量子力学の様々な構成方法 第8部 第5章 §8.5.6 ★★★ 第二量子化で「真空を取り替える Bogoliubov 変換」と書くものは、有限体積ではユニタリ、無限体積では表現の取り替えである。第二量子化の Fock 空間は、それぞれ1つの状態の GNS 表現にあたる
有限体積ではユニタリ
第二量子化(第6部第2章)の言葉では、BCS 状態は Fermi 球(または空の真空)に Bogoliubov 変換を当てたものである。1つの対のモードでは
U^k(θk)=exp(θk(P^k†−P^k)),U^k∣0k⟩=cosθk∣0k⟩+sinθk∣1k⟩(8.5.21)
で、uk=cosθk、vk=sinθk とおけば (8.5.9) の因子になる。生成子 P^†−P^ は {∣0⟩,∣1⟩} の上で (01−10) にあたり、指数関数は角 θ の回転行列になるからである。同じユニタリで消滅演算子を変換すると
γ^k↑=U^c^k↑U^†=ukc^k↑−vkc^−k↓†(8.5.22)
で、これが BCS 状態を消す準粒子の演算子になる。固体の巻の Bogoliubov 変換はこの形である。有限個のモードなら U^=∏kU^k はユニタリで、BCS 状態と Fermi 球は同じ Fock 空間の2つのベクトルにすぎない。第二量子化の教科書で「BCS 状態を Fock 空間で書く」と言うのは、この有限体積の話である。
無限体積では表現の取り替え
無限体積では ∏kU^k が Fock 空間の作用素として収束しない。重なりが 0 に行き(式 (8.5.12))、励起の数が発散する(式 (8.5.13))からである。それでも (8.5.22) の c^↦γ^ は CAR 代数の *自己同型としては意味をもつ。代数の自己同型であっても表現の中のユニタリにならない、というのが前々章からの主題で、ここでは Bogoliubov 変換が「同じ Fock 空間の中の基底の取り替え」から「別の Fock 空間(準粒子の Fock 空間)への乗り換え」に変わる。準粒子 γ^ の Fock 空間は BCS 状態の GNS 空間そのもので、BCS 状態がその真空である。同じように、マグノンを数える空間は ω↑ の GNS 空間、正常な金属の電子と正孔を数える空間はωFS の GNS 空間である。第二量子化で使う「Fock 空間」は1つでなく、選んだ真空(状態)ごとに1つずつある。
表 8.5.1 に、第8部で見た「無限個の積で表現が分かれる」例を並べた。どの例も、1つあたりの重なりが 1 より小さく、励起の数の和が発散し、巨視的な平均が表現を見分ける、という同じ構造をもつ。
表 8.5.1 第8部で見た非同値な表現の例。どれも積状態(またはその極限)で、前々章の補題と定理だけで非同値を示すことができる。| 例 | 1つあたりの重なり(BCS は体積あたり) | 励起の総数 | 見分ける巨視的な量 |
| 振動数を変えた振動子の鎖(第8部第3章) | (coshr)−1/2 | Nsinh2r | 1点の Weyl 演算子の平均 |
| 強磁性の向き(第8.5.1節) | cos(θ/2) | Nsin2(θ/2) | 磁化 MN |
| BCS と Fermi 球(第8.5.3節) | e−(π/2−1)N0Δ | 2N0VΔ | 対の振幅 M^V |
| BCS の位相(第8.5.4節) | e−πN0Δ(1−∣cos(φ/2)∣) | — | M^V の位相 |
| 温度の違う常磁性の鎖(第8部第4章) | — | — | 1点の磁化の平均 |
教科書の書き方との対応
学部の物性の授業では、BCS 状態は「粒子数が決まらない変分波動関数で、大きな系では粒子数のゆらぎの比が小さいので問題にならない」と説明されることが多い。この章の言葉では、その説明は次の2つに分かれる。第一に、粒子数のゆらぎの比 πN0VΔ/(電子数) が V−1/2 で消えること(式 (8.5.16))。第二に、それでも位相を決めた状態と粒子数を決めた状態は無限体積で別物で、前者は純粋な相、後者はそれらの位相についての平均(式 (8.5.18))であること。局所的な観測量の期待値はどちらで計算しても同じなので、計算には位相を決めた状態を使えばよい。
また、強磁性の教科書は「全スピンの多重項の中から S全z が最大のものを選ぶ」と書く。有限の系ではこれは多重項の中の1つのベクトルを選ぶことで、他の向きへはユニタリで移ることができる。無限系ではその選択が表現の選択になり、他の向きへは移れなくなる。教科書が「微小な磁場をかけて向きを決め、あとで磁場を 0 にする」と書く手続き(Bogoliubov の準平均)は、体積を無限にしてから磁場を 0 にするという極限の順序で、表現を1つ選ぶ操作にあたる。

図 8.5.4 1つの代数から、状態の選び方で別々の「Fock 空間」(GNS 空間)が得られる様子。破線は、有限体積ではユニタリで結ばれるが無限体積では結ばれない関係。BCSφ の GNS 空間は位相 φ ごとに1つずつあり、互いに非同値である。
例題 8.5.6 1つの対のモードの Bogoliubov 変換 ★★
オリジナル対のモード1つ(2つのフェルミ粒子のモード k↑、−k↓、4次元の Fock 空間)で考える。
- (1) (8.5.21) の U^∣0⟩=cosθ∣0⟩+sinθ∣1⟩ を、生成子の2乗が {∣0⟩,∣1⟩} の上で −1 になることから示せ。
- (2) (8.5.22) の γ^k↑ が U^∣0⟩ を消すことを確かめよ。
- (3) θ=0.6 のモードを M 個並べたときの、変換後の状態と元の真空の重なりを求め、M=100 での値を見積もれ。
解答
(1) G^=P^†−P^ とおくと G^∣0⟩=∣1⟩、G^∣1⟩=−∣0⟩(P^∣1⟩=∣0⟩、P^†∣1⟩=0)なので G^2=−1(この2次元の上で)。指数関数の級数を偶数次と奇数次に分けて eθG^=cosθ+G^sinθ、したがって U^∣0⟩=cosθ∣0⟩+sinθ∣1⟩。片方だけ詰まった2つの状態は G^ で消されるので変わらない。
(2) γ^U^∣0⟩=U^c^k↑∣0⟩=0 は定義から明らかだが、直接にも確かめることができる。(uc^k↑−vc^−k↓†)(u∣0⟩+vc^k↑†c^−k↓†∣0⟩) で、c^k↑c^k↑†c^−k↓†∣0⟩=c^−k↓†∣0⟩、c^−k↓†c^k↑†c^−k↓†∣0⟩=0 なので、結果は uvc^−k↓†∣0⟩−vuc^−k↓†∣0⟩=0。4次元の行列でも確かめた(verify_ch8-05.py)。
(3) 重なりは cosM0.6=0.8253M。M=100 で e100ln0.8253=e−19.20=4.6×10−9。モードの数が体積に比例して増えると 0 に行き、∏U^k は Fock 空間の作用素として極限をもたない。
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