解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第12章 §4.12.2 ★★★ 解ける H^0 の時間発展に乗った描像で、残りの H^1 だけで状態を動かす。1次の遷移確率は古典の振動子が外力から吸うエネルギーと同じ関数になる
相互作用描像
第4部第3章(第4部第3章)で、Hamiltonian を H^0+H^1(t) と分けたときの相互作用描像を導入した。状態と摂動を
∣ψI(t)⟩=eiH^0t/ℏ∣ψ(t)⟩,H^1,I(t)=eiH^0t/ℏH^1(t)e−iH^0t/ℏ(4.12.8)
と定めると、
iℏdtd∣ψI(t)⟩=H^1,I(t)∣ψI(t)⟩(4.12.9)
となる。H^1=0 なら ∣ψI⟩ は動かない。H^0 による時間発展を状態から取り除き、H^1 による変化だけを残したのが相互作用描像である。
状態を H^0 の固有状態で ∣ψI(t)⟩=∑ncn(t)∣n⟩ と展開すると、cn は「H^0 だけで動いたときの位相 e−iEnt/ℏ を除いた振幅」で、式 (4.12.9) は
iℏc˙f(t)=n∑⟨f∣H^1(t)∣n⟩eiωfntcn(t),ωfn=ℏEf−En(4.12.10)
になる。eiH^0t/ℏ を ⟨f∣ と ∣n⟩ に当てると位相 ei(Ef−En)t/ℏ が出ることを使った。
1次の摂動
時刻 0 に状態 ∣i⟩ にいたとする(cn(0)=δni)。H^1 が小さいなら、右辺の cn(t) を初めの値で置き換えてよく、
cf(t)≈iℏ1∫0t⟨f∣H^1(t′)∣i⟩eiωfit′dt′(f=i)(4.12.11)
を得る。式 (4.12.9) を積分方程式 ∣ψI(t)⟩=∣i⟩+iℏ1∫0tH^1,I(t′)∣ψI(t′)⟩dt′ に書き直して、右辺に繰り返し代入した級数(Dyson 級数)の1次の項にあたる。2次以降の項には時刻を順に並べた積 H^1,I(t1)H^1,I(t2)⋯(t1>t2>⋯)が現れる。第4部第2章(第4部第2章)で述べた、時刻を含む H^(t) の時間発展を時間順序積で書く式を、H^1 について展開したものである。
摂動が角振動数 ω で振動するときは、エルミートな H^1(t) を
H^1(t)=H^ωe−iωt+H^ω†eiωt(4.12.12)
と書く。平面波 (4.12.6) なら H^ω=−2mqA0eik⋅r^e⋅p^ である(e⋅k=0 なので eik⋅r^ と e⋅p^ は交換する)。式 (4.12.11) に入れると、e−iωt の項は ei(ωfi−ω)t′ を、eiωt の項は ei(ωfi+ω)t′ を積分することになる。Ef>Ei(吸収)で ω が ωfi に近いとき、前者の積分は t に比例して大きくなり、後者は振動して O(1/ω) にとどまる。前者だけを残し、離調を Δ=ω−ωfi(光の角振動数 − 遷移の角振動数。記法の正本の流儀)とおくと、∣∫0te−iΔt′dt′∣2=sin2(Δt/2)/(Δ/2)2 から
Pf←i(t)=∣cf(t)∣2=ℏ2∣⟨f∣H^ω∣i⟩∣2(Δ/2)2sin2(Δt/2)(4.12.13)
を得る。共鳴(Δ=0)では P=∣⟨f∣H^ω∣i⟩∣2t2/ℏ2 で、時間の2乗で増える。Ef<Ei の場合は、逆に eiωt の項が共鳴し、H^ω を H^ω† に替えた同じ式になる。これが誘導放出で、4.12.5節で使う。
正しさの範囲:2準位の厳密解と比べる
1次の式 (4.12.13) は確率なので、1 を超えたら明らかに使えない。どこまで使えるかを、厳密に解ける2準位の場合で確かめる。双極子の形(4.12.4節)で H^ω=−d^⋅eE0/2 とし、Rabi 周波数を Ω=deg⋅eE0/ℏ(位相を選んで実数)とおくと∣⟨e∣H^ω∣g⟩∣=ℏΩ/2 で、共鳴の1次の答えは Pe=(Ωt/2)2 である。一方、共鳴しない項を落とした2準位の Schrödinger 方程式はic˙e=2Ωcg, ic˙g=2Ωce(共鳴のとき)となり、厳密解は Pe=sin2(Ωt/2) である(Rabi 振動。光学と量子エレクトロニクス 第19章で詳しく扱う。光学と量子エレクトロニクス 第19章)。sin2x≈x2 だから、両者は Ωt≪1 で一致する。図 4.12.1 のとおり、1次の答えが厳密解の 1.1 倍になるのは Ωt=1.06、Pe=0.26 のときで(厳密解が1次の答えの 0.9 倍になる所を基準にとると Ωt=1.118、Pe=0.281 で、光学と量子エレクトロニクス 第18章はこちらの基準で書いている。光学と量子エレクトロニクス 第18章)、遷移確率が 0.1 程度までなら1次の式は数 % の精度で正しい。

