解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第13章 §2.13.4 ★★★ ベクトルの成分の偏微分はテンソルにならない。Christoffel 記号を足した共変微分がテンソルになり、Christoffel 記号そのものはテンソルでないので、1点で0にできる
偏微分はテンソルにならない
スカラー f の偏微分 ∂μf は余接ベクトルだった。ベクトル場 Vν の成分を偏微分した ∂μVν はどうか。式 (2.13.3) を新しい座標で微分すると、積の微分で
∂μ′V′ν=∂x′μ∂xα∂xβ∂x′ν∂αVβ+∂x′μ∂xα∂xα∂xβ∂2x′νVβ(2.13.13)
となる。1項目は (1,1) 型のテンソルの変換則だが、2項目が余分である。2項目は Jacobi 行列そのものの場所による変化から出る。理由は 2.13.2節で述べたとおりで、∂μVν は隣り合う2点の接ベクトルの成分の差であり、別の接空間の成分をそのまま引き算している。直交座標から直交座標への取り替えでは Jacobi 行列が定数なので2項目は消えるが、極座標では消えない。
共変微分
定義 2.13.4(共変微分と接続)
ベクトル場と余接ベクトル場の共変微分を、係数 Γρμν(接続の係数)を使って
∇μVν=∂μVν+ΓνμλVλ,∇μων=∂μων−Γλμνωλ(2.13.14)
で定める。スカラーには ∇μf=∂μf、一般のテンソルには上付き添字1つにつき +Γ、下付き添字1つにつき −Γ の項を足す。
余接ベクトルの符号は、スカラー ωνVν の微分に積の微分の規則 ∇μ(ωνVν)=(∇μων)Vν+ων∇μVν を要求すると決まる。左辺は ∂μ(ωνVν) なので、右辺の Γ の項が打ち消し合う必要があり、余接ベクトルでは −Γ になる。
∇μVν が (1,1) 型のテンソルになるように Γ の変換則を決める。式 (2.13.13) の余分な項を Γ′ の項が打ち消せばよいので、
Γ′ρμν=∂xα∂x′ρ∂x′μ∂xβ∂x′ν∂xγΓαβγ−∂x′μ∂xα∂x′ν∂xβ∂xα∂xβ∂2x′ρ(2.13.15)
である。式 (2.13.1) の2つ目の式を微分すると2項目は +∂xα∂x′ρ∂x′μ∂x′ν∂2xα とも書くことができる。1項目は (1,2) 型のテンソルの変換則だが、2項目があるため Γ はテンソルでない。直交座標で Γ=0 でも、取り替えが1次でなければ新しい座標で Γ′=0 になる。一方、2つの接続の差 Γ−Γ~ では2項目が打ち消し合うのでテンソルになる。2項目は下の2添字 μ,ν について対称なので、反対称な部分 Γρμν−Γρνμ(ねじれ)もテンソルである。
平面の直交座標で Γ=0 と置き、式 (2.13.15) の2つ目の書き方で極座標へ写すと、Γ′ρμν=∂Xa∂x′ρ∂x′μ∂x′ν∂2Xa だけが残る。∂θ2(X,Y)=(−rcosθ,−rsinθ)、∂r∂θ(X,Y)=(−sinθ,cosθ) と式 (2.13.2) の右の行列から
Γrθθ=cosθ(−rcosθ)+sinθ(−rsinθ)=−r,Γθrθ=Γθθr=r−sinθ(−sinθ)+cosθcosθ=r1(2.13.16)
で、ほかの成分は0である。これは第2部第12章で L2 の Euler–Lagrange 方程式から読み取った極座標の Christoffel 記号と一致する。平面に Γ=0 が現れたのは、平面が曲がっているからでなく、座標が曲がっているからである。
