解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第9章 §4.9.3 ★★★ 断熱的に1周させた状態は、動的位相のほかに γn=∮An⋅dR を拾う。An=i⟨n∣∇Rn⟩ はゲージ変換で An−∇χ と変わり、閉曲線の積分は変わらない
残った対角の項
断熱定理が成り立つとき、式 (4.9.8) の非対角の項を落とし、cn(0)=1 の成分だけを追えばよい:
c˙n=−cn⟨n∣n˙⟩=−cnR˙⋅⟨n∣∇Rn⟩.
⟨n∣n˙⟩ は純虚数なので、解は絶対値1の位相因子 cn(t)=eiγn(t) で、
∣ψ(t)⟩=eiγn(t)e−iηn(t)∣n(R(t))⟩,γn(t)=∫R(0)R(t)An(R)⋅dR(4.9.12)
となる。ここで
An(R)=i⟨n(R)∣∇Rn(R)⟩(4.9.13)
を Berry 接続と呼ぶ。⟨n∣∇n⟩ が純虚数なので An は実数のベクトルである。4.9.2節の動く基底の言葉では、式 (4.9.9) の新しい Hamiltonian の対角要素が En−ℏR˙⋅An になり、その時間積分を −ℏ1 倍したものが −ηn+γn である。
式 (4.9.12) の γn は時間の積分でなく、パラメータ空間の道に沿った線積分になっている。R(t) を同じ道に沿って2倍の速さで動かしても、dR の積分は同じである。動的位相 ηn はかかった時間に比例するのに対し、γn は通った道の形だけで決まる。この性質を「幾何学的」と呼ぶ。
ゲージ変換と閉じた道
式 (4.9.4) のゲージ変換 ∣n⟩→eiχ(R)∣n⟩ をすると
i⟨n∣∇n⟩ → i⟨n∣e−iχ∇(eiχ∣n⟩)=i⟨n∣∇n⟩−∇χ,つまりAn→An−∇Rχ
と変わる。電磁場のベクトルポテンシャルのゲージ変換と同じ形である。したがって開いた道の γn は χ(終点)−χ(始点) だけ変わり、固有状態の位相の選び方で好きな値にすることができる。固有状態 ∣n(R(t))⟩ 自身の位相も同じだけ変わるので、状態 ∣ψ(t)⟩ は変わらない。開いた道では γn に物理的な意味はない。
道が閉じていて R(T)=R(0) のとき、χ が1価なら χ(R(T))−χ(R(0))=0 で、
γn(C)=∮CAn⋅dR(4.9.14)
はゲージ変換で変わらない。χ が1周で 2π の整数倍だけ変わる選び方も許すと、γn(C) は 2π を法として決まる。このとき ∣n(R(T))⟩=∣n(R(0))⟩ なので、終わりの状態は初めの状態の
∣ψ(T)⟩=eiγn(C)e−iηn(T)∣ψ(0)⟩
倍になる。動的位相と並んで、閉曲線 C で決まる位相 γn(C) が観測できる量として残る。これが Berry 位相である。全体の位相は1つの状態だけでは観測できないが、別の道を通った状態や別の準位の状態と重ね合わせると、干渉の縞のずれとして測ることができる。
スピン 21 の Berry 位相
式 (4.9.6) の ∣+⟩ で Berry 接続を計算する。R の向きだけに依るので、θ と φ の微分を計算すればよい。∂θ∣+⟩=21(−sin2θ, eiφcos2θ)T と ∣+⟩ の内積は 0、∂φ∣+⟩=(0, ieiφsin2θ)T との内積は isin22θ なので、
A+⋅dR=i⟨+∣∂φ+⟩dφ=−sin22θdφ(4.9.15)
である。R が極角 θ0 の円を φ の増える向き(z 軸の正の側から見て反時計回り)に1周すると
γ+(C)=−2πsin22θ0=−π(1−cosθ0)=−21ΘC,ΘC=2π(1−cosθ0)(4.9.16)
となる。ΘC は、原点から見て円 C が張る立体角(単位球面の上の北極側の帽子の面積)である(図 4.9.1)。スピン 21 の Berry 位相は、磁場の向きが描いた閉曲線の立体角の −21 倍になる。磁場の強さ R にも、1周にかけた時間にも依らない。反対向きの状態 ∣−⟩ では同じ計算で γ−(C)=+21ΘC になる。

図 4.9.1 磁場の向き R(t)/R が単位球面の上に描く閉曲線 C(極角 θ0 の円)と、それが北極側に張る立体角 ΘC=2π(1−cosθ0)(塗った帽子)。スピン 21 の ∣+⟩ の Berry 位相は γ+=−ΘC/2 で、縮退点(原点)から見た閉曲線の見込む立体角だけで決まる
角運動量 m の状態と回転の生成子
