解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第10章 §3.10.6 ★★ Weiss の分子場・Curie–Weiss 則・van der Waals と Maxwell の等面積則・Clausius–Clapeyron の式を、拘束つきの自由エネルギーと Legendre 変換で読み直す
Weiss の分子場と Curie–Weiss 則
学部の統計力学では、強磁性を次のように扱うことが多い。格子の Ising 模型 H=−J∑⟨ij⟩σiσj−h∑iσi(⟨ij⟩ は隣どうしの対、隣の数を z とする)で、着目するスピンの隣の σj を平均 m で置き換えると、各スピンは有効な場 h+zJm(分子場)の中の独立なスピンになり、
m=tanh(β(zJm+h)),Tc=kBzJ,χ=kB(T−Tc)1(T>Tc)(3.10.30)
を得る。最後の式は Curie–Weiss 則と呼ばれる。この章の形との対応は、Curie–Weiss 模型の J を zJ に置き換えたものが式 (3.10.14) と式 (3.10.20) だということである。授業では「分子場で置き換える」という1つの操作で済ませるが、この章では2つの段階に分けた。第一は拘束つきの自由エネルギー f(m) を作る段階で、Curie–Weiss 模型ではここに近似は無い。第二は f(m)−hm を最小にする段階で、これは Legendre 変換である。自己無撞着方程式は、第二の段階の停留条件 f′(m)=h を書き直したものにすぎない。この分け方をすると、自己無撞着方程式の複数の解のうちどれを選ぶか(f の最小を選ぶ)、準安定状態とは何か(f の極小)が、方程式の外から規則を足さなくても決まる。
van der Waals と Maxwell の等面積則
液体と気体の転移は、授業では van der Waals の状態方程式 (P+awn2)(1−bwn)=nkBT(n は数密度、aw, bw は物質の定数)で扱う。臨界点の圧力・体積・温度で割った換算変数で書くと
P=3v−18T−v23(3.10.31)
になる(この小節に限り P,v,T は換算変数で、v は1粒子あたりの体積)。T<1 の等温線は ∂P/∂v>0 の不安定な部分を持ち、授業ではこれを「等温線と水平線で囲まれた2つの面積が等しくなる高さ」に置き換える(Maxwell の等面積則)。
この規則は、1粒子あたりの Helmholtz の自由エネルギー f(v)(∂f/∂v=−P)の共通接線と同じものである。等面積則は∫vlvgPdv=P∗(vg−vl) と書け、左辺は f(vl)−f(vg) に等しいので、
vg−vlf(vg)−f(vl)=−P∗=f′(vl)=f′(vg)(3.10.32)
となる。2点で同じ傾きを持つ1本の直線が f に接するという条件で、3.10.4節の凸包そのものである。この式を書き換えると f+Pv が2点で等しいこと、すなわち2相の化学ポテンシャル(1粒子あたりの Gibbs エネルギー)が等しいことになる。f(v) から P を固定した Gibbs エネルギーへ移るのは第3部第4章 の Legendre 変換で、凹んだ f の Legendre 変換が凸包を与えることが等面積則の中身である。
臨界点 (v,T,P)=(1,1,1) の近くで v=1+ϕ, T=1+τ と置いて展開すると
P≈1+4τ−6τϕ−23ϕ3(3.10.33)
となる(ϕ2 の項は臨界点で消える)。P−1−4τ を外場、−ϕ を秩序変数と読めば、h=am+bm3 と同じ形で、2次の係数が τ に比例する。したがって van der Waals の臨界点の指数も平均場の値になり、共存する2相の体積の差は vg−vl≈4−τ と (−τ)1/2 で消える。
Clausius–Clapeyron の式と Ehrenfest の分類
2相が共存する線の上では、2相の化学ポテンシャルが等しい:μl(T,P)=μg(T,P)。共存線に沿って (T,P) を動かしても等しいままなので、dμ=−sdT+vdP(s, v は1粒子あたりのエントロピーと体積)を両相で等しいと置き、
dTdP=vg−vlsg−sl=T(vg−vl)L(3.10.34)
