量子力学の様々な構成方法 第6部 第7章 §6.7.6 ★★★ 粒子数の変わる問題は粒子数ごとの波動関数の連立方程式と同値で、この章の結果は基準・密度行列・流体・代数のそれぞれの言葉で同じ式として読める
Fock 空間の状態は粒子数ごとの波動関数の組
第2章の同値を粒子数の変わる場合へ延ばす。Fock 空間の状態 ∣ Ψ ⟩ | \Psi \rangle ∣Ψ ⟩ は、第2章の読み出しの公式で粒子数ごとの波動関数の組
Ψ ⟷ ( ψ ( 0 ) , ψ ( 1 ) ( x 1 ) , ψ ( 2 ) ( x 1 , x 2 ) , … ) , ∑ N ∥ ψ ( N ) ∥ 2 = 1 \Psi\longleftrightarrow\bigl(\psi^{(0)},\ \psi^{(1)}(x_1),\ \psi^{(2)}(x_1,x_2),\ \dots\bigr),\qquad\sum_N\lVert \psi^{(N)}\rVert ^2=1 Ψ ⟷ ( ψ ( 0 ) , ψ ( 1 ) ( x 1 ) , ψ ( 2 ) ( x 1 , x 2 ) , … ) , N ∑ ∥ ψ ( N ) ∥ 2 = 1
と1対1に対応する(各 ψ ( N ) \psi^{(N)} ψ ( N ) は対称化または反対称化した N N N 変数の関数)。粒子数を保つ H ^ \hat H H ^ は各成分を別々に動かし、各成分の方程式が基準の Schrödinger 方程式だった。粒子数を変える項、たとえば ∫ d x f ( x ) ψ ^ † ( x ) \int\mathrm{d} x\,f(x)\hat\psi^\dagger(x) ∫ d x f ( x ) ψ ^ † ( x ) は、ψ ( N ) \psi^{(N)} ψ ( N ) から ψ ( N + 1 ) \psi^{(N+1)} ψ ( N + 1 ) を作る。したがって粒子数の変わる問題の Schrödinger 方程式は、
i ℏ ∂ t ψ ( N ) = H ^ ( N ) ψ ( N ) + [ ψ ( N − 1 ) と ψ ( N + 1 ) からの寄与 ] \mathrm{i}\hbar\,\partial_t\psi^{(N)}=\hat H^{(N)}\psi^{(N)}+\bigl[\text{$\psi^{(N-1)}$ と $\psi^{(N+1)}$ からの寄与}\bigr] i ℏ ∂ t ψ ( N ) = H ^ ( N ) ψ ( N ) + [ ψ ( N − 1 ) と ψ ( N + 1 ) からの寄与 ]
という無限個の連立方程式と同じものである。基準の言葉で書けないわけではなく、成分の塔を並べて書く必要がある、ということである。第二量子化はこの塔を1つの演算子で書く記法で、隣どうしの成分をつなぐ係数(N + 1 \sqrt{N+1} N + 1 など)は、生成消滅演算子の交換関係から自動で正しく決まる。
逆向きも成り立つ。何か保存量があって塔の一部分に閉じれば、その部分は普通の量子力学になる。6.7.2 節の1励起の部分空間は「原子の励起1つ」と「光子1個の波動関数 c k c_k c k 」を並べた空間 C ⊕ ℓ 2 \mathbb{C}\oplus\ell^2 C ⊕ ℓ 2 で、(6.7.6) はそこでの普通の Schrödinger 方程式である。離散の準位1つが連続体と結合したこの形は Friedrichs の模型と呼ばれ、粒子数の変わる問題が1粒子の問題に戻る典型である。
共通例題との対応
この章の3つの得意な問題は、それぞれ共通例題の1つを変形したものになっている。
共通例題①:独立ボソン模型は位置表示でずれた放物線。 1つのモードの a ^ + a ^ † = 2 m ω 0 / ℏ x ^ \hat a+\hat a^\dagger=\sqrt{2m\omega_0/\hbar}\,\hat x a ^ + a ^ † = 2 m ω 0 /ℏ x ^ (第2部第4章の振動子の質量 m m m は形式的なもの)を使うと、n ^ d = 1 \hat n_{\mathrm d}=1 n ^ d = 1 の部分の H ^ 1 \hat H_1 H ^ 1 は位置表示で
