では、J˙ を母関数を使わずに直接計算することができる。J=H/ω を時間で微分し、Hamilton 方程式 q˙=p/m, p˙=−mω2q を使うと、H の時間変化は ∂H/∂t=mωω˙q2 だけなので
J˙=ωmωω˙q2−ω2Hω˙=ωω˙(mωq2−J).
式 (1.14.5) の mωq2=2Jsin2θ を入れると
J˙=−ωω˙Jcos2θ(1.14.14)
を得る。右辺は cos2θ に比例し、θ について平均すると 0 である。式 (1.14.13) と比べると Λ=2ωJsin2θ で、実際に (∂W/∂ω)q,J を計算するとこの形になる。Λ は θ について周期的で、新しい Hamiltonian はK=ωJ+2ωω˙Jsin2θ である。J は cos2θ で揺れながら、平均としては一定にとどまる。J=E/ω が一定なので、ゆっくりばね定数を変えると、エネルギーは角振動数に比例して変わる。振幅 2J/(mω) は ω−1/2 に比例する。
断熱不変性が成り立たない所
断熱不変性の理由は「1周期のあいだ λ がほとんど変わらない」ことだったので、周期が無限に長くなる所では成り立たない。振り子では、等エネルギー線がセパラトリクス(往復と回転の境目。第1部第8章)に近づくと周期が発散し、どれだけゆっくり λ を変えても ϵ=T∣λ˙∣/λ は小さくならない。パラメータを変えるうちに軌道がセパラトリクスを横切ると、J は O(ϵ) より大きく跳ぶ。また、周期に比べて速く変えた場合(ϵ≳1)にも J は保たれない(1.14.4節の図 1.14.2)。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ϵ=T∣λ˙∣/λ→0(パラメータの1周期あたりの相対変化が小さい) | 証明 条件付き(自由度1で、軌道が周期的なまま角振動数 ω(J,λ) が 0 に近づかない〔セパラトリクスを横切らない〕とき、θ を時間の代わりに使えば平均化定理の形になり、λ が O(1) 変わる時間 O(1/ϵ) のあいだ J のずれは O(ϵ)) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 1.14.3 べき乗のポテンシャルの係数をゆっくり変える ★★
オリジナルH=2mp2+λ∣q∣k(k>0)の係数 λ をゆっくり変える。
- (1) 作用変数が J∝λ−1/kE1/2+1/k の形になることを示せ。
- (2) λ をゆっくり変えたとき、E∝λ2/(k+2) となることを示せ。k=2 で1.14.3節の「エネルギーは角振動数に比例」に戻ることを確かめよ。
- (3) k=4 で λ をゆっくり2倍にすると、エネルギーは何倍になるか。
解答
(1) 転回点は λqmaxk=E から qmax=(E/λ)1/k。q=qmaxu と置くと
∮pdq=4∫0qmax2m(E−λqk)dq=42mEqmax∫011−ukdu.
最後の積分は k だけで決まる数なので、J∝E1/2(E/λ)1/k=λ−1/kE1/2+1/k。
(2) J が一定なら E(k+2)/(2k)∝λ1/k、両辺を 2k/(k+2) 乗して E∝λ2/(k+2)。k=2 では λ=21mω2 なので E∝λ1/2∝ω となり、J=E/ω が一定であることと一致する。
(3) E∝λ1/3 なので 21/3≈1.26 倍。m=1 で λ を 1 から 2 へ時間 600 かけて滑らかに変える数値積分(周期は 2 程度)でも、エネルギーは 1.260 倍になる(verify_ch1-14.py)。調和振動子なら 2≈1.41 倍、箱(k→∞)なら λ を変えてもエネルギーは変わらない。ポテンシャルの壁が急なほど、係数を変えたときのエネルギーの変化は小さい。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com