を得る(L=T(sg−sl) は1粒子あたりの潜熱)。授業ではこの Clausius–Clapeyron の式を相図の傾きとして習う。この章の言葉では、Gibbs エネルギーの1階微分(s と v)が跳ぶ転移が1次、1階微分は連続で2階微分(比熱・磁化率)が跳ぶか発散する転移が2次である。これは Ehrenfest の分類の形で、Landau 理論の2次相転移は比熱が有限の跳びを持つので、この分類にちょうど当てはまる。実際の3次元の物質の2次相転移では比熱が発散し(α=0.110)、跳びという言い方は正確でないので、現在は「秩序変数が連続か不連続か」で1次と連続転移に分けることが多い。
対応を表にまとめる。
表 3.10.2 授業の形とこの章の形| 授業での形 | この章の形 |
| 分子場 h+zJm で独立なスピンに置き換える | 拘束つきの f(m) を作り、f(m)−hm を最小にする(Legendre 変換) |
| 自己無撞着方程式 m=tanh(β(zJm+h)) | 停留条件 f′(m)=h |
| Curie–Weiss 則 χ∝(T−Tc)−1 | χ=1/f′′(0)=1/a、揺らぎで書けば β∫Gddr |
| Maxwell の等面積則 | f(v) の共通接線=凸包(Fenchel–Moreau) |
| 2相で化学ポテンシャルが等しい | Legendre 変換した F(h) や G(P) の折れ目 |
| Clausius–Clapeyron の式 | 共存線に沿って Gibbs エネルギーの差を 0 に保つ条件 |
| 磁区・磁壁 | FL[m] の Euler–Lagrange 方程式の解(山から山へ転がる軌道) |
例題 3.10.6 臨界点の近くの共存曲線の幅 ★★
オリジナル換算した van der Waals の式 (3.10.31) を臨界点のまわりで展開した式 (3.10.33) を使う(v=1+ϕ, T=1+τ、τ<0)。
- (1) 式 (3.10.33) の範囲で等面積則を解き、共存圧力 P∗ と共存する2相の ϕ を求めよ。体積の差が vg−vl≈4(1−T)1/2 となることを示せ。
- (2) T=0.99 で (1) の近似値を出し、展開しない式 (3.10.31) の等面積則を数値で解いた値 vl=0.8309, vg=1.2430, P∗=0.9605 と比べよ。
- (3) 指数 21 が、Landau 理論の自発磁化 m0∝(Tc−T)1/2 と同じ平均場の指数であることを、係数の対応から説明せよ。
解答
(1) g(ϕ):=P−1−4τ=−6τϕ−23ϕ3=−23ϕ(ϕ2+4τ) は ϕ の奇関数である。水平線を P∗=1+4τ(g=0)に引くと、g(ϕ)=0 の解は ϕ=0,±2−τ で、−2−τ から 2−τ までの ∫gdϕ は奇関数の対称な区間の積分なので 0 になる。すなわち両端で圧力が等しく、囲まれた2つの面積も等しい。等面積の条件を満たす水平線は1本だけなので、これが共存の解で
P∗≈1+4τ,ϕl=−2−τ,ϕg=2−τ,vg−vl≈4−τ=4(1−T)1/2.
(2) T=0.99 では τ=−0.01 で、vl≈0.800, vg≈1.200, 差 0.400, P∗≈0.960 となる。数値の共存では差が 1.2430−0.8309=0.4120 で、近似との比は 1.030、P∗ は 0.9605 で 0.05% だけ違う。数値の2相の中点は 1.037 で、1 から少しずれている。式 (3.10.33) で落とした τϕ2 や ϕ4 の項は ϕ の偶関数なので、g の奇関数の対称性を崩し、中点をずらして幅を 3% 広げる。これらの項は ϕ∼−τ のとき残した項より −τ だけ小さいので、T→1 で比は 1 に近づく(T=0.999 で 1.003)。臨界点から離れた T=0.9 では、第3部第4章の例題 3.4.6 の差 1.745 に対して 40.1=1.265 で、展開は使えない。
(3) m=−ϕ, h=P−1−4τ と読むと、式 (3.10.33) は h=6τm+23m3 で、Landau の f′(m)=am+bm3=h の a=6τ, b=23 にあたる。h=0 の極小は m02=−a/b=−4τ で、(1) の ϕg2 と同じである。2次の係数 a が T−Tc に比例し、4次の係数 b が正の定数であれば、m0∝(Tc−T)1/2 になる。共存する2相は ±m0 の2つの極小で、体積の差 2m0 が同じ指数 21 で消える。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com