解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第3章 §4.3.6 ★★ 授業の「期待値の時間微分」の式は、Heisenberg 方程式の期待値をとったもの。演算子の方程式は期待値の式より多くを含む
期待値の時間微分
学部の量子力学の授業では、多くの場合 Schrödinger 描像だけを使い、期待値 ⟨A^⟩=⟨ψ(t)∣A^∣ψ(t)⟩ を時刻で微分して
dtd⟨A^⟩=iℏ1⟨[A^,H^]⟩+⟨∂t∂A^⟩(4.3.20)
を導く。Schrödinger 方程式とその共役 −iℏ∂t∂⟨ψ∣=⟨ψ∣H^ を使えば2行で出る式である。これを A^=q^, p^ に当てたものが Ehrenfest の定理として紹介され、「期待値は古典の運動方程式に従う」と説明されることが多い。この章の言葉では、式 (4.3.20) は Heisenberg 方程式 (4.3.5) の両辺を時刻 0 の状態で平均したものである。ただし 4.3.4節で見たように、⟨V′(q^)⟩=V′(⟨q^⟩) なので、「期待値が古典の運動方程式に従う」が正確に成り立つのは V が2次式までのときだけである。
演算子の方程式は、期待値の式より多くのことを含む。式 (4.3.11) を1回求めておけば、どの初期状態についても、分散 ⟨q^H(t)2⟩−⟨q^H(t)⟩2 や、異なる時刻の相関 ⟨q^H(t)q^H(0)⟩ が初期状態の期待値の組み合わせとして書くことができる。異なる時刻の相関は、揺らぎと線形応答の理論(第3部第9章)で主役になる量で、Schrödinger 描像のまま書こうとすると状態を時刻 0 から t へ動かし、演算子を挟み、また戻す手間が要る。
授業で並べられる古典と量子の対応を、この章の形で表にまとめる。
| 古典(第1部・第3部) | 量子(この章) |
| 物理量を運ぶ | dtdA={A,H}+∂t∂A | dtdA^H=iℏ[A^H,H^]+(∂t∂A^)H |
| 分布を運ぶ | ∂t∂ρ={H,ρ} | dtdρ^=iℏ[H^,ρ^] |
| 運動方程式 | q˙=p/m, p˙=−V′(q) | q^˙H=p^H/m, p^˙H=−V′(q^H) |
| 時間発展の性質 | 正準変換({q(t),p(t)}=1) | ユニタリ変換([q^H,p^H]=iℏ) |
| 保存量 | {G,H}=0 | [G^,H^]=0 |
相互作用描像
授業では、Hamiltonian を解ける部分と小さな部分に H^=H^0+V^ と分けたとき、演算子を H^0 で動かし、状態を残りで動かす相互作用描像も習う。A^I(t)=eiH^0t/ℏA^e−iH^0t/ℏ, ∣ψI(t)⟩=eiH^0t/ℏ∣ψ(t)⟩ とおくと
iℏdtd∣ψI(t)⟩=V^I(t)∣ψI(t)⟩,V^I(t)=eiH^0t/ℏV^e−iH^0t/ℏ
となる。V^I(t) は H^0 についての Heisenberg 演算子にほかならないので、H^0 が2次式なら 4.3.3節の結果をそのまま使うことができる。たとえば調和振動子に外力の項 V^=−Fq^ を足したとき、式 (4.3.11) から V^I(t)=−F(q^cosωt+mωp^sinωt) である。古典力学では、解ける部分 H0 の流れに乗った座標(初期値)に移り、残りの V だけでその座標の変化を書く方法(定数変化法、正準摂動論)がこれに当たる。光と物質の相互作用で遷移確率を求める 第4部第12章は、この描像で書く。
読み比べるときの注意
教科書によって、Heisenberg 方程式を dtdA^H=ℏi[H^,A^H] と書くものがあるが、これは式 (4.3.5) と同じ式である(交換子の順番を入れ替えて i を分子に移した)。注意が要るのは (∂t∂A^)H の意味で、これは「演算子 A^(t) の式に陽に入っている t で微分してから U^†⋯U^ で挟む」ものであり、dtdA^H とは別物である。時刻を陽に含む演算子の例が下の例題である。
例題 4.3.7 時刻を陽に含む保存量 ★★
オリジナル自由粒子 H^=p^2/(2m) で、時刻を陽に含む演算子 K^(t)=q^−mp^t を考える。
- (1) 命題 4.3.2 を使って dtdK^H=0 を示せ。
- (2) 例題 4.3.2 の q^H(t) を使って K^H(t) を直接求め、(1) と比べよ。
- (3) 古典力学の対応する量 K=q−pt/m の意味を述べよ。
解答
(1) [K^,H^]/(iℏ)=[q^,H^]/(iℏ)=p^/m(p^ は H^ と交換する)、∂t∂K^=−p^/m。和は 0 なので dtdK^H=0。
(2) K^H(t)=q^H(t)−mp^H(t)t=(q^+mp^t)−mp^t=q^。時刻によらず、(1) と一致する。∂t∂K^ の項を落として dtdK^H=[K^,H^]H/(iℏ)=p^/m とすると、保存しないという誤った結論になる。
(3) 古典では K=q−pt/m は「軌道を時刻 0 まで巻き戻した位置」、すなわち初期位置で、時刻を陽に含む保存量である(第1部第11章の Poisson の定理の節で扱った形)。dtdK={K,H}+∂t∂K=p/m−p/m=0 と、(1) と同じ計算になる。Galilei 変換(等速で動く座標系への乗り移り)の生成子は、この K に質量を掛けた量 mK=mq−pt(符号は変換の向きの取り方による)である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com