量子力学の様々な構成方法 第3部 第1章 §3.1.5 ★★ 要請と合成則だけで二重スリットの縞を最後まで出し、波束の広がり(共通例題③)と遠方の縞の間隔が一緒に出る
3.1.1節の縞を、ここまでに置いた道具だけで計算し直す。de Broglie の関係も、遠方の近似も、最初には使わない。
模型:ガウス型のスリット
粒子は進行方向(z 方向)に速さ v で進み、衝立から検出面までを時間 t=ℓ/v で飛ぶとする。自由粒子の作用は z の部分と x の部分の和なので、伝播関数も2つの積に分かれ、z の部分はどの経路にも共通の因子になる。そこで横方向の座標 x だけを1次元の自由粒子として扱う。
縁の鋭いスリットの代わりに、ガウス関数の形で粒子を通すスリットを考える。衝立を通った直後(時刻 0)の横方向の振幅を
ψ(x,0)=N[g(x−2d)+g(x+2d)],g(x)=(2πσ02)−1/4e−x2/(4σ02)(3.1.17)
とおく。∣g∣2 は標準偏差 σ0 の正規分布で、σ0 がスリットの幅に当たる。2つのガウス関数の重なりは ∫g(x−2d)g(x+2d)dx=e−d2/(8σ02) なので、規格化の定数は N2=1/[2(1+e−d2/(8σ02))] である。
1本のスリットからの波束
式 (3.1.10) に式 (3.1.16) と g を入れると、積分は式 (3.1.15) の形になる。長さの次元を持つ量 σ0 と時間の次元を持つ量
t∗=ℏ2mσ02(3.1.18)
を使うと、結果は次のように書ける。
ψg(x,t):=∫dx′K0(x,t;x′,0)g(x′)=1+it/t∗(2πσ02)−1/4exp[−4σ02(1+it/t∗)x2](3.1.19)
導出は例題 3.1.4 と同じ平方完成で、α=1/(4σ02)−im/(2ℏt) とおけばよい。指数を実部と虚部に分けるため、1/(1+it/t∗)=(1−it/t∗)/(1+t2/t∗2) を使い、
σ(t)2=σ02(1+t∗2t2)=σ02+(2mσ0ℏt)2(3.1.20)
とおく。すると
∣ψg(x,t)∣2=2πσ(t)21e−x2/(2σ(t)2),argψg(x,t)=4σ(t)2t∗x2t+(x によらない項)(3.1.21)
となる。1本のスリットを出た波束は、幅が式 (3.1.20) のとおり広がる。これは巻の共通例題③の波束の広がりと同じ式である。時間 t∗ は、幅が 2 倍になるまでの時間である。
2本のスリットの縞
2本のスリットからの波束は、式 (3.1.19) の x を x∓d/2 に置き換えたもので、ψ±(x,t)=ψg(x∓2d,t) と書く。式 (3.1.10) は ψ(x,0) について線形なので、時刻 t の振幅は N(ψ++ψ−) である。干渉項 2Re(ψ+ψ−∗) では前因子の位相 1/1+it/t∗ が打ち消し、位相の差は式 (3.1.21) から[(x−2d)2−(x+2d)2]t/(4σ2t∗)=−kfx になる。結果は
P(x,t)=2πσ2N2[e−(x−d/2)2/(2σ2)+e−(x+d/2)2/(2σ2)+2e−(x2+d2/4)/(2σ2)cos(kfx)](3.1.22)
kf=2σ(t)2t∗dt(3.1.23)
である(σ=σ(t))。角括弧の第1項と第2項が式 (3.1.2) の P1 と P2、第3項が干渉項で、縞の間隔は 2π/kf である。式 (3.1.22) は近似を使っていない。
遠方の縞
検出面が遠く t≫t∗ のとき、σ(t)≈σ0t/t∗=ℏt/(2mσ0) となり、式 (3.1.23) は
kf→ℏtmd,kf2π→md2πℏt=dλℓ(t=ℓ/v, λ=2πℏ/(mv))(3.1.24)
に近づく。これは 3.1.1節で de Broglie の関係を仮定して書いた縞の間隔 (3.1.3) であり、式 (3.1.13) の作用の差とも一致する。厳密な間隔と遠方の値の比は 1+(t∗/t)2 である。
図 3.1.3 に、d=8σ0、t=20t∗ の強度を示す。点線が式 (3.1.22)(厳密)、赤の実線が遠方の近似(包絡線を中心 0・幅 σ0t/t∗ のガウス関数とし、縞の波数を md/(ℏt) としたもの)、灰色の破線が経路を見分けたときの P1+P2 である。縞の間隔は厳密に 31.49σ0、遠方の近似で 10πσ0=31.42σ0 である。

図 3.1.3 ガウス型の二重スリットの強度分布(d=8σ0、t=20t∗)。縦軸は σ0P の100倍。厳密な式 (3.1.22)(黒の点線)と遠方の近似(赤の実線)は縞の位置でほとんど重なり、経路を見分けたとき(灰色の破線)は縞が消えて包絡線だけが残る
例題 3.1.5 中性子の二重スリット ★★
オリジナル中性子(m=1.675×10−27kg)が速さ v=200ms−1 で、幅 σ0=2μm・間隔 d=50μm のガウス型の二重スリットを通り、ℓ=5m 先の検出面に着く。
- (1) 飛行時間 t、時間 t∗、検出面での幅 σ(t) を求めよ。
- (2) 縞の間隔を、式 (3.1.23)(厳密)と式 (3.1.24)(遠方)で求めて比べよ。
- (3) 包絡線の幅 ±σ(t) の中に縞は何本あるか。
解答
(1) t=ℓ/v=5/200s=25ms である。式 (3.1.18) から
t∗=1.055×10−342×1.675×10−27×(2×10−6)2s=1.27×10−4s
で、t/t∗=197 である。式 (3.1.20) から σ(t)=σ01+1972=0.394mm になり、スリットの幅の約200倍に広がる。
(2) 遠方の値は 2πℏt/(md)=ht/(md) で、
1.675×10−27×5×10−56.626×10−34×0.025m=1.978×10−4m=0.198mm
である。de Broglie 波長 λ=h/(mv)=1.98nm から λℓ/d としても同じ値になる。厳密な値は遠方の値の 1+(t∗/t)2=1+2.6×10−5 倍で、5nm ほど長いだけである。この配置では遠方の近似で十分である。
(3) 2σ(t)/Δx=0.788/0.198=3.98 なので、±σ(t) の中に縞は約4本ある。遠方では 2σ/Δx≈d/(2πσ0) となり、縞の本数はスリットの間隔と幅の比だけで決まる。縞を多く見るにはスリットを細く、間隔を広くする。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの t∗/t→0(飛行時間が波束の広がりの時間 2mσ02/ℏ より長い) | 証明 証明済み(ガウス型のスリットでは厳密な式 (3.1.22) の極限として本文で示した。縁の鋭いスリットでは Fraunhofer 近似として別に扱う) | 行き先 近似の数理 第1章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com