解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第17章 §2.17.5 ★★★ 第2部第16章の有効ポテンシャルを r≲3rs まで追うと、光の円軌道 3GM/c2、安定な円軌道の内側の端 6GM/c2、影の半径 33GM/c2 が出る
質量のある粒子の円軌道
r=rsx、ℓ=crsλ とおくと、(2.17.4) は
c21(dτdr)2=c4E~2−V(x),V(x)=(1−x1)(1+x2λ2)=1−x1+x2λ2−x3λ2(2.17.21)
と書ける。最初の3項は Newton の重力と遠心力のポテンシャルに当たり、最後の −λ2/x3 が一般相対論の補正である(第2部第16章)。この項は x が小さいと遠心力の項 λ2/x2 より大きくなり、遠心力による斥力の山の内側を負の側へ引き下げる。
円軌道は V′(x)=0 の点で、その角運動量は 第2部第16章の例題 2.16.2 で求めた ℓ2=GMr/(1−3GM/(c2r)) である。この章の変数で書き直すと
λ2=2x−3x2,すなわちℓ2=2r−3rsc2rsr2=1−3GM/(c2r)GMr(2.17.22)
である。x>3/2 でしか λ2>0 にならないので、質量のある粒子の円軌道は r>1.5rs にしか無い。V′(x)=x21−x32λ2+x43λ2 なので、与えられた λ について V′(x)=0 は x2−2λ2x+3λ2=0 で、その根はx±=λ2(1±1−3/λ2) である。x+ が極小(安定な円軌道)、x− が極大(不安定な円軌道)で、2つの根は λ2=3 で x=3 に重なり、λ2<3 では円軌道が無い(図 2.17.4)。したがって安定な円軌道は
r≥3rs=c26GM(2.17.23)
に限られる。この内側の端を最内安定円軌道(ISCO)と呼ぶ。第2部第16章の2.16.7節の総合問題 (5) では、円軌道のまわりの動径の振動数が 0 になる半径として同じ値を出した。ここでは極小と極大が重なる点、つまり有効ポテンシャルの変曲点として出した。円軌道のエネルギーは (2.17.22) を V に入れてE~2/c4=x(2x−3)2(x−1)2 で、ISCO(x=3)では E~=8/9c2=0.943c2 である。

図 2.17.4 無次元の有効ポテンシャル V(x)=(1−1/x)(1+λ2/x2)。λ2=3(青)では極大と極小が x=3 で重なって変曲点になり、これが最内安定円軌道。λ2=4(黒)では極大が x=2 で値 1(灰色の破線)、極小が x=6。E~2/c4 の高さの水平線との交点が転回点で、E~2/c4 が山の高さを超えると粒子は落ちる
ISCO は降着円盤の内側の縁の目安になる。ガスは円盤の中で角運動量を外へ渡しながらゆっくり内側の円軌道へ移り、ISCO に着くと安定な円軌道が無くなるので、そこから先はすぐに落ちる。遠方で静止していたガスが ISCO まで来る間に放出できるエネルギーは、静止エネルギーの 1−8/9=5.7% である。円軌道の角速度は 第2部第16章の総合問題で示したとおり遠方の時計で dφ/dt=GM/r3 で、M=10M⊙ の ISCO の公転周期は 2π(3rs)3/(GM)=4.5ms である。
光子球
光では (2.17.2) の右辺が 0 になり、アフィン径数 σ で
ℓ21(dσdr)2=b21−r21(1−rrs),b:=E~cℓ(2.17.24)
となる。b は遠方での光の衝突径数(直進したときに中心から外れる距離)である。右辺の第2項 W(r):=(1−rs/r)/r2 を光の有効ポテンシャルと見ると、W′(r)=0 から極大は
r=23rs=c23GM,Wmax=27rs24(2.17.25)
にある。この半径の球面を光子球と呼び、光がちょうど円を描いて回れる(ただし極大なので不安定な)軌道がある。1/b2>Wmax の光は山を越えて地平面に落ち、1/b2<Wmax の光は山で跳ね返されて遠方へ戻る。境目の臨界衝突径数は
bc=Wmax1=233rs=33c2GM≈2.60rs(2.17.26)
である。
ブラックホールの影
ブラックホールの後ろに明るい光源が広がっているとする。観測者から光を時間を逆にたどると、衝突径数 b<bc の光線はブラックホールに落ちて光源まで届かない。したがって観測者には、半径 bc の円の内側が暗く見える。これがブラックホールの影で、その半径は地平面の半径 rs の 2.6 倍ある。光が重力で曲げられて、地平面より大きく見えるのである。距離 D から見た影の角直径は 2bc/D である。
例題 2.17.6 M87 のブラックホールの影の大きさ ★★★
オリジナルEvent Horizon Telescope の最初の結果1The Event Horizon Telescope Collaboration, Astrophys. J. Lett. 875, L1 (2019).は、楕円銀河 M87 の中心について質量 M=(6.5±0.7)×109M⊙、距離 D=16.8Mpc を採り、観測された明るい環の直径を 42±3μas(マイクロ秒角)と報告した。
- (1) GM/(c2D) を μas の単位で求めよ(1pc=3.0857×1016m)。
- (2) Schwarzschild 計量で影の角直径 2bc/D を求め、観測された環の直径と比べよ。
解答
(1) GM/c2=6.5×109×1.477×103m=9.60×1012m、D=16.8×106×3.0857×1016m=5.18×1023m なのでGM/(c2D)=1.85×10−11rad。1μas=180×3600π×10−6rad=4.848×10−12rad で割って 3.82μas。
(2) 2bc/D=2×33×3.82μas=39.7μas。観測された環の直径 42±3μas と、質量の不確かさ(約 11%)の範囲で合う。環は影の縁のすぐ外を回る光(光子球の近くを何度か回ってから出てくる光)が明るく見えたもので、影の直径そのものではないが、大きさを決めているのは同じ bc である。M87 の中心の天体は回転していると考えられ、同論文は観測を Kerr ブラックホールの影と矛盾しないと結論している。
1 The Event Horizon Telescope Collaboration, Astrophys. J. Lett. 875, L1 (2019).
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