解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第12章 §4.12.3 ★★★ 長い時間のあと sin2(Δt/2)/(Δ/2)2 は 2πtδ(Δ) になり、遷移確率が時間に比例する。その係数が遷移の速さになる
時間とともに鋭くなる関数
式 (4.12.13) の時間と離調への依存は、関数
Ft(Δ)=(Δ/2)2sin2(Δt/2)(4.12.14)
にまとまっている。Ft(0)=t2 で、最初に 0 になるのは Δ=±2π/t である。つまり高さは t2、幅は 1/t に比例する。面積は
∫−∞∞Ft(Δ)dΔ=2πt(4.12.15)
で、t に比例する(u=Δt/2 と置換して ∫sin2u/u2du=π を使う)。図 4.12.2 に Ft/(2πt) を描いた。面積が 1 に保たれたまま幅が狭くなるので、t→∞ で
Ft(Δ)⟶2πtδ(Δ)(4.12.16)
と見なせる。時間 t だけ見ている測定は、角振動数を 1/t より細かく区別できない。Ft の幅はこの「時間とエネルギーの不確定性」を表している。

図 4.12.2 1次の遷移確率の離調への依存 Ft(Δ)=sin2(Δt/2)/(Δ/2)2 を 2πt で割ったもの。どの t でも面積は 1 で、高さ t/(2π)、幅 2π/t の山になる。t→∞ で δ(Δ) に近づく
黄金律
式 (4.12.16) を式 (4.12.13) に入れると、δ(Δ)=δ(ω−ωfi)=ℏδ(Ef−Ei−ℏω) から
Pf←i(t)=ℏ2π∣⟨f∣H^ω∣i⟩∣2δ(Ef−Ei−ℏω)t
となる。確率が時間に比例するので、単位時間あたりの遷移確率(遷移の速さ)が意味を持つ。
定理 4.12.1(Fermi の黄金律 ★★★)
摂動 (4.12.12) による ∣i⟩ から ∣f⟩ への単位時間あたりの遷移確率は
wf←i=ℏ2π∣⟨f∣H^ω∣i⟩∣2δ(Ef−Ei−ℏω)(4.12.17)
である(吸収。放出は H^ω→H^ω†、−ℏω→+ℏω)。
デルタ関数が残っている式は、そのままでは数にならない。数になるのは、終状態か光のどちらかが連続的に分布していて、デルタ関数を積分で消せるときである。終状態がエネルギーについて密度 ρ(E) で連続的に並んでいる(電離した電子・固体のバンド)なら、終状態について和をとって
w=ℏ2π∣⟨f∣H^ω∣i⟩∣2ρ(Ei+ℏω)(4.12.18)
になる。終状態がとびとびの原子の準位でも、光の角振動数が幅を持って分布していれば、ω について積分してデルタ関数を消せる(4.12.5節)。
黄金律が成り立つ時間の窓
式 (4.12.16) の置き換えには、2つの条件が要る。1つ目は、Ft の幅 2π/t が、終状態の密度 ρ や光のスペクトルが変わる幅 δω より十分狭いこと、つまり t≫1/δω である。2つ目は、1次の摂動が使えること、つまり遷移確率の合計 wt が 1 より十分小さいことである。2つを合わせると
δω1≪t≪w1(4.12.19)
の時間の窓で黄金律が成り立つ。窓が開くのは w≪δω、すなわち遷移の速さが分布の幅より十分遅いときである。窓より長い時間については、始状態の確率が e−wt で減っていくと考えるのが自然で、実際に Weisskopf と Wigner1V. Weisskopf, E. Wigner (1930), Z. Phys. 63, 54.は、終状態が連続的なときに始状態の振幅がe−Γt/(2ℏ)(Γ=ℏw)で減ることを示した。第4部第2章の例題で扱った非エルミートな H^0−iΓ/2 は、この減衰を始状態だけに注目して書いたものである。Γ は準位の幅にあたり、その準位から出る光のスペクトルは幅 Γ/ℏ の Lorentz 形になる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 結合の強さ λ→0 と t→∞ を λ2t 一定で取る(van Hove の極限) | 証明 要確認(終状態の連続スペクトルに対する滑らかさの条件のもとで、この極限で指数減衰と黄金律の速さが厳密に出ることが van Hove と Davies の仕事で示されたとされるが、前提を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第14章
例題 4.12.3 主峰の重みと時間分解能 ★★
オリジナル
- (1) 式 (4.12.15) を示せ。
- (2) 主峰 ∣Δ∣<2π/t に含まれる重みは、全体の何割か。数値で求めよ。
- (3) 時間 t=1μs だけ光を当てたとき、遷移の周波数 ωfi/(2π) がどの程度の幅で区別できるか。主峰の半幅を周波数(Hz)で答えよ。
解答
(1) u=Δt/2 とおくと dΔ=2du/t、Ft=t2sin2u/u2 なので∫FtdΔ=t2⋅t2∫−∞∞u2sin2udu=2t⋅π=2πt。最後の積分は、sin2u/u2 が幅 1 の矩形関数の Fourier 変換の2乗であることとParseval の等式から π になる。
(2) 主峰は ∣u∣<π にあたり、π1∫−ππu2sin2udu=0.903。重みの 90% が主峰に入り、残りの 10% が両側の小さな山に分かれる。
(3) 主峰の半幅は Δ=2π/t、周波数では Δ/(2π)=1/t=1MHz。1μs の測定では、1MHz より近い2つの遷移を分けられない。光の周波数(1014Hz 台)を 1Hz まで区別するには、原理的には 1s の間、原子と光が乱されずに相互作用し続ける必要がある。原子時計で長い相互作用時間を確保する工夫は、光学と量子エレクトロニクス 第28章(光学と量子エレクトロニクス 第28章)で扱う。
1 V. Weisskopf, E. Wigner (1930), Z. Phys. 63, 54.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com