ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第1部 第2章 §1.2.2 ★★★ 周期関数の Fourier 展開に現れる波数の集まりが逆格子であることを示し、波数が逆格子ベクトルの分だけ同一視されることと、周期境界条件での波数の数え方を導く
周期関数に現れる波数
周期関数を平面波の重ね合わせで書く。1次元で周期 a の関数 f(x+a)=f(x) なら、現れる波数は 2πm/a(m∈Z)だけである。平面波 eiqx が周期 a を持つ条件 eiqa=1 を満たす q がそれだけだからである。3次元ではこの条件を3方向で同時に課す。
定義 1.2.2(逆格子)
Bravais 格子 (1.2.1) に対し、すべての格子ベクトル R について eiG⋅R=1 を満たす波数ベクトル G の全体を逆格子と呼び、G を逆格子ベクトルと呼ぶ。
条件 eiG⋅R=1 は、R=a1,a2,a3 の3つについて成り立てば、整数係数の和でできたすべての R について成り立つ。そこで、3本の基本並進ベクトルとの内積が「2π か 0」になるベクトルを先に作る。
命題 1.2.3(逆格子の基本ベクトル ★★★)
b1=2πa1⋅(a2×a3)a2×a3,b2=2πa1⋅(a2×a3)a3×a1,b3=2πa1⋅(a2×a3)a1×a2(1.2.4)
とおくと ai⋅bj=2πδij が成り立ち、逆格子はちょうど
G=m1b1+m2b2+m3b3,m1,m2,m3∈Z(1.2.5)
の全体である。したがって逆格子もまた Bravais 格子で、その基本単位胞の体積は ∣b1⋅(b2×b3)∣=(2π)3/vc である。
証明
a1⋅(a2×a3) はスカラー三重積で、a1⋅b1=2π になる。a2⋅(a2×a3)=0 のように、同じベクトルが2回現れるスカラー三重積は 0 なので、i=j では ai⋅bj=0 である。
b1,b2,b3 は1次独立なので(次の段落の体積が 0 でないことから分かる)、任意の波数は q=∑jxjbj(xj は実数)と書ける。R=∑iniai との内積は q⋅R=2π∑inixi である。すべての整数の組 (n1,n2,n3) で eiq⋅R=1 となるには、(1,0,0) などを入れて x1,x2,x3 がそれぞれ整数であることが必要で、整数なら十分でもある。これで式 (1.2.5) が示せた。
体積は、ai を行に並べた行列を A、bj を列に並べた行列を B とすると ai⋅bj=2πδij が AB=2πI と書けることから、detAdetB=(2π)3 で、∣detA∣=vc なので ∣detB∣=(2π)3/vc である。
逆格子の逆格子は元の格子に戻る。ai⋅bj=2πδij は a と b について対称な式なので、bj から同じ作り方をすると ai が出てくるからである。係数 2π を逆格子の側に入れるのは固体物理の流儀で、結晶学では 2π を入れない(第6節)。
周期関数の Fourier 級数
定理 1.2.4(周期関数の Fourier 展開 ★★★)
V(r+R)=V(r) がすべての格子ベクトルで成り立つ(2乗可積分な)関数は、逆格子ベクトルの平面波だけで
V(r)=G∑VGeiG⋅r,VG=vc1∫単位胞V(r)e−iG⋅rd3r(1.2.6)
と展開できる(この本の流儀。2π は係数の積分の側に入れず、単位胞の体積で割る)。V が実数値なら V−G=VG∗ である。
証明
斜交座標 r=∑ixiai を入れると、V は x1,x2,x3 のそれぞれについて周期 1 の関数になる。3変数の通常の Fourier 級数によりV=∑mcme2πi(m1x1+m2x2+m3x3) と書ける。xi=bi⋅r/(2π) を使うと2π∑imixi=G⋅r(G=∑imibi)なので、これは式 (1.2.6) の展開そのものである。係数は vc1∫単位胞ei(G−G′)⋅rd3r=δGG′(斜交座標では xi についての ∫01e2πi(mi−mi′)xidxi の積)を使って取り出せる。実数値の条件は、式 (1.2.6) の複素共役を取って比べれば出る。
この定理から、周期性という条件だけで、展開に使う波数が連続な q から離散的な G に絞られることが分かる。第2部で Schrödinger 方程式を平面波で解くとき、ポテンシャルは異なる波数の平面波を「G だけずれたもの同士」しか結ばない。ブラッグ反射とギャップ(第2部第5章)はこの事実から出る。
原子ごとの和 (1.2.3) の場合は、Fourier 係数が原子1個の Fourier 変換 v~s(q)=∫vs(r)e−iq⋅rd3r で書ける。単位胞にわたる積分と格子ベクトルの和をまとめると全空間の積分になるので
VG=vc1s=1∑nbv~s(G)e−iG⋅τs(1.2.7)
である。右辺の和 ∑sv~s(G)e−iG⋅τs は、回折で構造因子と呼ぶ量と同じ形をしており、第1部第3章で回折の強度として測る。

