解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第10章 §3.10.2 ★★★ Curie–Weiss 模型で Z を m ごとに数え上げると f(m) が近似なしに出て、N→∞ で F は f の Legendre 変換になる
Curie–Weiss 模型
f(m) を仮定でなく計算で得るために、N 個のスピン σi=±1 が全部どうしで同じ強さ J/N で相互作用する模型
H=−2NJ(i=1∑Nσi)2−hi=1∑Nσi=−N(2Jm2+hm),m=N1i=1∑Nσi(3.10.6)
を選ぶ(Curie–Weiss 模型)。相互作用を 1/N 倍するのは、エネルギーが N に比例するようにするためで、この点は平均場極限(近似の数理 第6章)と同じスケーリングである。H が m だけで書けるのがこの模型の特徴で、そのため Z を m ごとにまとめて書ける。
m ごとに数える
上向きのスピンが k 個のとき m=(2k−N)/N で、そういう配置は二項係数 (kN) 通りある。したがって
Z=k=0∑N(kN)exp[βN(2Jmk2+hmk)],mk=N2k−N(3.10.7)
である。二項係数の大きさは、Stirling の公式を使わずに次の評価で押さえられる。k=N(1+m)/2 と書き、
s(m)=−21+mln21+m−21−mln21−m(3.10.8)
と置くと(s は1スピンあたりの混合のエントロピーを kB で割ったもの)、
N+11eNs(mk)≤(kN)≤eNs(mk)(3.10.9)
が成り立つ。右の不等式は、二項定理 1=∑j(jN)pj(1−p)N−j の j=k の項だけを残して p=k/N と置けば出る。左の不等式は、同じ p=k/N の二項分布の項のうち j=k の項が最大であることと、項が N+1 個しかないことから出る。
これを式 (3.10.7) に入れ、
f(m)=−2Jm2−kBTs(m)(3.10.10)
と定義すると、各項は e−βN[f(mk)−hmk] と (N+1)−1 倍以内で一致する。f(m) は「磁化を m に拘束したときの1スピンあたりの自由エネルギー」で、エネルギー −Jm2/2 からエントロピー kBs(m) の T 倍を引いた形をしている。項の数は N+1 個なので、和は最大の項と (N+1) 倍以内で一致し、
kmin[f(mk)−hmk]−kBTNln(N+1)≤NF≤kmin[f(mk)−hmk]+kBTNln(N+1)(3.10.11)
が厳密に成り立つ(F=−kBTlnZ)。N→∞ で mk の刻み 2/N は 0 になり、誤差の項も 0 に近づくので
N→∞limNF=−1≤m≤1min[f(m)−hm](3.10.12)
を得る。指数の肩に N が掛かった和が最大の項で決まるというこの議論は、Laplace の方法(鞍点法)の離散版である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 1/N→0(スピンの数が大きい) | 証明 証明済み(式 (3.10.11) の評価。誤差は kBTln(N+1)/N 以下) | 行き先 近似の数理 第6章
F は f の Legendre 変換
式 (3.10.12) の右辺は、第1部第7章の Legendre 変換(第1部第7章)f∗(h)=supm[hm−f(m)] を使えば
NF(h)=−f∗(h)(3.10.13)
と書ける。m と h が共役な変数の組で、拘束つきの自由エネルギー f(m) から外場を固定した自由エネルギー F(h) への移り変わりは、力学の L(q,q˙)→H(q,p)、熱力学の U(S)→F(T)(第3部第4章)と同じ操作である。最小点では f′(m)=h が成り立つ。式 (3.10.10) から s′(m)=−artanhm なので
−Jm+kBTartanhm=h⟺m=tanh(β(Jm+h))(3.10.14)
となる。これは、各スピンが「外場 h と、ほかのスピンの平均が作る場 Jm の和」を感じる独立なスピンとして振る舞う、という自己無撞着方程式である。相互作用の届く距離が短い格子の模型に平均場近似(第3部第7章)を当てても同じ形の方程式が出るが、Curie–Weiss 模型ではこれが N→∞ で厳密になる。第7章の式 (3.7.11)・(3.7.19) では同じ結果を Gibbs–Bogoliubov の不等式と数値で確かめた。ここでは二項係数の上下界(式 (3.10.11))で厳密に示した。
Legendre 変換の性質から2つのことがすぐに分かる。第一に、f∗ は f が凸かどうかにかかわらず凸なので、F(h) は h について必ず上に凸である。第二に、f が凸でなければ、f∗ を変換し直しても f には戻らず、その凸包 f∗∗ になる(第1部第7章 の Fenchel–Moreau)。熱平衡で観測できるのは F(h) だけなので、実験から再構成できる「m の関数としての自由エネルギー」は凸包 f∗∗ であり、凹んだ部分は直線(共通接線)に置き換わる。この直線が1次相転移の共存に当たることは3.10.4節で示す。
独立なスピン1個も同じ構造を持つ。J=0 では式 (3.10.12) の右辺は −kBTmaxm[βhm+s(m)] で、これは厳密な −kBTln(2coshβh) に等しい。すなわち ln(2coshy) と s(m) は Legendre 変換の対で、最大点は m=tanhy である。
Landau の展開を出す
式 (3.10.10) を m=0 のまわりで展開すると、−s(m)=−ln2+2m2+12m4+30m6+⋯ から
f(m)=−kBTln2+21(kBT−J)m2+12kBTm4+O(m6)(3.10.15)
となる。これは Landau の形 (3.10.2) そのもので、係数は
Tc=kBJ,a0=kB,b=3kBT≈3kBTc(3.10.16)
である。2次の係数 kBT−J の符号は、エネルギーの得(−Jm2/2)とエントロピーの損(kBTm2/2)のどちらが勝つかで決まる。Landau が仮定した3つの性質(解析性・偶関数・係数の符号)は、この模型では計算の結果として確かめられた。
例題 3.10.2 有限の N の分配関数と鞍点 ★★
オリジナルCurie–Weiss 模型で h=0, T=0.8Tc とする。
- (1) 自己無撞着方程式 (3.10.14) の正の解 m∗ を数値で求めよ。
- (2) N→∞ の (lnZ)/N の値を求めよ。
- (3) 式 (3.10.7) の和を N=10,100,1000 で数値計算すると (lnZ)/N=0.8395, 0.7414, 0.7302 になる。これが式 (3.10.11) の評価と矛盾しないことを確かめ、N を10倍するとずれがおよそ何倍になるかを述べよ。
解答
(1) βJ=Tc/T=1.25 なので m=tanh(1.25m) を解く。反復か二分法で m∗=0.710。
(2) 式 (3.10.12) から (lnZ)/N=−βminm[f(m)]=maxm[βJm2/2+s(m)]。最大点は m∗ で、βJm∗2/2=1.25×0.71042/2=0.3154、s(m∗)=0.4136 なので (lnZ)/N=0.7290。
(3) ずれは N=10,100,1000 で 0.1105, 0.0124, 0.0012 で、いずれも正で、評価の幅 ln(N+1)/N=0.240, 0.046, 0.0069 より小さい。ずれは N を10倍するとほぼ 1/10 になり、1/N に比例して減る(最大点のまわりの Gauss 積分の幅が出す O(lnN/N) の項は、2つの (kN) の補正と打ち消し合う。ここでは数値で確かめるだけにする)。m∗ と −m∗ の2つの最大点があることも、ln2/N の大きさの正のずれとして入っている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com