式 (4.9.16) は、第1部第9章(第1部第9章)の生成子の言葉で一般のスピンに広げることができる。角運動量 j の系が H^=ℏbn⋅J^ に従うとき、n の向きの成分が mℏ の固有状態は、z 向きの ∣m⟩ を回転させて
∣m;n⟩=e−iφ(J^z/ℏ−m)e−iθJ^y/ℏ∣m⟩
と作ることができる。J^y/ℏ と J^z/ℏ は回転の生成子(第4部第5章)で、eimφ の因子は北極で1価にするために付けた。∂φ は先頭の因子から −i(J^z/ℏ−m) を下ろすので
Aφ=i⟨m;n∣∂φm;n⟩=ℏ1⟨m∣eiθJ^y/ℏJ^ze−iθJ^y/ℏ∣m⟩−m=mcosθ−m
であり(J^z を y 軸のまわりに回すと J^zcosθ−J^xsinθ で、∣m⟩ での J^x の期待値は 0)、θ 成分は ⟨J^y⟩=0 から 0 になる。よって
γm(C)=−mΘC(4.9.17)
を得る。m=21 が式 (4.9.16) である。Berry 位相は、角運動量の成分 m と、軸の向きが描いた立体角の積になる。ΘC は回転の角度を立体角に置き換えたもので、軸を z 軸のまわりに角 α だけ回す変換が e−imα を与えることの、閉じた道に対する版になっている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏω/b→0(1周にかける時間が、準位の間隔で決まる位相の周期より長い) | 証明 条件付き(ギャップが閉じない。有限の速さでの補正が ℏω/b の1次であることは、この節の回る磁場の厳密解で確かめた) | 行き先 近似の数理 第7章
式 (4.9.16) は断熱極限の値である。例題 4.9.2 の回る枠を使うと、有限の速さでも厳密な解が書けるので、断熱極限からのずれを見ることができる。1周 T=2π/ω の後の arg⟨+(R(0))∣ψ(T)⟩ から動的位相 −bT/ℏ を引いた量を数値で求め、−π(1−cosθ0) と比べたのが図 4.9.2 である。H^′ の固有値 R′=b2−bℏωcosθ0+ℏ2ω2/4 を ℏω/b で展開すると、ずれは −4π(ℏω/b)sin2θ0 で、ℏω/b→0 で Berry 位相に収束する(検算 verify_ch4-09.py)。

図 4.9.2 円錐の上を1周する磁場の中のスピン 21 の幾何学的位相。実線は断熱極限の Berry 位相 γ+=−π(1−cosθ0)、点線つきの印は回る枠で求めた厳密解から動的位相 −bT/ℏ を引いた値(2π の整数倍は実線に近い枝を選んだ)。速さ ℏω/b を小さくすると実線に近づく
例題 4.9.3 円錐の上を回る磁場の Berry 位相 ★★
オリジナルスピン 21 の ∣+⟩ が、極角 θ0 の円錐の上をゆっくり1周する磁場に追随する。
- (1) θ0=60∘ と θ0=90∘ の Berry 位相を求めよ。90∘ の結果が π と同じ位相になることを確かめよ。
- (2) θ0=60∘ の円を、同じ向きに2周させたときの Berry 位相を求めよ。1周を2倍の時間をかけて回した場合と比べよ。
- (3) 初めの状態を 21(∣+⟩+∣−⟩) にとって θ0=90∘ の円を1周させると、終わりの状態の ∣+⟩ と ∣−⟩ の相対位相のうち、動的でない部分はいくらか。
解答
(1) θ0=60∘ では cosθ0=21 で ΘC=π、γ+=−π/2。θ0=90∘ では ΘC=2π(半球)で γ+=−π。位相は 2π を法として決まるので −π と π は同じで、eiγ+=−1 である。赤道を1周した状態は符号が反転する。
(2) 線積分 ∮A+⋅dR を2回行うので γ+=2×(−π/2)=−π。1周を2倍の時間で回しても、通る道は同じなので Berry 位相は −π/2 のまま変わらず、動的位相だけが2倍になる。Berry 位相は「何周したか」には比例するが、「どれだけ時間をかけたか」には依らない。
(3) ∣+⟩ は −π、∣−⟩ は +π の Berry 位相を拾うので、動的でない相対位相は γ+−γ−=−2π で、e−2πi=1 となり干渉には現れない。一般の θ0 では相対位相は −ΘC で、たとえば θ0=60∘ なら −π となり、2つの成分の相対的な符号が反転する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com