図 4.12.1 共鳴の2準位系で、上の準位にいる確率 Pe。実線が1次の摂動(近似)、点線が厳密解(共鳴しない項を落とした2準位の Schrödinger 方程式の解)。Ωt≲1 で両者は重なり、1次の答えは Ωt=π で 2.47 と確率の上限 1 を超える
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの x=∥H^1∥t/ℏ→0(摂動の大きさと時間の積が ℏ に比べて小さい) | 証明 証明済み(H^1 が有界な演算子のとき、Dyson 級数は絶対収束し、2次以降の和の大きさは ex−1−x≤21x2ex 以下。p^ を含む H^1 は非有界なので、遷移にかかわる有限個の準位に限ったときにこの評価を使う) | 行き先 近似の数理 第2章
古典の対応物:定数変化法
古典力学では、解ける H0 の解の積分定数(作用角変数や複素振幅)を新しい変数に選び、残りの H1 による積分定数の変化を追う方法がこれに当たる。解ける部分の解に乗った座標に移る操作は、第1部第12章(第1部第12章)で述べた「時間発展そのものが正準変換である」ことを使った正準変換で、相互作用描像の eiH^0t/ℏ はその量子版である。次の例題で、調和振動子についてこの対応を具体的に確かめる。
例題 4.12.2 外力を受ける振動子:古典の吸収エネルギーと量子の遷移確率 ★★★
オリジナル質量 m、角振動数 ω0 の調和振動子に外力 F(t) がはたらき、H=2mp2+21mω02q2−F(t)q とする。F(t) は時刻 0 から加わる。
- (1) 第4部第4章(第4部第4章)の複素振幅 z=(mω0q+ip)/2mω0 について、z˙={z,H} を計算せよ。時刻 0 に静止していた振動子(z(0)=0)が時刻 t までに得るエネルギー ω0∣z(t)∣2 を F で表せ。
- (2) 量子の振動子が時刻 0 に基底状態 ∣0⟩ にいたとする。H^1=−F(t)q^ の1次の摂動で第1励起状態 ∣1⟩ に移る確率 P1←0 を求め、ℏω0P1←0 が (1) の古典のエネルギーと等しいことを示せ。
- (3) F(t)=F0cosωt で、ω が ω0 に近いとき、(1) のエネルギーが 8mF02(Δ/2)2sin2(Δt/2)(Δ=ω−ω0)で近似できることを示せ。
解答
(1) {z,q}=2mω01{ip,q}=−2mω0i と、第4部第4章の {z,ω0zz∗}=−iω0z から
z˙={z,H}=−iω0z−F(t){z,q}=−iω0z+2mω0iF(t)
である。F=0 の解 e−iω0t の係数を変化させて z=w(t)e−iω0t とおくと、w˙=2mω0iF(t)eiω0t で、w の変化は外力だけで決まる(これが定数変化法で、w が相互作用描像の cn にあたる)。w(0)=0 から
ω0∣z(t)∣2=ω0∣w(t)∣2=2m1∫0tF(t′)eiω0t′dt′2.
外力が無くなった後の振動子のエネルギーは ω0∣z∣2 そのものなので、これが外力から吸い取ったエネルギーである。式は厳密で、近似を使っていない。これは第2部第1章の式 (2.1.8)(ΔE=∣∫Feiω0tdt∣2/2m)と同じものである。量子の ⟨H^0⟩ は第4部第3章の4.3.7節の総合問題 (4) で出した。
(2) 式 (4.12.11) で ⟨1∣H^1(t)∣0⟩=−F(t)⟨1∣q^∣0⟩=−F(t)ℏ/(2mω0)(第4部第4章の行列要素)、ω10=ω0 だから
P1←0=ℏ212mω0ℏ∫0tF(t′)eiω0t′dt′2,ℏω0P1←0=2m1∫0tF(t′)eiω0t′dt′2.
(1) と同じである。ℏ は消え、量子1個のエネルギー ℏω0 と遷移確率の積が、古典の吸収エネルギーに一致する。q^ は準位を1つしか動かさないので、1次では ∣1⟩ 以外への遷移は起こらない。
(3) F0cosωt′eiω0t′=2F0(e−iΔt′+ei(ω0+ω)t′) の第2項は積分しても O(F0/ω0) にとどまり、第1項の積分は∣∫0te−iΔt′dt′∣2=sin2(Δt/2)/(Δ/2)2 で t とともに大きくなる。第1項だけを残すと、エネルギーは 8mF02(Δ/2)2sin2(Δt/2) になる。m=ω0=1, F0=10−3, ω=0.99, t=200 で運動方程式を数値で解くと、エネルギーは 3.578×10−3 で、この近似式の 3.54×10−3 と約 1% で一致する。量子の式 (4.12.13) と同じ関数である。
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