1926〜1932 年:確率、変換理論、ヒルベルト空間
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量子力学の様々な構成方法 第1部 第4章 §1.4.5 ★★★ 表示を取り替える理論と、抽象的なヒルベルト空間による統合。基準の公理 Q1〜Q6 はここで出そろった
変換理論と不確定性関係(1926 年末〜1927 年)
Dirac は 1926 年 12 月に投稿した論文で、行列の添字を連続な変数にまで広げ、異なる変数の組の間の「変換関数」で表示を取り替える理論を作った1P. A. M. Dirac (1927), Proceedings of the Royal Society of London A 113, 621–641。下の脚注へ。Jordan も同じ時期に独立に同じ理論に達した2P. Jordan (1927), Zeitschrift für Physik 40, 809–838。下の脚注へ。今の記号では、位置と運動量の変換関数が、波動関数が であり(第1部第3章)、波動力学は位置を対角にした表示、行列力学はエネルギーを対角にした表示になる。連続な添字の「単位行列」を書くために Dirac は 関数を導入した。
Heisenberg は 1927 年 3 月に、位置と運動量を同時に精度よく決められないことを論じた3W. Heisenberg (1927), Zeitschrift für Physik 43, 172–198。下の脚注へ。E. H. Kennard は同じ年に、標準偏差の間の不等式
を証明し、等号が Gauss 波束で成り立つことを示した4E. H. Kennard (1927), Zeitschrift für Physik 44, 326–352。下の脚注へ(一般の2つの観測量への拡張が 第1部第2章の Robertson の不等式)。H. Weyl は 1927 年の論文で、交換関係を有界な演算子(ユニタリ演算子)の関係として書く形を出した5H. Weyl (1927), Zeitschrift für Physik 46, 1–46。下の脚注へ。並進 と位相の掛け算 について
が成り立つ( を使って両辺を に作用させれば確かめられる)。非有界な の定義域の問題を避けられるこの形が、後で一意性の定理が述べられる形になる。
von Neumann のヒルベルト空間(1927 年)
D. Hilbert は 1926〜1927 年の冬学期に量子力学の基礎を講義し、その内容は L. Nordheim と J. von Neumann との共著論文(1927 年 4 月 6 日受付、1928 年刊)になった6D. Hilbert, J. von Neumann and L. Nordheim (1928), Mathematische Annalen 98, 1–30。下の脚注へ。この論文はまだ Dirac と同じく 関数のような「正しくない関数」を使っていた。
von Neumann は同じ 1927 年に Göttingen 科学協会の報告に3本の論文を出し、別の道を取った。1本目「量子力学の数学的基礎づけ」7J. von Neumann (1927), Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen, Mathematisch-Physikalische Klasse, 1–57。下の脚注へは、行列力学の数列の空間 と波動力学の関数の空間 が、どちらも同じ公理(内積・完備性・可分性)を満たす「抽象的なヒルベルト空間」の実現であることを指摘した。2つの空間の間の対応は 1907 年の Riesz–Fischer の定理が与える。完全な正規直交系 を1つ取ると、
は内積を保つ全単射である。 関数を使わずに、両方の理論を同じ空間の上の作用素の理論として書ける。2本目「量子力学の確率論的な構成」8J. von Neumann (1927), 同誌, 245–272。下の脚注へは、統計的な集団を表す作用素(今の密度行列)を導入し、期待値を で与えた。これが第4部の出発点である。
一意性と、1930〜1932 年の2冊の本
最後に残ったのは、交換関係を満たす行列や演算子の組がどれだけあるかという問いである。M. H. Stone は 1930 年に、Weyl の形 (1.4.12) を満たす既約なユニタリ演算子の組は本質的に1つしかないことを予告し9M. H. Stone (1930), Proceedings of the National Academy of Sciences 16, 172–175。下の脚注へ、von Neumann が 1931 年に証明を出した10J. von Neumann (1931), Mathematische Annalen 104, 570–578。下の脚注へ。これが Stone–von Neumann の定理で(第2部第6章)、有限自由度では「どの行列を選んでも Schrödinger の と にユニタリ変換で移せる」ことを保証する。1926 年の逆向きの問いへの、最も強い答えである。
理論の形は2冊の本にまとめられた。Dirac の『量子力学の原理』(1930 年、Oxford の Clarendon Press)はブラとケットの記号の元になる抽象的なベクトルの言葉で書かれ、von Neumann の『量子力学の数学的基礎』(1932 年、Berlin の Springer)は、ヒルベルト空間・非有界な自己共役作用素のスペクトル分解・密度行列・測定の過程を公理として並べた。第1部第2章の Q1〜Q6 はこの2冊の形を今の記号で書き直したものである。
例題 1.4.6 Schrödinger の広がらない波束を、 と の両方で書く ★★★
オリジナル調和振動子で、係数 ( は複素数)の数列を考える。 は例題 1.4.5 のもの。
- (1) であり、 であることを示せ。
- (2) を実数とし、Hermite 多項式の母関数 を使って を閉じた形で書け。
- (3) 時間発展 のもとで、 と位置の分散がどう変わるかを求めよ。
- (4) で の の誤差の2乗が に等しいことを、(1.4.13) から説明せよ。
解答
(1) 。和が有限なので の元である。
(2) とおく。 だから、母関数で とおいて
基底状態 を だけ平行移動した Gauss 波束である。
(3) 位相 は全体に掛かるだけなので、 は と同じである。複素の では (2) の計算に運動量の位相 ()が付き、 は中心 、分散 の Gauss 分布になる。よって で古典の振動と同じく動き、分散は のまま変わらない。運動量の分散は なので で、Kennard の不等式 (1.4.11) の等号が常に成り立っている。これが Schrödinger が 1926 年 7 月に示した「広がらない波束」である。
(4) (1.4.13) は内積を保つので、 のノルムの2乗は に等しい(Parseval の等式)。 では で , , , になり、図 1.4.2 のように部分和が Gauss 波束に近づく。数列の側の「残りの和」と関数の側の「誤差」が同じ数であることが、 と が同じ空間の2つの書き方だということの中身である。
図 1.4.2 例題 1.4.6 の波束(、中心 )と、 の数列を 項で打ち切った部分和 。誤差の2乗ノルムは残りの係数の2乗和 ()・()に等しく、 では になって図では点線と重なる。
1 P. A. M. Dirac (1927), Proceedings of the Royal Society of London A 113, 621–641。
2 P. Jordan (1927), Zeitschrift für Physik 40, 809–838。
3 W. Heisenberg (1927), Zeitschrift für Physik 43, 172–198。
4 E. H. Kennard (1927), Zeitschrift für Physik 44, 326–352。
5 H. Weyl (1927), Zeitschrift für Physik 46, 1–46。
6 D. Hilbert, J. von Neumann and L. Nordheim (1928), Mathematische Annalen 98, 1–30。
7 J. von Neumann (1927), Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen, Mathematisch-Physikalische Klasse, 1–57。
8 J. von Neumann (1927), 同誌, 245–272。
9 M. H. Stone (1930), Proceedings of the National Academy of Sciences 16, 172–175。
10 J. von Neumann (1931), Mathematische Annalen 104, 570–578。
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