H ^ 1 = ε d + p ^ 2 2 m + 1 2 m ω 0 2 x ^ 2 + ℏ ω 0 η 2 m ω 0 ℏ x ^ = ε d − E p + p ^ 2 2 m + 1 2 m ω 0 2 ( x ^ − x 0 ) 2 , x 0 = − 2 η ℏ 2 m ω 0 \hat H_1=\varepsilon _{\mathrm d}+\frac{\hat p^2}{2m}+\frac12m\omega_0^2\hat x^2+\hbar\omega_0\eta\sqrt{\frac{2m\omega_0}{\hbar}}\,\hat x
=\varepsilon _{\mathrm d}-E_{\mathrm p}+\frac{\hat p^2}{2m}+\frac12m\omega_0^2(\hat x-x_0)^2,\qquad x_0=-2\eta\sqrt{\frac{\hbar}{2m\omega_0}} H ^ 1 = ε d + 2 m p ^ 2 + 2 1 m ω 0 2 x ^ 2 + ℏ ω 0 η ℏ 2 m ω 0 x ^ = ε d − E p + 2 m p ^ 2 + 2 1 m ω 0 2 ( x ^ − x 0 ) 2 , x 0 = − 2 η 2 m ω 0 ℏ
となり、底が x 0 x_0 x 0 にずれて E p E_{\mathrm p} E p だけ下がった調和振動子(共通例題①)である。基準の言葉では、光の吸収は「元の放物線の基底状態の波動関数を、ずれた放物線の固有関数で展開する」計算で、
∫ d x ϕ 0 ( x ) ϕ 0 ( x − x 0 ) = exp ( − m ω 0 x 0 2 4 ℏ ) , m ω 0 x 0 2 2 ℏ = η 2 = S H R (6.7.17) \int\mathrm{d} x\,\phi_0(x)\,\phi_0(x-x_0)=\exp\Bigl(-\frac{m\omega_0x_0^2}{4\hbar}\Bigr),\qquad\frac{m\omega_0x_0^2}{2\hbar}=\eta^2=S_{\mathrm{HR}}\tag{6.7.17} ∫ d x ϕ 0 ( x ) ϕ 0 ( x − x 0 ) = exp ( − 4ℏ m ω 0 x 0 2 ) , 2ℏ m ω 0 x 0 2 = η 2 = S HR ( 6.7.17 )
から零フォノン線の重み e − S H R \mathrm{e}^{-S_{\mathrm{HR}}} e − S HR が出る。第二量子化では同じものが「コヒーレント状態 ∣ η ⟩ | \eta \rangle ∣ η ⟩ の中に n n n 個の量子がある確率」と読め、Poisson 分布が1行で出た。2つの読み方は、第1部第3章の「表示の選び方」の違いにすぎない(第1部第3章 )。
共通例題②:自然放出は Lindblad の緩和。 6.7.2 節の全体の状態から光子の自由度を部分トレースで捨てると、原子の密度行列の励起の占有は ρ e e = ∣ c e ∣ 2 = e − Γ t \rho_{ee}=\lvert c_{\mathrm e}\rvert ^2=\mathrm{e}^{-\Gamma t} ρ ee = ∣ c e ∣ 2 = e − Γ t である。これは第4部第5章の Lindblad 方程式で L ^ = Γ σ ^ − \hat L=\sqrt\Gamma\,\hat\sigma_- L ^ = Γ σ ^ − とおいた緩和で、T 1 = 1 / Γ T_1=1/\Gamma T 1 = 1/Γ に当たる(第4部第5章 )。第4部では Lindblad 演算子を外から与えたが、ここではそれが「原子が光子を1個作る」という第二量子化の項 a ^ k † σ ^ − \hat a_k^\dagger\hat\sigma_- a ^ k † σ ^ − から出てくることが見える。Markov の近似は、放出された光子が原子へ戻らないこと(連続体の再生時間が無限)を課すことと同じである。
共通例題③:Bogoliubov の分散の短波長側は自由粒子。 (6.7.11) は k ξ ≫ 1 k\xi\gg1 k ξ ≫ 1 で ε k + g n \varepsilon _k+gn ε k + g n になり、準粒子は平均の反発でずれた自由粒子として伝播する。長波長側では、同じ式が第7部第3章の Gross–Pitaevskii 方程式の線形化で出る音波であり(第7部第3章 )、流体の言葉では密度と位相の小さな振動になる。
