橋:1926 年の2つの理論を、基準の中で並べる
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量子力学の様々な構成方法 第1部 第4章 §1.4.6 ★★★ 行列力学と波動力学は、基準の同じ状態と演算子をエネルギー表示と位置表示で書いたもので、ユニタリ写像で両向きに移り合う
両向きの同値を示す
1926 年に欠けていた逆向きを、1.4.5 節の道具で閉じる。調和振動子の固有関数 を完全系に取り、行列力学の数列の空間 から波動力学の への写像を と定める( は時間発展の と区別するため筆記体で書く)。, は例題 1.4.3 の Born–Jordan の行列(切らない無限の行列)とし、有限個を除いて の数列の集合を と書く。
命題 1.4.1(行列力学と波動力学の同値)
(i) はユニタリ(内積を保つ全単射)で、逆は 。(ii)(行列から関数へ) に対して 、。(iii)(関数から行列へ)、。(iv) したがって任意の と多項式 について ()であり、時間発展もそれぞれ と (1.4.8) の解として対応する。
証明
(i) 正規直交性から で、 は内積を保つ。Hermite 関数は で完全なので、任意の は係数 で と展開され(Bessel の不等式から )、 は全射である。逆に任意の について部分和は の Cauchy 列になり、 の完備性(Riesz–Fischer)から極限 が存在する。
(ii) 例題 1.4.5 の漸化式 (右辺は の2項だけ)を使うと、 では和がすべて有限なので順序を入れ替えてよく
も から同じである。
(iii) (ii) の漸化式と の正規直交性から、。 も同じ。これが Schrödinger の向き (1.4.10) である。
(iv) は , の有限個の積の和で、 は , で に移る(帯行列)ので、(ii) をくり返し使えて。両辺と の内積を取り、(i) で左辺を の内積に戻す。時間発展は、 が対角 であることと、 から、両側で同じ位相 が付く。
定義域についての注意を1つ書く。, は有界でないので、 の全体には作用しない。(ii) は稠密な の上で示したもので、閉包を取ると と掛け算 の自己共役な拡張が一致する。この種の議論を整えたのが von Neumann の 1929〜1932 年の仕事で、1926 年の Schrödinger の論文が扱えなかった所である。また、命題は調和振動子の固有関数という特定の基底を使ったが、Stone–von Neumann の定理(第2部第6章)は、交換関係を Weyl の形 (1.4.12) で満たす既約な表現がどれもこれとユニタリ同値であることを保証するので、基底の選び方には依らない。
基準と、同値性の地図の中での位置
命題 1.4.1 を基準の言葉に直すと、抽象的なヒルベルト空間 の状態 を、エネルギーの固有ベクトル で成分表示したものが行列力学の数列 、位置の一般化固有ベクトル で成分表示したものが波動関数 で、 は表示の取り替え そのものである。並べると次のようになる。
左が行列力学、中が波動力学、右が基準の書き方である。時間の扱いでは、行列力学は時間を行列の側 に、波動力学は関数の側 に持たせた。前者が Heisenberg 描像、後者が Schrödinger 描像で、構成の違いと描像の違いが1926 年には重なっていた。2つが別の軸であることは第1部第1章で示した。
第1部第1章の同値性の地図の矢印のうち、この7年間に示されたものを年で並べると次の表になる。地図の残りの矢印(経路積分・位相空間・第二量子化・流体・代数・再構成・幾何学的量子化)は、すべてこの基準ができた後に、基準を経由して架けられた。
| 年 | 示されたこと | 地図の矢印・この巻の置き場 |
| 1925 | Dirac の規則:交換子 ↔ Poisson 括弧 | 古典 → 行列力学(第2部第2章) |
| 1926 | Schrödinger:波動関数の完全系から行列を作る(片向き) | 波動関数 → 行列力学(この章 1.4.4 節) |
| 1926–27 | Dirac と Jordan の変換理論:表示の取り替え | 表示の選択(第1部第3章) |
| 1927 | von Neumann: と を同じヒルベルト空間に置く | 波動関数 ↔ 状態ベクトル ↔ 行列力学(命題 1.4.1) |
| 1927 | von Neumann:統計作用素と | 状態ベクトル → 密度行列(第4部) |
| 1930–31 | Stone と von Neumann:Weyl の形の表現の一意性 | 行列力学の一意性(第2部第6章) |
| 1932 | von Neumann の本:公理としての整理 | 基準そのもの(第1部第2章) |
第1部第1章の一覧表の年を書誌で確かめる
第1部第1章の構成の一覧表は、各構成に代表的な年を添えている。その年を、代表の論文または本の書誌と照らした結果が表 1.4.2 である。一覧表の年はすべて書誌の刊行年と一致した。投稿と刊行の年がまたがるもの(この章で引いた Hilbert–von Neumann–Nordheim は 1927 年受付で 1928 年刊)は、刊行年を採る。
| 一覧表の記載 | 書誌 | 一覧表の行 |
| Dirac 1930 | P. A. M. Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (Clarendon Press, Oxford, 1930) | 状態ベクトル(基準) |
| von Neumann 1932 | J. von Neumann, Mathematische Grundlagen der Quantenmechanik (Springer, Berlin, 1932) | 状態ベクトル(基準) |
| Schrödinger 1926 | Annalen der Physik 79, 361–376 (1926) | 波動関数 |
| Heisenberg 1925 | Zeitschrift für Physik 33, 879–893 (1925) | 行列力学 |
