解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第19章 §2.19.6 ★★ 熱力学の授業の dU=TdS+ΩdJ・Euler の関係・Nernst の定理と、ブラックホールの第一法則・Smarr の公式・極限 Kerr を式で並べる
第一法則と自然な変数
熱力学の授業では、内部エネルギーを自然な変数 (S,V,N) の関数とみなし
dU=TdS−PdV+μdN,T=∂S∂UV,N(2.19.25)
と書く。回転する物体では、角運動量 J と角速度 Ω の組が加わって dU=TdS+ΩdJ となる(体積と粒子数を固定した場合)。ブラックホールでこれに対応するのは式 (2.19.17) の Mc2(A,J) で、
c2δM=8πGκc2δA+ΩHδJ,8πGκc2=∂A∂(Mc2)J,ΩH=∂J∂(Mc2)A
である。ブラックホールには体積と粒子数に当たる変数がなく、状態は (A,J)(電荷を入れれば Q も)だけで決まる。授業で「状態方程式」として個別に与えられていた T(S,V) や P(S,V) に対応するのは、一般相対論の解 (2.19.1) から決まる κ(A,J)・ΩH(A,J) である。
Euler の関係と Smarr の公式
授業の熱力学では、U(S,V,N) が示量変数について1次の同次関数 U(λS,λV,λN)=λU(S,V,N) であることから、Euler の同次関数の定理によって
U=TS−PV+μN(2.19.26)
が導かれる(Euler の関係)。系を λ 倍に複製すると、エネルギーもエントロピーも体積も λ 倍になるからである。
ブラックホールでは事情が違う。長さの単位を λ 倍に取り替えると、rg=GM/c2 と a=J/(Mc) がともに λ 倍になる解が得られるので、M→λM、J→λ2J、A→λ2A と変わる。つまり M(A,J) は
M(λ2A,λ2J)=λM(A,J)(2.19.27)
を満たす。これを λ で微分して λ=1 と置くと 2A∂M/∂A+2J∂M/∂J=M で、偏微分を第一法則の係数で書き直すと
Mc2=4πGκc2A+2ΩHJ(2.19.28)
を得る。Smarr(1973、Physical Review Letters 30、71)の公式で、Euler の関係 (2.19.26) のブラックホール版である。係数の2は、ブラックホールの M が A と J について1次でなく 1/2 次の同次関数であることによる。エネルギーが面積に比例しない(半径に比例する)ので、ブラックホールは示量的な系ではない。Schwarzschild では Mc2=κc2A/(4πG)=2THSBH で、普通の物質の U=TS−PV とは係数が違う形になる。
第三法則
授業の第三法則(Nernst–Planck の定理)は「T→0 で S→0」で、ここから「有限回の操作で T=0 に達しない」が導かれる。ブラックホールでは前者が成り立たず(極限 Kerr の面積は有限)、後者に当たる形だけを第三法則として立てる。この違いは、ブラックホールの SBH が普通の物質のエントロピーとどこまで同じものかという問いに直結し、相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部第1章で扱う。
Newton の重力との対応
授業の力学では、半径 R、質量 M の星の表面重力を GM/R2、脱出速度を 2GM/R と習う。脱出速度が c になる半径は R=2GM/c2=rs で、その表面重力は GM/rs2=c4/(4GM) である。どちらも Schwarzschild の rs と κ に一致するが、意味は違う。Newton の星の表面では光は(減速しながら)逃げられるし、表面重力は表面に立つ人が感じる加速度である。一般相対論の κ は、地平面のすぐ外の観測者が感じる加速度(発散する)に赤方偏移の因子をかけたもので、遠方から測った量である(式 (2.19.13))。
例題 2.19.6 Smarr の公式を数値で確かめる ★
オリジナル例題 2.19.1 のブラックホール(a∗=0.8)で、Smarr の公式 (2.19.28) の右辺の2項がそれぞれ Mc2 の何割かを求め、和が Mc2 になることを確かめよ。さらに、理想気体の U(S,V,N) のような1次の同次関数では右辺の係数が1になる理由を、同次性の次数から説明せよ。
解答
κ=(3/16)c2/rg、A=12.8πrg2 から
4πGκc2A=4π(3/16)⋅12.8πGc4rg=0.6Gc4c2GM=0.6Mc2.
ΩH=c/(4rg)、J=0.8Mrgc から 2ΩHJ=2⋅4rgc⋅0.8Mrgc=0.4Mc2。和は Mc2 になる。
f(λpx1,λpx2)=λqf(x1,x2) を λ で微分して λ=1 と置くと p(x1∂1f+x2∂2f)=qf なので、変数と偏微分の積の和は f の q/p 倍になる。示量的な熱力学系は p=q=1 で係数 1、ブラックホールは p=2、q=1 なので和は Mc2/2 になり、両辺を2倍した形が式 (2.19.28) である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com