図 1.2.2 1次元の周期ポテンシャル(Gauss 型の井戸を周期 a で並べたもの、幅 s=0.12a)を Fourier 級数で打ち切った形。点線が元の V(x)(厳密)、実線が ∣m∣≤1(赤)と ∣m∣≤2(橙)までの和(近似)。係数は例題 1.2.2 の式で、∣m∣ が増えると e−(2πms/a)2/2 の速さで小さくなるので、少ない項で元の形に近づく
波数は逆格子ベクトルの分だけ同一視される
逆格子のもう1つの役目は、格子点の上だけで値を持つ量に現れる。原子ごとの振幅 cR=eik⋅R のように、格子点の上でだけ値を見る平面波を考える。k を k+G に替えても、eiG⋅R=1 なので
ei(k+G)⋅R=eik⋅R(すべての格子ベクトル R)(1.2.8)
となり、格子点の上での値はまったく同じである。格子点の上でしか値を見ない限り、波数 k と k+G は区別できない。原子の列の振動で、波長の短い波が長い波と同じ原子の運動を表すこと(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第4章)は、この事実の1次元の場合である。この同一視のため、波数は逆格子の基本単位胞1つ分の領域の中だけで考えれば足りる。どの領域を選ぶのが便利かは第4節で決める。
周期境界条件と波数の数え方
有限の結晶の中の波数を数えるため、ai の向きに Ni 個ずつ、合わせて N=N1N2N3 個の単位胞を並べた結晶を考え、周期境界条件 ψ(r+Niai)=ψ(r) を課す(結晶の反対側の面どうしをつなぐ)。平面波 eik⋅r がこれを満たす条件はeiNik⋅ai=1 で、k=∑jxjbj と書くと Nixi∈Z になる。したがって許される波数は
k=j=1∑3Njμjbj,μj∈Z(1.2.9)
で、逆格子の基本単位胞1つの中(0≤μj<Nj)にちょうど N1N2N3=N 個ある。結晶の単位胞の数と、区別できる波数の数が一致する。波数空間で1つの波数が占める体積は N(2π)3/vc=Nvc(2π)3 で、Nvc は結晶の体積である。
許される波数について、格子点にわたる位相の和は次のように簡単になる。
補題 1.2.5(格子和 ★★)
式 (1.2.9) の k について、N 個の格子ベクトル R=∑iniai(0≤ni<Ni)にわたる和は
R∑eik⋅R={N0(k が逆格子ベクトル)(それ以外)(1.2.10)
である。
証明
k⋅R=2π∑iniμi/Ni なので、和は3つの等比級数 ∑n=0Ni−1e2πinμi/Ni の積になる。μi/Ni が整数なら各項が 1 で和は Ni、整数でなければ公比 e2πiμi/Ni=1 の等比級数で、和は(1−e2πiμi)/(1−e2πiμi/Ni)=0 である。k が逆格子ベクトルであることと、3つの μi/Ni がすべて整数であることは同じである。
この格子和は、第2部で「波数の異なる平面波の格子上の重ね合わせは直交する」という形で何度も使う。回折では、散乱波が強め合う条件として現れる。
例題 1.2.2 Gauss 型の井戸を並べたポテンシャルの Fourier 係数 ★★
オリジナル1次元で、深さ v0>0、幅 s の Gauss 型の井戸 v(x)=−v0e−x2/(2s2) を周期 a で並べたポテンシャル V(x)=∑n∈Zv(x−na) を考える。
- (1) 逆格子ベクトル Gm=2πm/a に対する Fourier 係数 VGm を求めよ。
- (2) s=0.12a のとき、VG0・VG1・VG2 を v0 の何倍かで数値で答えよ。
- (3) 井戸を細くする(s→0)と係数の並びはどう変わるか。
解答
(1) 式 (1.2.7) の1次元版(vc=a、基底は1個で τ=0)より VGm=v~(Gm)/a である。Gauss 積分∫−∞∞e−x2/(2s2)e−iqxdx=2πse−q2s2/2 を使うと
VGm=−v0a2πsexp[−21(a2πms)2].
(2) 2π×0.12=0.3008、21(2π×0.12)2=0.2842 なのでVG0=−0.301v0、VG1=−0.301e−0.284v0=−0.226v0、VG2=−0.301e−1.137v0=−0.0965v0 である。VG0 は単位胞にわたるポテンシャルの平均で、エネルギーの原点をずらすだけである。
(3) 係数の大きさは ∣m∣ について幅 a/(2πs) の Gauss 関数で減る。井戸を細くすると、この幅が広がり、高い ∣Gm∣ まで係数が残る。s→0 で井戸の面積 2πsv0 を一定に保つと、すべての VGm が同じ値に近づく(デルタ関数の並びの Fourier 係数)。鋭い構造を表すには、多くの逆格子ベクトルの成分が要る。図 1.2.2 の打ち切りの様子は、この減り方で決まる。
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