| Born と Jordan 1925 | Zeitschrift für Physik 34, 858–888 (1925) | 行列力学 |
| Dirac 1925 | Proc. R. Soc. London A 109, 642–653 (1925) | 行列力学 |
| Feynman 1948 | Reviews of Modern Physics 20, 367–387 (1948) | 経路積分 |
| von Neumann 1927 | Göttinger Nachrichten (1927), 245–272 | 密度行列 |
| Wigner 1932 | Physical Review 40, 749–759 (1932) | 位相空間 |
| Groenewold 1946 | Physica 12, 405–460 (1946) | 位相空間 |
| Moyal 1949 | Proc. Cambridge Philos. Soc. 45, 99–124 (1949) | 位相空間 |
| Dirac 1927 | Proc. R. Soc. London A 114, 243–265 (1927) | 第二量子化 |
| Jordan と Wigner 1928 | Zeitschrift für Physik 47, 631–651 (1928) | 第二量子化 |
| Fock 1932 | Zeitschrift für Physik 75, 622–647 (1932) | 第二量子化 |
| Madelung 1927 | Zeitschrift für Physik 40, 322–326 (1927) | 軌道と流体 |
| Bohm 1952 | Physical Review 85, 166–179 (1952) | 軌道と流体 |
| Nelson 1966 | Physical Review 150, 1079–1085 (1966) | 軌道と流体 |
| Gelfand と Naimark 1943 | Matematicheskii Sbornik 12(54), 197–217 (1943) | 代数的量子論 |
| Segal 1947 | Bull. Amer. Math. Soc. 53, 73–88 (1947) | 代数的量子論 |
| Haag と Kastler 1964 | Journal of Mathematical Physics 5, 848–861 (1964) | 代数的量子論 |
| Birkhoff と von Neumann 1936 | Annals of Mathematics 37, 823–843 (1936) | 再構成 |
| Gleason 1957 | Journal of Mathematics and Mechanics 6, 885–893 (1957) | 再構成 |
| Hardy 2001 | arXiv:quant-ph/0101012 (2001) | 再構成 |
| Kostant 1970 | Lecture Notes in Mathematics 170, 87–208 (1970) | 幾何学的量子化 |
| Souriau 1970 | Structure des systèmes dynamiques (Dunod, Paris, 1970) | 幾何学的量子化 |
| Schwinger 1951 | Physical Review 82, 914–927 (1951) | 採らないもの |
| Bayen ら 1978 | Annals of Physics 111, 61–110 (1978) | 採らないもの |
| Parisi と Wu 1981 | Scientia Sinica 24, 483–496 (1981) | 採らないもの |
| Koopman 1931 | Proc. Natl. Acad. Sci. 17, 315–318 (1931) | 採らないもの |
| Abramsky と Coecke 2004 | Proc. 19th IEEE Symp. Logic in Computer Science, 415–425 (2004) | 採らないもの |
| Griffiths 1984 | Journal of Statistical Physics 36, 219–272 (1984) | 採らないもの |
| 多世界 1957 | H. Everett, Reviews of Modern Physics 29, 454–462 (1957) | 採らないもの |
学部の授業での書き方との対応
学部の授業では、行列要素を と定義し、「エネルギー固有関数で挟んだ積分を並べた表が行列」と説明することが多い。これは (1.4.10) そのもの、つまり 1926 年 3 月の Schrödinger の向きである。逆向き(行列から関数へ)を授業で扱わないのは、基準の公理を先に置いて、両方を同じ の成分として定義してしまえば、命題 1.4.1 の (i) が「完全系による展開」という1行に縮むからである。1926 年に問題だったのは、その「先に置く基準」がまだ無かったことである。
例題 1.4.7 同じ期待値を、行列力学と波動力学で計算する ★★★
オリジナル調和振動子の状態を、行列力学の数列で 、波動力学の関数で と書く。
- (1) 行列力学で を、Heisenberg の時間の因子 で求めよ。
- (2) 波動力学で として を求め、(1) と比べよ。
解答
(1) 非零の行列要素は で、。よって
(2) のうち を掛けて積分が残るのは交差項だけで( は偶奇から)、。(1) と一致する。行列力学では時間の因子を行列に、波動力学では関数に持たせたが、掛け合わせる位相 は同じで、(1.4.14) の両端の等号の具体例になっている。、 では振幅 で振動する。
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