得意な問題の辞書
表 6.7.1 に、この章の問題を第二量子化で書いたときに何が起こったかと、ほかの構成で同じものを書いたときの形を並べる。図 6.7.4 は同じことを地図の形にしたものである。
表 6.7.1 得意な問題と、ほかの構成での同じもの 問題 第二量子化での形 ほかの構成での形 独立ボソン模型(6.7.1 節) 1次の項は真空をずらす:D ^ ( − η ) \hat D(-\eta) D ^ ( − η ) 、Poisson 分布 基準の位置表示でずれた放物線と Franck–Condon の重なり (6.7.17) 自然放出(6.7.2 節) 1励起の部分空間 C ⊕ ℓ 2 \mathbb{C}\oplus\ell^2 C ⊕ ℓ 2 に閉じる 光子を部分トレースで捨てると Lindblad の L ^ = Γ σ ^ − \hat L=\sqrt\Gamma\hat\sigma_- L ^ = Γ σ ^ − (第4部第5章) Bogoliubov(6.7.3 節) 波数の対ごとの2モードのスクイーズ(第6部第3章) 流体:GP の線形化の音波(第7部第3章)。代数:無限体積で非同値な表現(第8部第3章) BCS(6.7.4 節) 対ごとの2モードのフェルミ模型の積、粒子数は決めない 擬スピンの積状態・位相ごとの非同値な表現(第8部第5章)、固体の巻の平均場 相対論(6.7.5 節) 粒子数でなく電荷が保存 『場の量子論入門』の反粒子とスピン統計定理
図 6.7.4 この章の橋。粒子数の変わる問題は、基準では粒子数ごとの波動関数の塔として、密度行列では緩和として、流体では音波として書き直すことができる。体積を無限にした極限は代数の言葉を必要とし、相対論への延長は場の量子論の入門へ送る(破線)。
学部の授業との対応も1つ挙げておく。学部の量子力学では、自然放出の割合は「時間に依存する摂動論の1次」と「終状態の密度」を掛けた Fermi の黄金律で出し、光子の放出は「原子の準位の間の遷移」としてだけ書くことが多い。そこで終状態の密度として数えているものが、(6.7.7) の ∑ k κ k 2 δ ( ω k − ω e ) \sum_k\kappa_k^2\delta(\omega_k-\omega_{\mathrm e}) ∑ k κ k 2 δ ( ω k − ω e ) であり、光子を作る演算子を書けば、それが Fock 空間の1光子の状態の数であることが明示される。電磁場を量子化して原子と結合させ、自然放出を光子の生成として出したのは Dirac が最初である(P. A. M. Dirac (1927), Proc. R. Soc. Lond. A 114 , 243)。
例題 6.7.6 Franck–Condon の重なりを2つの言葉で ★★
オリジナル (6.7.1) の1つのモードについて、次を示せ。
(1) 位置表示の H ^ 1 \hat H_1 H ^ 1 の底のずれ x 0 x_0 x 0 と底の高さ − E p -E_{\mathrm p} − E p を、平方完成から出せ。
(2) (6.7.17) の積分を計算し、その2乗が e − S H R \mathrm{e}^{-S_{\mathrm{HR}}} e − S HR であることを示せ。
(3) 第二量子化の側で同じ量を ∣ ⟨ 0 ∣ η ⟩ ∣ 2 \lvert \langle 0 | \eta \rangle \rvert ^2 ∣⟨ 0∣ η ⟩ ∣ 2 として出せ。
解答 (1) 1 2 m ω 0 2 x 2 + F x \frac12m\omega_0^2x^2+Fx 2 1 m ω 0 2 x 2 + F x (F = ℏ ω 0 η 2 m ω 0 / ℏ F=\hbar\omega_0\eta\sqrt{2m\omega_0/\hbar} F = ℏ ω 0 η 2 m ω 0 /ℏ )を平方完成すると、底は x 0 = − F / ( m ω 0 2 ) = − 2 η ℏ / ( 2 m ω 0 ) x_0=-F/(m\omega_0^2)=-2\eta\sqrt{\hbar/(2m\omega_0)} x 0 = − F / ( m ω 0 2 ) = − 2 η ℏ/ ( 2 m ω 