計量と両立し、ねじれの無い接続はただ1つ
接続 Γ は、変換則 (2.13.15) を満たしさえすれば何でもよい。計量があるときは、次の2つの条件で1つに決まる。
定理 2.13.5(Levi-Civita 接続 ★★★)
ねじれが無い(Γρμν=Γρνμ)こと、および計量と両立する(∇λgμν=0)ことを満たす接続はただ1つで、
Γρμν=21gρσ(∂μgσν+∂νgσμ−∂σgμν)(2.13.17)
である。これを Christoffel 記号と呼ぶ。
証明
下付き3つの Γσμν:=gσρΓρμν を使う。式 (2.13.14) の下付き添字の規則から∇λgμν=∂λgμν−Γνλμ−Γμλν なので、計量と両立する条件は
∂λgμν=Γνλμ+Γμλν
である。添字を回して ∂μgνλ=Γλμν+Γνμλ、∂νgμλ=Γλνμ+Γμνλ も成り立つ。この2つを足して最初の式を引き、ねじれが無いこと(後ろ2添字の対称性)を使うと、Γνμλ−Γνλμ と Γμνλ−Γμλν が消えて
∂μgνλ+∂νgμλ−∂λgμν=2Γλμν
が残る。gρλ を掛けて式 (2.13.17) を得る。逆に式 (2.13.17) の Γ は2つの条件を満たす。式 (2.13.17) の Γ が変換則 (2.13.15) を満たすことは、gμν の変換則 (2.13.9) を微分して確かめることができる。
第2部第12章では、作用 ∫dτ の Euler–Lagrange 方程式の中に式 (2.13.17) の組み合わせが現れた。ここでは同じ式が、「微分しても長さと角度を変えない」という幾何の条件から出た。2つの条件から同じ Γ が決まることが、2.13.5節で「長さを停留させる曲線」と「最もまっすぐな曲線」が一致する理由になる。以後、この巻では接続はすべて Levi-Civita 接続とする。この接続の役に立つ性質を2つ挙げておく。行列式の微分 ∂λln∣g∣=gμσ∂λgμσ と式 (2.13.17) から
Γμμλ=∂λln∣g∣,∇μVμ=∣g∣1∂μ(∣g∣Vμ)(2.13.18)
が成り立つ。発散は Γ を個別に計算しなくても ∣g∣ だけで書くことができる。
もう1つは Killing ベクトルの条件である。第2部第12章で座標で書いた Killing 方程式 ξλ∂λgμν+gλν∂μξλ+gμλ∂νξλ=0 は、ξν=gνλξλ として ∇μξν+∇νξμ を式 (2.13.14) で展開し、∂μξν=ξλ∂μgνλ+gνλ∂μξλ と式 (2.13.17) を代入すると左辺そのものになる。したがって
∇μξν+∇νξμ=0(2.13.19)
と書ける。左辺はテンソルなので、Killing ベクトルであるかどうかは座標によらない。
例題 2.13.4 回転のベクトル場の共変微分 ★★
オリジナル例題 2.13.2 の回転のベクトル場 V=∂θ(極座標の成分 (Vr,Vθ)=(0,1))について、
- (1) 式 (2.13.16) を使い、∇μVν の4成分を求めよ。
- (2) 直交座標では Γ=0 なので ∇μVν=∂μVν である。その成分を (1,1) 型のテンソルとして極座標へ写し、(1) と一致することを確かめよ。偏微分だけの ∂μVν とは一致しないことも確かめよ。
- (3) 発散 ∇μVμ を式 (2.13.18) で求めよ。
解答
(1) 成分は定数なので偏微分は0で、Γ の項だけが残る。
∇rVr=Γrrθ=0,∇rVθ=Γθrθ=r1,∇θVr=Γrθθ=−r,∇θVθ=Γθθθ=0.
