解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第9章 §4.9.5 ★★ 磁束を囲んで箱を運ぶと Berry 位相は qΦ/ℏ になり、Aharonov–Bohm 効果がこの章の特別な場合になる。古典の対応物は Foucault の振り子の振動面の回転
磁束のまわりを運ぶ箱
Berry が最初の論文で挙げた例の1つは、Aharonov–Bohm 効果1Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Phys. Rev. 115, 485–491.をこの章の枠組みで読み直すものである。電荷 q の粒子を小さな箱に閉じ込め、箱の位置 R をパラメータとする。空間には細い磁束管があって全磁束 Φ を運ぶが、箱は磁束管の外にあり、粒子のいる所では磁場は 0 である。磁場が 0 でもベクトルポテンシャル A(r) は 0 でなく、∇×A=0 である。第4部第6章(第4部第6章)で見たとおり、粒子の Hamiltonian はH^=2m1(p^−qA(r^))2+V(r^−R) で、V は箱の閉じ込めのポテンシャルである。
A=0 のときの箱の中の固有関数を ϕn(r−R)(実数にとる)とする。箱の中では ∇×A=0 なので、線積分 ∫RrA⋅dr′ は箱の中の道の選び方に依らず、
ψn(r;R)=exp(ℏiq∫RrA(r′)⋅dr′)ϕn(r−R)(4.9.23)
が A のあるときの固有関数になる(位相因子を掛けると (p^−qA) が p^ に置き換わる。第4部第6章のゲージ変換と同じ計算)。固有値は A が無いときと同じである。
Berry 接続はベクトルポテンシャル
式 (4.9.23) を R で微分すると、積分の下端の微分から −ℏiqA(R)ψn が、ϕn(r−R) の微分から −(∇ϕn) に位相因子を掛けたものが出る。ψn∗ を掛けて積分すると、第2の項は −∫ϕn∇ϕnd3r=−21∫∇(ϕn2)d3r=0 なので
An(R)=i⟨ψn∣∇Rψn⟩=ℏqA(R),γn(C)=ℏq∮CA⋅dR=ℏqΦ(4.9.24)
となる。Berry 接続は電磁場のベクトルポテンシャルそのもの(の q/ℏ 倍)で、Berry 位相は箱の道が囲む磁束 Φ に比例する。準位 n にも、箱の形にも、道の形にも依らず、道が磁束管を何回囲んだかだけで決まる。Berry 曲率は ℏq∇×A で、箱の通る所では 0 であり、磁束管の中にだけ集中している。4.9.4節の単極子が「パラメータ空間の点に集中した曲率」だったのと同じく、ここでは曲率がパラメータ空間(箱の位置の空間)の1本の線に集中している。
例題 4.9.5 半分の磁束量子を囲む電子 ★★
オリジナル電子(q=−e)を閉じ込めた箱を、磁束 Φ の管のまわりに1周させる。
- (1) Φ=h/(2e) のときの Berry 位相を求めよ。h/e の値を Wb で求めよ(h=6.626×10−34Js、e=1.602×10−19C)。
- (2) 箱を2つに分け、片方を磁束管の右側、もう片方を左側を通して反対側で合わせる干渉実験を考える。2つの道の位相差を Berry 位相で表し、(1) の磁束のとき干渉の縞がどうなるか述べよ。
- (3) 1周させる道を、磁束管を囲まない閉曲線に変えると Berry 位相はいくらか。
解答
(1) 式 (4.9.24) で γ=qΦ/ℏ=−e⋅2eh⋅h2π=−π。eiγ=−1 で、箱の中の状態は1周で符号が反転する。h/e=6.626×10−34/1.602×10−19=4.136×10−15Wb。
(2) 右回りの道 C1 と左回りの道 C2 の位相の差は ℏq(∫C1−∫C2)A⋅dR=ℏq∮A⋅dR で、C1 と −C2 をつないだ閉曲線が磁束管を1回囲むので qΦ/ℏ になる。Φ=h/(2e) では差が −π で、磁束が無いときに強め合っていた位置が弱め合いになり、縞が半周期ずれる。
(3) 磁束管を囲まない閉曲線の内側では ∇×A=0 なので、Stokes の定理で γ=0 である。
古典の対応物:Foucault の振り子
