解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第17章 §2.17.2 ★★★ 曲率のスカラーは r=rs で有限で、発散するのは r=0 だけ。座標の特異点を取り除くには、光の世界線を座標の目盛りに使う
座標の特異点と時空の特異点
計量の成分は座標の取り方で変わる。平面の極座標 ds2=dr2+r2dϕ2 でも、r=0 で gϕϕ=0 となり逆行列が作れないが、平面そのものは原点で何もおかしくない。Cartesian 座標に戻れば計量は dx2+dy2 でどこも正則である。このように、座標を取り替えると消える計量の異常を座標の特異点と呼ぶ。どんな座標を選んでも消えない異常を時空の特異点(曲率の特異点)と呼ぶ。
2つを見分けるには、座標を取り替えても値の変わらない量を調べればよい。第2部第13章で示したとおり、添字をすべて縮約したスカラーはどの座標でも同じ値をとる。Schwarzschild 計量は真空解で Rμν=0 なので、R も RμνRμν も 0 で、特異点の判定には使えない。そこで Riemann テンソルそのものの2乗(Kretschmann スカラー)を計算すると
K:=RαβγδRαβγδ=r612rs2=c4r648G2M2(2.17.9)
となる(verify_ch2-17.py で sympy により Christoffel 記号から計算した)。K は添字を偶数回上げ下げしてできるので、計量の符号の流儀によらない。r=rs では K=12/rs4 という有限の値で、発散するのは r=0 だけである。したがって r=0 は時空の特異点、r=rs は座標の特異点の候補になる。有限であることだけでは「座標を取り替えれば消える」ことまでは言えないので、実際に正則になる座標を作る必要がある(2.17.3節)。
潮汐の大きさ
曲率は潮汐力として測れる(第2部第14章の測地線偏差の方程式)。第14章の式 (2.14.18) で、半径 r に一瞬静止した自由落下の観測者の局所慣性系の潮汐テンソルを近似なしに求めてある。その動径の成分 Er^r^=c2Rr^t^r^t^=−2GM/r3(Rr^t^r^t^=−rs/r3)から、動径方向に Δr だけ離れた2つの自由落下する粒子の間には
dτ2d2Δr=r3c2rsΔr=r32GMΔr(2.17.10)
の引き離す加速度が働く。第14章で見たとおり、これは Newton の潮汐力 −Δr∂r2(−GM/r)=2GMΔr/r3 と同じ形で、Schwarzschild 時空では近似なしに成り立つ。この成分は動径方向のブーストで変わらないので、まっすぐ落ちる観測者が感じる潮汐も同じ値である。
例題 2.17.2 地平面で感じる潮汐 ★★
オリジナル身長 2m の人が足を下にしてまっすぐ落ちていく。(2.17.10) を使い、r=rs を通るときに頭と足の間に働く潮汐の加速度を、(a) M=10M⊙ のブラックホール、(b) M=6.5×109M⊙ のブラックホール(M87 の中心の値)について求めよ。
解答
r=rs では r3c2rs=rs2c2 なので、潮汐の加速度は rs2c2×2m である。rs=2GM/c2 は質量に比例する。
(a) rs=10×2.953km=2.953×104m なので(2.953×104)2(2.998×108)2×2=2.06×108ms−2。地上の重力加速度の 2×107 倍で、体は地平面に着く前に引き伸ばされて壊れる。
(b) rs=6.5×109×2.953×103m=1.92×1013m(128 天文単位)なので(1.92×1013)2(2.998×108)2×2=4.9×10−10ms−2。何も感じない大きさである。
地平面での潮汐は 1/M2 に比例し、重いブラックホールほど地平面は局所的に平坦に近い。地平面は「そこで何かが起きる場所」として局所的に見分けられるものではなく、後で見るように、時空全体の中での因果の構造(どこへ信号が届くか)で決まる面である。
光の世界線を目盛りにする
座標の特異点を取り除くには、r=rs を越えても有限の値をとり続ける座標を探せばよい。(2.17.8) を積分すると、動径方向の光は
ct=±r∗+定数,r∗:=r+rslnrsr−1,drdr∗=1−rs/r1(2.17.11)
に沿って進む。r∗ を亀の座標(tortoise coordinate)と呼ぶ。r→rs で r∗→−∞ となり、光が地平面に近づくのに座標時間が無限にかかることがこの対数に表れている。(t,r∗) で書くと計量の t-r 部分は (1−rs/r)(c2dt2−dr∗2) となり、光は 45∘ の線に乗る。そこで、内向きの光の世界線で一定になる量 ct+r∗ や、外向きの光で一定になる ct−r∗ を新しい座標に採る。これが次の節の Eddington–Finkelstein 座標と、2.17.4節の Kruskal 座標の考え方である。光の世界線は座標によらず決まる幾何学的な対象なので、それを目盛りにした座標は計量の特定の書き方の癖を持ち込まない。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com