(2) 直交座標の成分は (VX,VY)=(−Y,X) なので、0でないのは ∂XVY=1, ∂YVX=−1 だけである。(1,1) 型の変換則は Tμ′ν=∂x′μ∂Xa∂Xb∂x′νTab で、例えば
Tθ′r=∂θ∂X∂Y∂rTXY+∂θ∂Y∂X∂rTYX=(−rsinθ)(sinθ)(1)+(rcosθ)(cosθ)(−1)=−r
となる。同様に Tr′θ=cosθ⋅rcosθ⋅1+sinθ⋅r−sinθ⋅(−1)=r1、Tr′r=cosθsinθ−sinθcosθ=0、Tθ′θ=0 で、(1) とすべて一致する。偏微分だけなら極座標で ∂θVr=0 だが、テンソルとして写した値は −r なので、∂μVν は変換則を満たしていない。
(3) g=r なので ∇μVμ=r1[∂r(r⋅0)+∂θ(r⋅1)]=0 である。剛体回転の速度場は湧き出しも吸い込みも無い。(1) の対角成分の和 0+0 とも一致する。
同じ計算を余接ベクトルにも当てられる。例題 2.13.2 の ω=d(XY) では、式 (2.13.14) から ∇rωr=sin2θ, ∇rωθ=rcos2θ, ∇θωθ=∂θ2f−Γrθθ∂rf=−r2sin2θ となり、直交座標の2階微分の行列 (0110) を (0,2) 型として写したものと一致する。
1点で Christoffel 記号を0にする座標
Γ はテンソルでないので、1点 p で Γ=0 となる座標を作ることができる。p の座標を xp とし、yμ=xμ−xpμ として新しい座標を
x′ρ=yρ+21Γρμν(p)yμyν(2.13.20)
と選ぶ。点 p では ∂x′/∂x が単位行列で、∂2x′ρ/∂xμ∂xν=Γρμν(p) なので、変換則 (2.13.15) の2項が打ち消し合って Γ′ρμν(p)=0 になる。計量と両立する条件 ∂λgμν=Γνλμ+Γμλν から、これは ∂λ′gμν′(p)=0 と同じことである。さらに1次の取り替えで g′(p)=η にしておけば、点 p で計量が η になり、その1階微分も0になる座標ができる。時空ではこれが局所慣性系で、第2部第11章の等価原理が言う「自由落下する小さなエレベーターの中では重力が消える」ことの数学の形である(第2部第11章)。
2階微分まで消せるか数えてみる。∂α∂βgμν(p) は、(μν) と (αβ) がそれぞれ対称なので [n(n+1)/2]2 個ある。式 (2.13.20) に3次の項 61Cρμνλyμyνyλ を足して動かせる係数は、下3つが対称なので n⋅n(n+1)(n+2)/6 個である。差は
4n2(n+1)2−6n2(n+1)(n+2)=12n2(n2−1)
で、2次元で1個、4次元で20個が座標をどう選んでも消せずに残る。この残る2階微分の組み合わせが曲率で、第2部第14章の Riemann テンソルの独立な成分の数と一致する(第2部第14章)。
例題 2.13.5 球面の1点で Christoffel 記号を消す ★★
オリジナル半径 a の球面 (2.13.10) の Christoffel 記号のうち0でないものは Γθφφ=−sinθcosθ と Γφθφ=Γφφθ=cotθ である(第2部第12章の例題で求めた)。
- (1) 式 (2.13.17) からこの3つを確かめよ。
- (2) 点 p=(θ0,φ)=(π/4,0) で、式 (2.13.20) の新しい座標 (θ′,φ′) を具体的に書け。
- (3) その座標で、計量の1階微分が p で0になることを確かめよ。
解答
(1) gθθ=a2, gφφ=a2sin2θ で、0でない微分は ∂θgφφ=2a2sinθcosθ だけである。式 (2.13.17) からΓθφφ=2a21(−∂θgφφ)=−sinθcosθ、Γφθφ=2a2sin2θ1∂θgφφ=cotθ である。
(2) θ0=π/4 で Γθφφ=−21, Γφθφ=1 である。y=(θ−θ0,φ) として式 (2.13.20) は
θ′=(θ−θ0)−41φ2,φ′=φ+(θ−θ0)φ
となる。φ′ の2次の項は 21⋅2⋅Γφθφyθyφ(θφ と φθ の2つ分)である。
(3) 逆の取り替えを2次まで書くと θ−θ0=θ′+41φ′2+⋯, φ=φ′−θ′φ′+⋯ である。J=∂(θ,φ)/∂(θ′,φ′) は p で単位行列、1階までJ=(1−φ′φ′/21−θ′) である。g′=JTgJ の1次の部分を拾うと、gθ′φ′′ は a2(φ′/2)+a2sin2θ0(−φ′)=a2φ′(21−21)=0、gφ′φ′′ は a2sin2θ(1−θ′)2 の1次 a2(2sinθ0cosθ0θ′−2sin2θ0θ′)=a2θ′(1−1)=0、gθ′θ′′ は1次の項を持たない。したがって p で ∂′g′=0、つまり Γ′(p)=0 である。点 p のまわりでは、球面の計量は1次の精度で平面の計量 a2(dθ′2+21dφ′2) と区別することができない。
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