解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第1章 §2.1.1 ★★★ 4つの系それぞれについて、一般化座標と L=T−V を書き下す。2体は重心と相対座標に、剛体は重心の並進と回転に分ける
第1部では、Lagrangian L=T−V を選ぶ理由(第1部第5章)、Euler–Lagrange 方程式(第1部第4章)、対称性から保存量を取り出す Noether の定理(第1部第10章)、Legendre 変換で作る Hamiltonian と相空間(第1部第7章・第1部第8章)を、主に1粒子の簡単な例で作ってきた。第2部はこの道具を古典の場と相対論へ広げる部である。その前にこの章で、道具を力学の代表的な4つの系に続けて当て、「L を書く → 循環座標と保存量を探す → 1自由度に落とす → 平衡点のまわりで2次まで展開する」という手順を一通り使えるようにする。
選ぶ系は次の4つである。第一に1次元の振動子で、平衡点のまわりのどんな系も2次まで展開すればこの形になるので、手順の行き着く先として最初に置く。外から時刻に依存する力を加えると L が時刻を含み、Hamiltonian が保存しなくなる例にもなる。第二に中心力を及ぼし合う2体で、重心と相対運動に分けると1体の問題になり、回転対称性から角運動量が保存して平面運動になる。Kepler 問題では、回転対称性とは別にもう1つのベクトルの保存量(Runge–Lenz ベクトル)があり、これが軌道の閉じる理由になっている。第三に剛体で、運動エネルギーを重心の並進と重心のまわりの回転に分け、回転の部分を慣性テンソルで書く。重力の中の対称なこまでは Euler 角のうち2つが循環座標になり、残る1自由度の有効ポテンシャルから歳差運動の角速度が決まる。第四に多自由度の小振動で、質量行列と剛性行列を同時に対角化する基準振動を作り、直線形の分子 CO2 の振動数を計算して観測値と比べる。
最後に、Newton の運動方程式から同じ結果を出す授業の書き方(換算質量の引き算・Euler 方程式・連成振動の行列)と、この章の書き方を並べる。
4つの Lagrangian
この章で選ぶ Lagrangian を先に並べる。どれも L=T−V の形で、違うのは一般化座標の選び方と、T・V の具体形だけである。
| 系 | 一般化座標 | L=T−V |
| 振動子 | 変位 x | 2mx˙2−2mω02x2+F(t)x |
| 中心力の2体 | 重心 R、相対位置 r | 2MR˙2+2mrr˙2−V(∣r∣) |
| 剛体 | 重心 R、向きを決める3つの角 | 2MR˙2+21∑a=13Iaωa2−V |
| 小振動 | 平衡点からのずれ ηi | 21∑i,jMijη˙iη˙j−21∑i,jKijηiηj |
振動子の F(t) は外から加える時刻の関数の力で、−F(t)x を時刻に依存するポテンシャルとして V に含めた。M は全質量、mr は換算質量、Ia は主慣性モーメント、ωa は剛体に固定した軸の方向の角速度の成分である。小振動の Mij と Kij は質量行列と剛性行列で、2.1.2節で作る。表の2行目と3行目の形は自明でなく、どちらも「重心を原点に選ぶと交差項が消える」という同じ事実から出るので、次の2つの小節で続けて導く。
2体:重心と相対座標
質量 m1, m2 の2粒子が、距離だけによるポテンシャル V(∣r1−r2∣) で相互作用するとする。新しい一般化座標として
R=Mm1r1+m2r2,r=r1−r2,M=m1+m2(2.1.1)
を選ぶと、r1=R+Mm2r, r2=R−Mm1r である。運動エネルギーに代入すると R˙⋅r˙ の交差項の係数はMm1m2−Mm2m1=0 で消え、
L=2MR˙2+2mrr˙2−V(∣r∣),mr=m1+m2m1m2(2.1.2)
となる。1次元のばねで同じ分離をしたのが第1部第5章の総合問題で、3次元でも成分ごとに同じ計算になる。L は R を含まないので R の3成分はすべて循環座標で、全運動量 MR˙ が保存する(空間の並進対称性の Noether の保存量)。相対運動は、質量 mr の1粒子が固定した中心のまわりで V(r) を受けて動く問題になる。
