解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第5章 §5.5.2 ★★★ ψˉ と Aμ で変分すると共変微分つきの Dirac 方程式と ∂μFμν=jν。大域的な対称性の Noether の流れが源になり、その保存が両立の条件になる
2つの運動方程式
式 (5.5.7) を第2部第5章の場の Euler–Lagrange 方程式に入れる。ψ と ψˉ を独立な場とみなし、ψˉ で変分すると、L が ψˉ の微分を含まないので
∂ψˉ∂L=0⟹(iγμDμ−m)ψ=0(5.5.8)
になる。Aν で変分すると、∂L/∂(∂μAν)=−Fμν(第2部第6章)と ∂L/∂Aν=−qψˉγνψ から
∂μFμν=jν,jν:=−∂Aν∂L=qψˉγνψ(5.5.9)
になる。1つの L から、電磁場の中の電子の運動方程式と、電子を源とする Maxwell 方程式が同時に出る。ν=0 の成分は ∇⋅E=j0=qψ†ψ で、Gauss の法則である。
源は大域的な対称性の Noether の流れ
式 (5.5.9) の源 jν を、Noether の定理の側から見直す。Λ を定数にした大域的な変換 δψ=iqϵψ, δψˉ=−iqϵψˉ,
δAμ=0 で LQED は変わらない。第2部第7章の場の Noether の流れは、L が微分を含む場 ψ だけから
∂(∂μψ)∂Lϵδψ=ψˉiγμ⋅iqψ=−qψˉγμψ
と計算され、符号の取り決めを除いて jμ と一致する。つまり、電磁場の源は大域的な位相の対称性の Noether の流れで、局所化のために足した結合項は「Noether の流れ × Aμ」の形をしている。電荷が保存する理由と、電磁場が電荷に結合する理由が、同じ対称性に帰着する。
両立の条件と Noether の第2定理
Fμν は反対称なので、式 (5.5.9) の両辺の発散をとると左辺は恒等的に ∂ν∂μFμν=0 である。したがって Maxwell 方程式が解を持つには ∂νjν=0 が必要になる。これは第2部第8章で Noether の第2定理から導いた両立の条件である。QED ではこの条件が Dirac 方程式 (5.5.8) から自動的に満たされる。(iγμDμ−m)ψ=0 の Hermite 共役に右から γ0 を掛けるとDμψiγμ=−mψˉ となり(Dμψ:=(Dμψ)†γ0、γ0γμ†γ0=γμ を使う)、
∂μ(ψˉγμψ)=Dμψγμψ+ψˉγμDμψ=(imψˉ)ψ+ψˉ(−imψ)=0
になる。1つ目の等号で ∂μ を Dμ に置き換えてよいのは、ψˉ 側の −iqAμ と ψ 側の +iqAμ が打ち消すからである。
このしくみを一般の形で述べると次のようになる。物質の作用が局所的な変換で不変なら、物質の運動方程式が成り立つとき、−∂L/∂Aν として定めた流れは必ず保存する。ゲージ原理で作った理論では、Maxwell 方程式の両立の条件は物質の側の対称性によって保証されている。
電荷はゲージ原理だけでは決まらない
ゲージ原理は「場ごとに eiqΛ の q が決まれば、その場の結合の強さも q になる」ことを言うが、q の値そのものは決めない。電子と陽子の電荷の大きさがそろうことは、可換な位相の群 U(1) の局所化からは出てこない。一方、異なる場が同じ項の中で掛け合わさるとき、その項が局所的な変換で不変であるためには電荷の和が 0 でなければならない。次の例題で、この条件が電流の保存と Maxwell 方程式の両立の条件に直結していることを確かめる。
例題 5.5.2 混ぜる項は電荷の等しい場どうしでしか書けない ★★
オリジナル2つの Dirac 場 ψ1(電荷 q1、質量 m1)と ψ2(電荷 q2、質量 m2)に、混ぜる項 −μ(ψˉ1ψ2+ψˉ2ψ1)(μ は実数の定数)を足した
L=a=1,2∑ψˉa(iγμDμ(a)−ma)ψa−μ(ψˉ1ψ2+ψˉ2ψ1)−41FμνFμν,Dμ(a)=∂μ+iqaAμ
を考える。
- (1) 混ぜる項が局所的な変換 ψa→eiqaΛψa で不変であるための条件を求めよ。
- (2) 運動方程式を使って、jμ=q1ψˉ1γμψ1+q2ψˉ2γμψ2 の発散を計算せよ。
- (3) q1=q2 で μ=0 のとき、この理論の Maxwell 方程式に何が起きるか。
解答
(1) ψˉ1ψ2→ei(q2−q1)Λψˉ1ψ2 なので、不変であるためには q1=q2 が必要である。
(2) ψˉ1 と ψˉ2 で変分すると、iγμDμ(1)ψ1=m1ψ1+μψ2、iγμDμ(2)ψ2=m2ψ2+μψ1 が得られる。本文と同じ手順で Hermite 共役をとると Dμ(1)ψ1iγμ=−(m1ψˉ1+μψˉ2) なので、
∂μ(ψˉ1γμψ1)=i(m1ψˉ1+μψˉ2)ψ1−iψˉ1(m1ψ1+μψ2)=iμ(ψˉ2ψ1−ψˉ1ψ2)
となる。ψ2 についても同じ計算で ∂μ(ψˉ2γμψ2)=iμ(ψˉ1ψ2−ψˉ2ψ1)。したがって
∂μjμ=iμ(q1−q2)(ψˉ2ψ1−ψˉ1ψ2)
である。q1=q2 なら 0 になる。混ぜる項が1つ目の粒子を2つ目の粒子に変えても、電荷が等しければ全体の電荷は変わらない。
(3) Aν の方程式は ∂μFμν=jν のままだが、左辺の発散は恒等的に 0 なのに右辺の発散は 0 でない。方程式は一般に解を持たない。(1) でゲージ不変性が破れたことと、(3) で Maxwell 方程式が両立しなくなったことは、第2部第8章の第2定理を通して同じことの2つの表れである。自然界で μ のような混合が起きる場合(たとえばクォークの世代の混合)は、混ざる場どうしの電荷が等しい組に限られている。
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