古典力学に Berry 位相の対応物があるかを考える。第1部第14章の作用角変数で、パラメータをゆっくり変えると J は保たれ、角変数は θ˙=ω(J,λ) で進む。パラメータを閉曲線に沿って1周させたとき、角変数の進みは ∫ωdt だけでなく、パラメータの道の形だけで決まるずれを含みうる。Hannay(1985)はこのずれを可積分系について一般に与えた2J. H. Hannay (1985), J. Phys. A: Math. Gen. 18, 221–230.。これを Hannay 角と呼ぶ。量子の動的位相 −ηn=−ℏ1∫Endt が古典の ∫ωdt に、Berry 位相が Hannay 角にあたる。
Hannay 角の例としてよく引かれるのが Foucault の振り子である。余緯度 θc(北極からの角。緯度は 90∘−θc)の地点で、地面に固定した東向きを x、北向きを y とする。地球の自転の角速度 ωE の鉛直成分は ωEcosθc で、小さな振れの振り子は地面に固定した枠で
x¨=−ω02x+2ωEcosθcy˙,y¨=−ω02y−2ωEcosθcx˙(4.9.25)
に従う(Coriolis 力 −2mωE×r˙ の水平成分。遠心力は重力に含めた)。x+iy に組むと、解は e−iωEcosθct と振動の積になり、振動面は角速度 −ωEcosθc(北半球では上から見て時計回り)で回る。地球が1回転(恒星日)する間に、振動面は地面に対して −2πcosθc 回る。
角度は 2π を法として意味を持つので、−2πcosθc≡2π(1−cosθc)=ΘC である。ΘC は、振り子の吊り下げ点の鉛直方向(パラメータ)が1日に描く緯線が、北極側に張る立体角にほかならない。スピン 21 の Berry 位相 −21ΘC と同じ立体角が現れる。球面の緯線を1周する接ベクトルを平行移動したときの回転 2π(1−cosθ0)(第2部第13章の式 (2.13.24)。θ0 が緯線の余緯度)とも同じ立体角で、振動面の向きは球面の上で平行移動される接ベクトルにあたる。この角は ωE にも振り子の振幅にも依らず、緯線の形だけで決まる。地球の自転が今の半分の速さでも、1回転あたりの振動面の回転は同じである(式 (4.9.25) の数値積分で確かめた。検算 verify_ch4-09.py)。
量子の言葉でも同じ結論が出る。2次元の等方的な振動子の円運動の状態は、鉛直軸のまわりの角運動量 ±ℏ を持ち、鉛直軸の向きが閉曲線を描くと式 (4.9.17) で ∓ΘC の Berry 位相を拾う。直線の振動は2つの円運動の重ね合わせで、相対位相 2ΘC のずれは振動面の向きを ΘC だけ回す。
例題 4.9.6 東京の Foucault の振り子 ★★
オリジナル東京(北緯 35.68∘)に Foucault の振り子を置く。恒星日を 23.9345 時間とする。
- (1) 振動面が地面に対して1周する時間を求めよ。
- (2) 地球が1回転する間に振動面が回る角を度で求め、それが緯線の張る立体角 ΘC(2π を法として)と等しいことを確かめよ。
- (3) 赤道と北極では1回転あたりの角はいくらか。ΘC の値と照らし合わせよ。
解答
(1) 振動面の角速度の大きさは ωEcosθc=ωEsin(35.68∘) で、sin35.68∘=0.5833。1周の時間は 23.9345/0.5833=41.0 時間である。
(2) 1回転で −360∘×0.5833=−210.0∘(時計回りに 210.0∘)。360∘ を足すと +150.0∘。一方 ΘC=2π(1−cosθc)=2π(1−0.5833)=2.618rad=150.0∘ で一致する。
(3) 赤道(θc=90∘)では振動面は回らず、角は 0。緯線は大円で、北側に張る立体角は半球の 2π≡0 である。北極(θc=0)では −360∘≡0 で、鉛直方向は動かず、緯線は1点に縮んで ΘC=0 である。北極の振り子は宇宙に対して向きを保ち、地球がその下で1回転する。
1 Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Phys. Rev. 115, 485–491.
2 J. H. Hannay (1985), J. Phys. A: Math. Gen. 18, 221–230.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com