ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第1部 第1章 §1.1.6 ★★ 授業の固体物理が出発点として置く式が、全体の H^ からどの削り方を経て出てくるか
周期ポテンシャルの中の1電子
学部の固体物理の授業は、多くの場合、結晶構造と回折から始まり、次に「周期ポテンシャル U(r) の中の1電子の Schrödinger 方程式」
[−2mℏ2∇2+U(r)]ψ(r)=εψ(r),U(r+R)=U(r)(1.1.13)
を出発点として置く。この巻では、これを式 (1.1.1) に3つの削り方を当てた結果と読む。原子核を平衡位置に止め(Born–Oppenheimer 近似と、振動を削る)、内殻の電子をイオンにまとめ、価電子どうしの相互作用を平均の veff に置き換える(1電子近似)と式 (1.1.5) になる。原子核が周期的に並んでいれば veff も周期的になるので、授業の U(r) は veff(r) のことである。授業で「電子は互いに独立に動くとする」と1文で置く仮定が、この巻では札の付いた近似になる。
自由電子気体と格子振動
授業の自由電子気体は、式 (1.1.13) でさらに U(r) を一定とおいたものである。イオンの電荷を一様に塗り広げた背景(ジェリウム)と電子の平均の電荷が打ち消し合うので、veff は定数になる。電子の数密度 n から Fermi 波数 kF=(3π2n)1/3 と Fermi エネルギー εF=ℏ2kF2/(2m) が決まる(第4部第1章)。
格子振動は、授業では「原子をばねでつないだ鎖」から始める。この巻では、ばねの定数を Born–Oppenheimer 近似の曲面 E0(R) の2階微分と読む:
E0(R0+u)≈E0(R0)+21I,J∑α,β∑∂RIα∂RJβ∂2E0R0uIαuJβ.(1.1.14)
1次の項は平衡位置で消える。ばねの定数は電子の基底状態のエネルギーが原子の位置にどう依るかで決まり、模型の外から与えるパラメータではない。
Heisenberg 模型
磁性の授業は、Heisenberg 模型 J∑S^j⋅S^l を出発点として置き、J を「交換相互作用」と呼ぶ。この巻では、これを Hubbard 模型の t/U→0 の極限(式 (1.1.9))と読み、J の起源をホッピングと斥力の比で表す。J の符号と大きさを決める仕組み(直接交換・超交換)は第5部第2章で扱う。
対応をまとめると次のようになる。
| 授業で習った形 | この巻での読み方 |
| 周期ポテンシャル U(r) の中の1電子 | 式 (1.1.1) → Born–Oppenheimer → 内殻をイオンに → 1電子近似の veff |
| 自由電子気体 εF=ℏ2(3π2n)2/3/(2m) | 上の veff を一定とおく(ジェリウム) |
| 原子をばねでつないだ鎖 | Born–Oppenheimer の曲面 E0(R) を2次まで展開 |
| Heisenberg 模型の交換相互作用 J | Hubbard 模型の t/U→0 の極限、J=4t2/U |
| Bloch の定理・波数 k | 並進 T^ と H^ の同時対角化(厳密) |
例題 1.1.6 銅の電子は比熱にどれだけ寄与するか ★★
オリジナル例題 1.1.5 の銅の伝導電子(n=8.47×1028m−3)を自由電子気体とみなす。
- (1) Fermi エネルギー εF と Fermi 温度 TF=εF/kB を求めよ。
- (2) 自由電子気体の比熱は kBT≪εF で Cel=2π2nkBTFT(単位体積あたり)になる(第4部第1章の Sommerfeld 展開)。古典の気体の値 23nkB との比を 300K で求めよ。
- (3) (2) の結果を、1.1.2節の「kBT より桁で高い励起は凍る」という考え方で説明せよ。
解答
(1) kF=(3π2×8.47×1028)1/3≈1.36×1010m−1、εF=2mℏ2kF2=2×9.109×10−31(1.0546×10−34)2×(1.36×1010)2≈1.13×10−18J≈7.03eV、TF=εF/kB≈8.16×104K である。
(2) 比は 3/2(π2/2)(T/TF)=3π2TFT=3π2×8.16×104300≈0.0121 で、古典の値の約 1.2% しかない。
(3) Pauli の原理のため、電子は εF まで1個ずつ詰まっている。熱で励起できるのは、上に空いた準位がある Fermi 面から kBT 程度の範囲の電子だけで、その割合は T/TF の桁である。Fermi 面の奥の電子は、励起に εF≈7eV の桁のエネルギーが要るので凍っている。古典の気体で 23kB ずつ寄与するはずの電子のほとんどが凍っているので、比熱は T/TF 倍に小さくなる。自由度ごとに凍るかどうかを判定する考え方は、原子核と電子の間だけでなく、電子の中でもエネルギーの位置によって使い分けられる。
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