量子力学の様々な構成方法 第6部 第7章 §6.7.5 ★★★ Fock 空間で得られるのは書き方だけで、強い相関はそれだけでは解けず、無限自由度では1つの Fock 空間に収まらない状態が現れ、相対論では粒子数そのものが保存しない
ここまでの4つの問題で第二量子化が短く書けたのは、どれも「真空をずらす」「2次形式を対角化する」「1励起に閉じる」のどれかで解けたからである。この節では、それが成り立たない方向を3つに分けて述べる。
強い相関:書けるが解けない
第4章の Hubbard 模型は第二量子化で1行に書けるが、その1行が問題を簡単にするわけではない。電子が L サイトに上向き L/2 個・下向き L/2 個いる状態空間の次元は(L/2L)2 で、L=16 で 128702=1.66×108 になる。自由なモードの占有数の基底は、相互作用の強い所では固有状態からほど遠く、2次形式の対角化(第4章の命題)も Bogoliubov 変換でも厳密な答えは得られない。第4章の総合問題で見たとおり、平均場(Slater 行列式1つ)は2サイトでも強磁性を誤って出す。このような問題では、第二量子化は問題を書き下す言語として使われ、解くのは数値の対角化・量子 Monte Carlo・繰り込み群などの別の道具である。同じことは少数の区別できる粒子にも当てはまる。水素原子のように電子と陽子が1個ずつの問題では、対称化することがないので Fock 空間を作っても新しいことは無く、重心と相対座標に分ける基準の波動関数の方が短い。
無限自由度:1つの Fock 空間に収まらない
6.7.3 節の Bogoliubov の基底状態 ∣0B⟩ を、相互作用の無い真空(全員が k=0)を基準にした Fock 空間のベクトルとして見る。対 (k,−k) ごとに (6.7.10) は2モードのスクイーズ(uk=coshrk、vk=sinhrk)で、その真空と元の真空の重なりは 1/coshrk=1/uk である(第8部第3章の1モードの重なりの2モード版)。対はすべて独立なので
ln∣⟨0∣0B⟩∣=−対∑lnuk=−2V∫(2π)3d3klnuk=−4π2Vqc3I,I=∫0∞x2lnu(x)dx=0.3166(6.7.16)
で、体積に比例して −∞ へ向かう。同時に枯渇した粒子の数 ∑vk2 も (6.7.13) から体積に比例する。有限の体積では重なりは小さくても0でなく、∣0B⟩ は元の Fock 空間のベクトルである。無限の体積では重なりが厳密に0になり、しかも有限個の演算子を当てても元の真空には戻らない。Bogoliubov 変換をユニタリ演算子で実装できる条件(Shale の条件 ∑kvk2<∞)が、有限の密度の枯渇によって破れるからである。このとき ∣0B⟩ は元の Fock 空間に入らず、交換関係の別の(非同値な)表現の真空になる。これは第8部第3章で証明した Stone–von Neumann の定理の外側の現象で(第8部第3章)、BCS 状態でも Fermi 球との重なりに同じことが起こる(第8部第5章)。第二量子化の計算は、ふつう有限の箱で行い、最後に体積あたりの量だけを取り出すことで、この問題を表に出さずに済ませている。
相対論:粒子数が保存しない
この部で量子化した Schrödinger 場は、[H^,N^]=0 を満たし、粒子数が保存した。第1章で見たとおり、それは Schrödinger 方程式が時間について1階で、場の正準運動量が iℏψ∗ になって ψ と ψ† が消滅と生成の役に分かれたためである。相対論的な Klein–Gordon 方程式は時間について2階で、正と負の振動数の解が対になる。量子化すると、正の振動数の部分は粒子を消し、負の振動数の部分は別の粒子(反粒子)を作る演算子になり、エネルギーが 2mc2 を超える過程では粒子と反粒子が対で生まれる。保存するのは粒子数でなく電荷(粒子数 − 反粒子数)で、1粒子の位置の波動関数という基準の出発点が成り立たなくなる。Dirac 方程式の場を交換関係で量子化するとハミルトニアンが下に有界でなくなり、反交換関係が必要になること(スピンと統計の関係)も相対論の側の話である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第5章)。これらは基礎理論の棚の『場の量子論入門』の第1部第1章(1粒子量子力学の破綻)・第2部第5章(複素スカラー場・電荷・反粒子)・第4部第3章(スピン統計定理)で扱う。相互作用する相対論的な場では、自由な場の Fock 空間の上に相互作用描像を置くことにも原理的な問題があり(Haag の定理と呼ばれる。R. Haag (1955), Dan. Mat. Fys. Medd. 29, no. 12。ここでは名前だけを挙げる)、これも無限自由度で表現が一意でないことの別の表れで、第8部の代数の言葉が要る。
例題 6.7.5 有限の箱の Bogoliubov 真空はどれだけ元の真空から離れているか ★★
オリジナル例題 6.7.3 (3) の気体(as=5nm、n=1020m−3)を、1辺 10μm の立方体の箱に入れる。
- (1) qc と Vqc3 を求めよ。
- (2) 枯渇した粒子の数と全粒子数を比べよ。
- (3) (6.7.16) から重なりの対数を求め、箱を大きくするとどうなるかを述べよ。
解答
(1) qc2=4πasn=4π×5×10−9×1020=6.28×1012m−2 で qc=2.507×106m−1 である。V=10−15m3 なので Vqc3=1.575×104 になる。
(2) (6.7.13) から N−N0=Vqc3/(3π2)=532 個で、全粒子数 nV=105 の 0.53% である(例題 6.7.3 の割合と同じ)。
(3) ln∣⟨0∣0B⟩∣=−1.575×104×0.3166/(4π2)=−126.3 で、重なりは 10−54.9 である。枯渇は全体の 0.5% にすぎないのに、真空どうしの重なりは事実上0になっている。重なりは多数の対の因子 1/uk の積で、1つずつは1に近くても、その数が体積に比例して増えるからである。箱の1辺を2倍にすると対数は8倍になり、体積を無限にすると重なりは厳密に0になる。積分 I=0.3166 と、2モードのスクイーズの真空の重なりが 1/coshr であることは verify_ch6-07.py で確かめた。
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