量子力学の様々な構成方法 第10部 第3章 §10.3.5 ★★★ 前量子の Hilbert 空間は基準の Schrödinger 表現を無限個重ねたもので、調和振動子のスペクトルは ℏω0Z(下に有界でなく、各準位が無限に縮退)になる
Schrödinger 表現への分解
第10部第1章の例題で、前量子化の q^=q+iℏ∂p、p^=−iℏ∂q の両方と交換する演算子 K^=p+iℏ∂q があり、表現が既約でないことを見た(第10部第1章)。ここではその分解を具体的に書く。
定理 10.3.6(前量子の表現の分解 ★★★)
1自由度、θ=−pdq の前量子化で、F∈L2(R2) を
F(q,p)=∫G(q,s)eips/ℏ2πℏds,G(q,s)=G(u,v),u=q−s, v=s
と書き直すと、F↦G はユニタリで、L2(R2)≅L2(Ru)⊗L2(Rv) のもとで
q^=u⊗1,p^=(−iℏ∂u)⊗1,K^=1⊗iℏ∂v(10.3.15)
となる。前量子化の q^,p^ は、基準の Schrödinger 表現 L2(Ru) を、余分な因子 L2(Rv) の次元だけ(無限個)重ねたものである。
証明
p についての Fourier 変換は(2πℏ の規格化で)ユニタリで、(q,s)→(u,v)=(q−s,s) は Jacobian 1 の線形変換なのでユニタリである。被積分関数で演算子を比べる。iℏ∂peips/ℏ=−seips/ℏ なので q^=q+iℏ∂p は G に q−s=u を掛ける操作になる。p^=−iℏ∂q は s を止めた q の微分で、∂q∣s=∂u から −iℏ∂u。p を掛ける操作は peips/ℏ=−iℏ∂seips/ℏ を部分積分して iℏ∂s に移り、∂s∣q=−∂u+∂v なのでK^=p+iℏ∂q は iℏ(−∂u+∂v)+iℏ∂u=iℏ∂v となる。
Stone–von Neumann の定理は、[q^,p^]=iℏ を(Weyl 形式で)満たす表現が Schrödinger 表現の直和に限ることを述べる(第2部第6章)。定理 10.3.6 はその直和の重複度を具体的に示し、重複度が L2(Rv) の次元、つまり可算無限であることを言っている。基準の量子力学を取り出すには、余分な変数 v を何らかの方法で固定し、L2(Ru) の1つ分だけを残せばよい。第4章の偏極は、これを「相空間の半分の方向について共変微分が0になる切断だけを残す」という幾何の条件で行う(第10部第4章)。θ=−pdq の実偏極では ∇∂pF=∂pF=0、すなわち F が q だけの関数であることを課し、位置表示がそのまま出てくる。
調和振動子のスペクトル
2次の関数を前量子化すると、余分な因子は「消えずに逆符号で」残る。例題 10.3.5 で確かめるように
Qpre(q2)=u2−v2,Qpre(p2)=Pu2−Pv2(Pu=−iℏ∂u, Pv=−iℏ∂v)(10.3.16)
で、調和振動子 H=p2/(2m)+mω02q2/2 は
Qpre(H)=Hu−Hv,Hu=2mPu2+2mω02u2,Hv=2mPv2+2mω02v2(10.3.17)
となる。2つの振動子の差なので、固有値は ℏω0(n+21)−ℏω0(n′+21)=ℏω0(n−n′)(n,n′=0,1,2,…)で、
specQpre(H)=ℏω0Z,各固有値は無限に縮退(10.3.18)
である。零点エネルギー ℏω0/2 は Hu と Hv で打ち消し合い、負の固有値も現れる。
同じ結果を対称なゲージで直接確かめる。例題 10.3.3 (3) から Qpre′(H)=−iℏXH で、スケールした座標 x=mω0q、y=p/mω0 では XH=ω0(y∂x−x∂y) である。極座標 x=rcosφ、y=rsinφ で∂φ=−y∂x+x∂y なので XH=−ω0∂φ(相空間を時計回りに回る流れ)、Qpre′(H)=iℏω0∂φ。R(r)eikφ(k∈Z、R は任意)に当てると固有値 −ℏω0k で、R の選び方の分だけ無限に縮退する。固有関数は「相空間の同じ円の上で回転に対して位相 eikφ を持つ関数」で、半径(エネルギー)が何も制限されていない。

図 10.3.2 調和振動子のスペクトル。左(実線)は前量子化の Qpre(H) の固有値 ℏω0k(k∈Z)で、下に有界でなく各準位が無限に縮退する。右(点線)は基準の量子力学の ℏω0(n+21)。偏極で余分な因子を落とし、半形式補正で 21 をずらすと右になる(第10部第4・5章)。
前量子化のスペクトルは共通例題①の正答 En=ℏω0(n+21) と次の3点で食い違う。第一に下に有界でない。第二に各準位が無限に縮退する。第三に零点エネルギーが無い。第一と第二は余分な因子 L2(Rv) のせいで、偏極で取り除かれる(第4章)。第三は偏極だけでは直らず、半形式補正という別の修正が要る(第5章)。熱平衡の分配関数 Tre−βQpre(H) は、Hv の側が e+βHv として入るので発散し、前量子化のままでは統計力学も組めない。
例題 10.3.5 2次の関数は2つの因子の差に分かれる ★★
オリジナル定理 10.3.6 の変数で考える。
- (1) 第10部第1章の総合問題で示した Qpre(q2)−q^2=ℏ2∂p2 を使い、Qpre(q2)=u2−v2 を示せ。
- (2) Qpre(p2)=−2iℏp∂q−p2 を確かめ、Pu2−Pv2 に移ることを示せ。
- (3) 前量子化の調和振動子で、固有値 0 の固有状態を2つ挙げよ。
解答
(1) ℏ2∂p2=−(iℏ∂p)2 で、iℏ∂p は G に −s を掛ける操作に移るので ℏ2∂p2→−s2=−v2。q^2→u2 と合わせて u2−v2。
(2) f=p2:Xp2=2p∂q、θ(Xp2)=−2p2 で、Qpre(p2)=−2iℏp∂q−2p2+p2=−2iℏp∂q−p2。定理の証明の対応 p→iℏ(∂v−∂u)、∂q→∂u(2つは交換する)を入れると
−2iℏ⋅iℏ(∂v−∂u)∂u−(iℏ(∂v−∂u))2=ℏ2(2∂v∂u−2∂u2+∂v2−2∂u∂v+∂u2)=ℏ2(∂v2−∂u2),
これは Pu2−Pv2=−ℏ2∂u2+ℏ2∂v2 に等しい。
(3) Hu−Hv の固有値 ℏω0(n−n′) が0になるのは n=n′ のときで、ϕ0(u)ϕ0(v) と ϕ1(u)ϕ1(v)(ϕn は基準の振動子の固有関数)がその例である。n=n′=0,1,2,… のすべてが固有値0を持つので、縮退は無限である。対称ゲージでは k=0 の固有関数 R(r)(回転で不変な任意の関数)にあたる。
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