剛体:重心の並進と回転(Koenig の分解)
剛体を N 個の質点 ma の集まりとし、各質点の位置を重心 R と重心からの位置 ba に分けて ra=R+ba と書く。重心の定義から ∑amaba=0 である。運動エネルギーは
T=21a∑ma(R˙+b˙a)2=2MR˙2+R˙⋅dtd(a∑maba)+21a∑mab˙a2=2MR˙2+21a∑mab˙a2(2.1.3)
と、重心の並進と重心に対する運動の和に分かれる(Koenig の分解)。中央の交差項は ∑amaba=0 の時間微分なので消える。この分解は剛体でなくても成り立ち、2体の式 (2.1.2) はその N=2 の場合にあたる(b1=Mm2r, b2=−Mm1r を入れると 21mrr˙2 になる)。
剛体では、重心に対する各点の運動は全体の回転だけである。ある瞬間の角速度ベクトルを ω とすると b˙a=ω×ba と書け、∣ω×b∣2=∣ω∣2∣b∣2−(ω⋅b)2 を使うと
21a∑mab˙a2=21i,j=1∑3Iijωiωj,Iij=a∑ma(∣ba∣2δij−ba,iba,j)(2.1.4)
となる。Iij を重心のまわりの慣性テンソルと呼ぶ。Iij は実対称行列なので直交行列で対角化でき、対角化する座標軸を慣性主軸、対角成分 I1, I2, I3 を主慣性モーメントと呼ぶ。剛体に固定した主軸の方向の角速度の成分を ω1, ω2, ω3 とすれば、回転の運動エネルギーは21(I1ω12+I2ω22+I3ω32) である。ωa を一般化座標の時間微分で書く式は2.1.4節で作る。
剛体の1点が固定されているときは、重心の代わりにその固定点を原点に選んでもよい。固定点が動かないので、ra=ba と書いて同じ計算をすれば並進の項がない T=21∑Iijωiωj になり、慣性テンソルは固定点のまわりで計算したものになる。
例題 2.1.1 細い棒の振り子の L を2通りに書く ★★
オリジナル長さ ℓ、質量 M の一様な細い棒の一端を天井の点 O に留め、鉛直面内で振らせる。鉛直下向きからの角度を θ とする。
- (1) O から距離 s の位置の小片 ℓMds の速さを書き、棒全体で積分して T を求めよ。
- (2) 式 (2.1.3) の分解(重心の並進+重心のまわりの回転)で T を求め、(1) と一致することを確かめよ。
- (3) L=T−V を書き、小振動の角振動数を求めよ。ℓ=1m, g=9.81ms−2 で、同じ長さの単振り子(質点)と比べよ。
解答
(1) O から距離 s の点は半径 s の円を角速度 θ˙ で回るので、速さは sθ˙ である。
T=∫0ℓ21⋅ℓM(sθ˙)2ds=2ℓMθ˙2⋅3ℓ3=21⋅3Mℓ2θ˙2.
Mℓ2/3 は O のまわりの慣性モーメントで、式 (2.1.4) の固定点を原点に選んだ形にあたる。
(2) 重心は O から ℓ/2 の点で、速さは 2ℓθ˙。重心のまわりの慣性モーメントは ∫−ℓ/2ℓ/2ℓMu2du=12Mℓ2、角速度は同じ θ˙ である。
T=2M(2ℓθ˙)2+21⋅12Mℓ2θ˙2=21(4Mℓ2+12Mℓ2)θ˙2=21⋅3Mℓ2θ˙2.
(1) と一致する。3Mℓ2=M(ℓ/2)2+12Mℓ2 は、固定点のまわりの慣性モーメントが「重心のまわりの慣性モーメント+全質量×距離の2乗」になるという関係(平行軸の定理)の1例である。
(3) 重心の高さは −2ℓcosθ なので V=−2Mgℓcosθ、
L=6Mℓ2θ˙2+2Mgℓcosθ.
Euler–Lagrange 方程式は 3Mℓ2θ¨=−2Mgℓsinθ。sinθ≈θ とすると角振動数はω=Mℓ2/3Mgℓ/2=2ℓ3g で、ℓ=1m では 3.84s−1 である。単振り子の g/ℓ=3.13s−1 より速く、長さ 2ℓ/3 の単振り子と同じになる。棒は O の近くの部分が小さい半径で回っていて慣性モーメントが Mℓ2 より小さく、その分だけ速く振れる。
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