量子力学の様々な構成方法 第3部 第3章 §3.3.5 ★★★ 揺らぎの行列式は古典の運動方程式の初期値問題の解で決まり(Gel'fand–Yaglom)、共通例題①の Mehler 核が完成する
揺らぎの行列
調和振動子の揺らぎの作用を、式 (3.3.1) と同じく V を区間の左端で評価して離散化する。y0=yN=0 なので
SN[y]=k=0∑N−1[2ϵm(yk+1−yk)2−ϵ2mω2yk2]=2ϵmyTBN−1y,Bn=An−ϵ2ω21n
である。自由粒子の行列 An の対角が 2 から 2−ϵ2ω2 に変わるだけである。
Bn の固有値は An の固有値 4sin2(jπ/(2N))(j=1,…,N−1)から ϵ2ω2 を引いたもので、最小のものは N が大きいとき (π2−ω2t2)/N2 に近い。したがって ωt<π ならすべて正で、式 (3.3.8) がそのまま使える。これは例題 3.3.1(1) で見た「最も緩やかな揺らぎのモードの作用の符号」と同じ条件である。
行列式の漸化式
Dn=detBn も最後の行で展開すると
Dn=(2−ϵ2ω2)Dn−1−Dn−2,D0=1, D−1=0(3.3.23)
を満たす。2cosθ=2−ϵ2ω2 で角 θ を定める(ϵω<2 なら実数で、θ=2arcsin(ϵω/2))。漸化式 Dn=2cosθDn−1−Dn−2 の解は三角関数の加法定理 sin(n+1)θ=2cosθsinnθ−sin(n−1)θ と同じ形なので、初期値に合わせて
Dn=sinθsin(n+1)θ(3.3.24)
である(θ→0 で Dn→n+1 となり、自由粒子に戻る)。前因子と合わせると、刻み N の揺らぎの因子は
FN=(2πiℏϵm)N/2(m2πiℏϵ)(N−1)/2DN−1−1/2=2πiℏϵDN−1m,ϵDN−1=sinθϵsinNθ(3.3.25)
となる。自由粒子と違い、今度は N が残る。N→∞ では θ=ϵω+O(ϵ3) なので ϵ/sinθ→1/ω、Nθ→ωt で、
ϵDN−1→ωsinωt,F(t)=2πiℏsinωtmω(3.3.26)
を得る。
Gel'fand–Yaglom の読み方
式 (3.3.26) の sinωt/ω は、行列式を計算しなくても求めることができる。ϕk=ϵDk−1(ϕ0=0、ϕ1=ϵ)とおくと、漸化式 (3.3.23) は
ϵ2ϕk+1−2ϕk+ϕk−1=−ω2ϕk
と書き直せる。これは揺らぎの運動方程式 ϕ¨=−ω2ϕ の差分で、初期値は ϕ(0)=0、ϕ˙(0)=(ϕ1−ϕ0)/ϵ=1 に当たる。したがって N→∞ の極限は、初期値問題
ϕ¨(s)=−ω2ϕ(s),ϕ(0)=0,ϕ˙(0)=1⟹F(t)=2πiℏϕ(t)m(3.3.27)
の解の終点での値 ϕ(t)=sinωt/ω で決まる。自由粒子では ϕ(t)=t で、式 (3.3.10) に戻る。無限次元の行列式を、1本の常微分方程式の初期値問題に置き換えるこの方法は Gel'fand と Yaglom による(I. M. Gel'fand, A. M. Yaglom (1956), Uspekhi Mat. Nauk 11, no. 1, 77)。
ϕ(t) には古典力学の意味もある。ϕ は始点を固定して初速だけを単位量変えたときの終点のずれ、すなわち m∂xf/∂pi で、式 (3.3.22) から ϕ(t)=m(−∂2Scl/∂xf∂xi)−1 である。ϕ(t)=0 となる時刻は、始点を出た経路が初速によらず1点に集まる共役点である。調和振動子では ωt=π がそれで、揺らぎの因子はそこで発散する。共役点を越えた先で位相がどう変わるかは、停留位相の章(第3部第4章)で扱う。
Mehler 核
式 (3.3.5)・(3.3.21)・(3.3.26) を合わせると、調和振動子の伝播関数は
K(xf,t;xi,0)=2πiℏsinωtmωexp{2ℏsinωtimω[(xf2+xi2)cosωt−2xfxi]}(0<ωt<π)(3.3.28)
となる。これが共通例題①の Mehler 核で、巻の補足の正答表と同じ形である。ω→0 では式 (3.3.11) に戻る。検算では、式 (3.3.28) が Schrödinger 方程式 iℏ∂tK=(−2mℏ2∂xf2+2mω2xf2)K を満たすことも記号計算で確かめた。

図 3.3.3 揺らぎの行列式 ϵDN−1(ω を掛けて無次元にしたもの)。赤と青の実線は刻み N=3・6 の式 (3.3.25)、黒の点線は極限 sinωt である。0 を横切る点(N=3 で ωt=3.00、N=6 で 3.11)が離散化した共役点で、N→∞ で π に近づく
例題 3.3.5 刻みの粗い揺らぎの因子 ★★
オリジナル4分の1周期 ωt=π/2 の揺らぎの因子を、刻み N=4 と N=16 で計算する。
- (1) N=4 の ωϵD3 を、漸化式 (3.3.23) から数値で求めよ。
- (2) 極限値 1 とのずれが N=4 と N=16 でどう変わるかを調べ、ずれが 1/N2 に比例することを確かめよ。
解答
(1) ϵω=π/8=0.3927 で、c=2−ϵ2ω2=1.8458 である。漸化式で D1=c=1.8458、D2=c2−1=2.4070、D3=cD2−D1=2.5970 となり、
ωϵD3=0.3927×2.5970=1.0198
を得る。極限値 sin(π/2)=1 より 2% 大きい。3×3 行列 B3 の行列式を直接計算しても同じ値になる。
(2) 同じ計算を N=16 で行うと ωϵD15=1.00121 である。ずれの比は 0.0198/0.00121=16.4 で、刻みを4倍にしてずれが約 16=42 分の1になった。式 (3.3.24) で θ=2arcsin(ϵω/2)=ϵω+(ϵω)3/24+⋯ と展開すると、ずれの主要項は ϵ2 に比例し、t を固定すれば 1/N2 になる。自由粒子では N によらず厳密だったが、調和振動子では V を区間の左端で評価したことによる O(ϵ2) のずれが残り、極限で消える。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 刻み ϵ=t/N→0(時間の離散化) | 証明 証明済み(2次の作用では有限の N の値が式 (3.3.25) の閉じた形で求まり、極限を直接とった。一般のポテンシャルでの収束は Trotter の積公式の前提を第3部第2章で確かめる) | 行き先 近似の数理 第4章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com