解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第19章 §2.19.2 ★★★ 計量の対称性に Noether を当てるとエネルギーと角運動量が保存し、地平面の Killing ベクトルの「加速度」が表面重力 κ になる
粒子のエネルギーと角運動量
第2部第12章で、曲がった時空の粒子の Lagrangian を L=−mcgμνx˙μx˙ν と選び、その Euler–Lagrange 方程式が測地線方程式になることを見た。Kerr 計量 (2.19.1) は x0 と φ を含まないので、x0 と φ は循環座標で、対応する正準運動量が保存する。固有時で径数付けると∂L/∂x˙μ=−mgμνuν=−pμ なので、保存するのは p0 と pφ である。平坦な時空での値と比べて名前を付けると、
E=cp0=cξ(t)μpμ,Lz=−pφ=−ξ(φ)μpμ(2.19.7)
がそれぞれ遠方で測ったエネルギーと回転軸まわりの角運動量になる。平坦な時空では p0=E/c、pφ=gφφpφ=−mr2sin2θφ˙ なので、式 (2.19.7) は確かに普通のエネルギーと角運動量に戻る。符号の流儀 (+,−,−,−) では、共変成分 pφ の前に負号が付く所に注意する。第1部第10章の Noether の定理の言葉で言えば、時間の並進対称性からエネルギーが、軸まわりの回転対称性から角運動量が出ている。
この2つの量は、粒子がブラックホールに落ちたときの M と J の変化を決める。遠方から見た系全体のエネルギーと角運動量は保存するので、粒子が地平面を越えると、ブラックホールの質量と角運動量は
c2δM=E,δJ=Lz(2.19.8)
だけ変わる。ここで粒子はブラックホールの計量をほとんど変えないほど軽い(試験粒子)とし、δ は近くの Kerr 解へのずらしを表す。
表面重力
地平面の Killing ベクトル χ は地平面の上で光的で、その積分曲線は地平面を作る光線そのものである。光線は測地線なので、χ に沿った χ の変化は χ 自身に比例する:
χν∇νχμ=κˉχμ(地平面の上).(2.19.9)
比例係数 κˉ は長さの逆数の次元を持つ。κ=c2κˉ を表面重力と呼ぶ(加速度の次元)。χ は Killing ベクトルなので、式 (2.19.9) は
κˉ2=−21(∇μχν)(∇μχν)地平面(2.19.10)
とも書ける。Christoffel 記号は計量の全体の符号を変えても変わらないので、式 (2.19.9) は計量の流儀によらない。式 (2.19.10) も、添字の下がった因子と上がった因子が1つずつ符号を変えるので、(−,+,+,+) の教科書(Wald など)と同じ形になる。この章の検算(verify_ch2-19.py)では、Schwarzschild を地平面で正則な Eddington–Finkelstein 座標ds2=(1−rs/r)(dx0)2−2dx0dr−r2(dθ2+sin2θdφ2) で書き、χ=∂/∂x0 について χν∇νχμ=Γμ00 が r=rs で (1/(2rs))χμ になることを確かめた。Kerr については式 (2.19.10) を r→r+ の極限で数値的に評価し、結果が
κ=2(r+2+a2)c2(r+−r−)=2rgr+c2rg2−a2(2.19.11)
に θ によらず一致することを確かめた。a=0 では κ=c2/(2rs)=c4/(4GM) である。
表面重力の意味:赤方偏移をかけた加速度
定義 (2.19.9) は幾何の式だが、Schwarzschild では次の物理的な意味を持つ。半径 r に止まっている観測者は、落ちないためにロケットを噴かす必要があり、その固有加速度(観測者自身が加速度計で測る値)は
∣a∣=r2GM1−rs/r1(2.19.12)
である。これは4元速度 uμ=(c/g00,0,0,0) の加速度 uν∇νuμ の r 成分 c2Γr00/g00=GM/r2 に、固有の長さへの換算 −grr をかけて得られる。地平面に近づくと ∣a∣ は発散する。ところが、この観測者を遠方から無質量の糸で吊るすとき、遠方の人が糸を引く力は、重力赤方偏移の因子 V=g00=1−rs/r の分だけ小さく見える(局所で測ったエネルギーは遠方では V 倍に見える。第2部第11章)。その積は
V∣a∣=r2GM r→rs rs2GM=4GMc4=κ(2.19.13)
と有限の値に近づき、それが表面重力に一致する。「地平面のすぐ外で物を支えるのに、遠方から加えるべき単位質量あたりの力」が κ である。Newton の重力で半径 rs の星の表面重力を計算した GM/rs2 と同じ式になるのは、Schwarzschild 座標の r の選び方による一致で、回転していると式 (2.19.11) のように Newton の式からずれる。
地平面の近くの計量を見ると、この κ がもう1つの顔を持つことが分かる。第2部第17章の式 (2.17.28) で、地平面からの固有距離 ρ=2rs(r−rs) を使ってSchwarzschild 計量を ρ の最低次まで展開した。x0=ct で書き直すと
ds2≈(κˉρ)2(dx0)2−dρ2−rs2(dθ2+sin2θdφ2),κˉ=2rs1(2.19.14)
である。最初の2項は、第2部第11章の Rindler 座標 ds2=(gξ/c2)2c2dt2−dξ2 で g を κ に置き換えたものである。地平面のすぐ外は、加速度 κ の一様加速系と見分けがつかない。この観察は第5部第12章で、一様加速系の観測者が真空を温度 ℏa/(2πckB) の熱浴として感じる Unruh 効果を経由して、Hawking 温度 ℏκ/(2πckB) を出す道筋になる。
例題 2.19.2 地平面のすぐ外で止まる ★★
オリジナル質量 10M⊙ の Schwarzschild ブラックホールの外で、半径 r に止まっている観測者を考える(rs=2.953×104m)。
- (1) r=1.01rs で観測者が感じる固有加速度を求め、地上の重力加速度 9.80665ms−2 の何倍かを答えよ。
- (2) r=2rs、1.01rs で V∣a∣ を表面重力 κ と比べよ。
解答
(1) 表面重力は κ=c4/(4GM)=c2/(2rs)=1.522×1012ms−2。式 (2.19.12) で r=1.01rs とすると
∣a∣=(1.01rs)2GM1−1/1.011=1.012κ101=1.50×1013ms−2
で、地上の重力の 1.53×1012 倍である。ここで GM/rs2=κ を使った。
(2) V∣a∣=GM/r2=κ(rs/r)2 なので、r=2rs で κ/4、r=1.01rs で κ/1.0201=0.980κ。固有加速度 ∣a∣ は地平面で発散するのに、赤方偏移の因子をかけた V∣a∣ は滑らかに κ へ近づく。発散と有限の値の違いは、局所の観測者と遠方の観測者が同じ力を別の時計で測っていることだけによる。表面重力が地平面を特徴づける量として使えるのは、V∣a∣ の方が有限に残るからである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com