0 ) 、底の高さは − F 2 / ( 2 m ω 0 2 ) = − ℏ 2 ω 0 2 η 2 ( 2 m ω 0 / ℏ ) / ( 2 m ω 0 2 ) = − η 2 ℏ ω 0 = − E p -F^2/(2m\omega_0^2)=-\hbar^2\omega_0^2\eta^2(2m\omega_0/\hbar)/(2m\omega_0^2)=-\eta^2\hbar\omega_0=-E_{\mathrm p} − F 2 / ( 2 m ω 0 2 ) = − ℏ 2 ω 0 2 η 2 ( 2 m ω 0 /ℏ ) / ( 2 m ω 0 2 ) = − η 2 ℏ ω 0 = − E p である。
(2) ϕ 0 ( x ) = ( m ω 0 / π ℏ ) 1 / 4 e − m ω 0 x 2 / 2 ℏ \phi_0(x)=(m\omega_0/\pi\hbar)^{1/4}\mathrm{e}^{-m\omega_0x^2/2\hbar} ϕ 0 ( x ) = ( m ω 0 / π ℏ ) 1/4 e − m ω 0 x 2 /2ℏ で、2つの Gauss 関数の積の指数は − m ω 0 2 ℏ [ x 2 + ( x − x 0 ) 2 ] = − m ω 0 ℏ ( x − x 0 / 2 ) 2 − m ω 0 x 0 2 4 ℏ -\frac{m\omega_0}{2\hbar}[x^2+(x-x_0)^2]=-\frac{m\omega_0}{\hbar}(x-x_0/2)^2-\frac{m\omega_0x_0^2}{4\hbar} − 2ℏ m ω 0 [ x 2 + ( x − x 0 ) 2 ] = − ℏ m ω 0 ( x − x 0 /2 ) 2 − 4ℏ m ω 0 x 0 2 である。x x x で積分すると前の因子 ( m ω 0 / π ℏ ) 1 / 2 (m\omega_0/\pi\hbar)^{1/2} ( m ω 0 / π ℏ ) 1/2 と π ℏ / ( m ω 0 ) \sqrt{\pi\hbar/(m\omega_0)} π ℏ/ ( m ω 0 ) が打ち消して e − m ω 0 x 0 2 / 4 ℏ \mathrm{e}^{-m\omega_0x_0^2/4\hbar} e − m ω 0 x 0 2 /4ℏ が残る。2乗は e − m ω 0 x 0 2 / 2 ℏ \mathrm{e}^{-m\omega_0x_0^2/2\hbar} e − m ω 0 x 0 2 /2ℏ で、(1) の x 0 x_0 x 0 を入れると m ω 0 x 0 2 / ( 2 ℏ ) = η 2 = S H R m\omega_0x_0^2/(2\hbar)=\eta^2=S_{\mathrm{HR}} m ω 0 x 0 2 / ( 2ℏ ) = η 2 = S HR になる。
(3) コヒーレント状態の展開 ∣ η ⟩ = e − η 2 / 2 ∑ n η n ∣ n ⟩ / n ! | \eta \rangle =\mathrm{e}^{-\eta^2/2}\sum_n\eta^n| n \rangle /\sqrt{n!} ∣ η ⟩ = e − η 2 /2 ∑ n η n ∣ n ⟩ / n ! の n = 0 n=0 n = 0 の係数から ∣ ⟨ 0 ∣ η ⟩ ∣ 2 = e − η 2 = e − S H R \lvert \langle 0 | \eta \rangle \rvert ^2=\mathrm{e}^{-\eta^2}=\mathrm{e}^{-S_{\mathrm{HR}}} ∣⟨ 0∣ η ⟩ ∣ 2 = e − η 2 = e − S HR である。位置表示では Gauss 積分が1つ要ったものが、Fock 空間では展開の最初の係数を読むだけで済む。n ≥ 1 n\ge1 n ≥ 1 の重みも、位置表示では Hermite 関数とずれた Gauss 関数の重なりの積分になるが、Fock 空間では同じ展開の n n n 番目の係数の2乗で、Poisson 分布であることが直接見える。(6.7.17) は verify_ch6-07.py で sympy の積分として確かめた。
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