ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第5章 §2.5.3 ★★★ 厳密に解ける δ 関数の列で、弱い端ではギャップが 2∣VG∣ に、強い端では tight-binding の帯に一致することを確かめ、2つの描像を1本の模型でつなぐ
δ 関数の列:厳密な条件
周期ポテンシャルの中で厳密に解ける模型として、R. de L. Kronig と W. G. Penney(1931、Proc. R. Soc. A 130、499)が使った四角い井戸と障壁の列がある。ここではその障壁を幅 0・高さ無限大にした極限、δ 関数の列
V(x)=αn∈Z∑δ(x−na)(2.5.14)
を使う(有限の幅の障壁との関係は 2.5.6 節で示す)。α>0 は斥力、α<0 は引力である。強さを無次元にした
g:=ℏ2mαa(2.5.15)
が、この模型のただ1つのパラメータになる。Fourier 成分は式 (2.5.1) から VG=α/a で、すべての G で等しい。εX を単位にすると VG=(2g/π2)εX である。
原子と原子の間 0<x<a ではポテンシャルが 0 なので、エネルギー ε=ℏ2q2/(2m)>0 の解は ψ=Acosqx+Bsinqx と書ける。x=0 の δ 関数では ψ は連続で、導関数が跳ぶ。Schrödinger 方程式を x=0 の前後で積分すると
ψ′(0+)−ψ′(0−)=ℏ22mαψ(0)
である。さらに Bloch の定理から ψ(0−)=e−ikaψ(a−)、ψ′(0−)=e−ikaψ′(a−) が成り立つ。λ=eika と書いて、連続の条件 λA=Acosqa+Bsinqa から B を消し、導関数の跳びの条件に入れて整理すると λ2−2λcosqa+1=(2mα/ℏ2q)λsinqa、両辺を 2λ で割れば
coska=cosqa+gqasinqa(2.5.16)
を得る。左辺は −1 から 1 の間にしかないので、右辺の絶対値が 1 を超える q の範囲には、どの実数の k の解も無い。そこがギャップである。同じ δ 関数の列は近似の数理 第12章でも扱うが、そこでは ℏ2/2m=1・a=1 の単位でポテンシャルの強さを g と書くので、向こうの g はこの章の 2g にあたる(向こうの式 21Δ=cosq+(g/2q)sinq がこの式と同じものになる)。
弱い端:ギャップは 2∣VG∣
g が小さいとき、第1の境界 k=π/a(左辺 =−1)の解を求める。qa=π は sinqa=0 なので、g によらず厳密に解である。これは x=na に節を持つ sin(πx/a) の状態で、δ 関数をまったく感じない。もう1つの解を qa=π+δ とおくと、cosqa≈−1+δ2/2、sinqa≈−δ から δ≈2g/π となり、エネルギーは ε=(qa/π)2εX≈(1+4g/π2)εX である。したがってギャップは (4g/π2)εX=2VG で、式 (2.5.11) と一致する。α>0(斥力)ではイオンの上に電子がいない sin 型が下の端になり、前の節の議論の符号を逆にしたものになっている。
帯の底(k=0、左辺 =1)では、小さい q で展開すると (qa)2≈2g、ε≈α/a=V0 となり、1次摂動の「平均のポテンシャルの分だけ底が上がる」に一致する。

図 2.5.2 δ 関数の列(g=1、斥力)のバンド。点線は厳密な条件 (2.5.16) の数値解、実線は2つの平面波の近似 (2.5.10) に V0=VG=(2/π2)εX を入れたもの。g=1 でもう摂動が小さくない(VG/εX=0.20)ので、ギャップの上の端の位置が実線と点線で少しずれる。下の端は qa=π の sin 型で、厳密に εX にある。
強い端:tight-binding の帯へ
g を大きくしていくと、ギャップは 4g/π2 の直線より遅く増え、増え方が次第に鈍る(図 2.5.3)。g→∞ では、式 (2.5.16) の右辺の第2項が支配的になり、解は sinqa≈0、すなわち qa→nπ に寄っていく。これは幅 a の箱に閉じ込められた電子の準位 n2εX で、電子が δ 関数の壁を通り抜けにくくなるにつれて、帯は箱の準位のまわりの細い帯に縮む。第1の帯は [εX,4εX] から上の端が εX へ下りてくる、という形で細くなる。
引力(α<0)では、強い端で1個の δ 関数の束縛状態が現れ、その束縛状態が隣へトンネルすることで tight-binding の帯 εa−2tcoska ができる。これを章末の総合問題で確かめる。したがって、同じ δ 関数の列で g を 0 から大きくしていくと、この章の NFE から第2部第3章の tight-binding まで連続的につながる。2つの模型は別の物理ではなく、同じ H の両端の近似である。

図 2.5.3 δ 関数の列(斥力)の第1のギャップの大きさ。実線は NFE の 2VG=(4g/π2)εX、点線は厳密な条件 (2.5.16) の数値解。g≲0.5 では一致し、g が大きくなると厳密なギャップは直線より小さくなって、第1の帯の幅が 0 に向かう極限 3εX へ向かう。
例題 2.5.4 弱い δ 関数の列:摂動と厳密解の比較 ★★
オリジナルδ 関数の列(斥力)で g=0.5 とする。
- (1) V0 と VG を εX で求め、帯の底(k=0)のエネルギーを1次と2次の摂動で求めよ。2次の和には ∑n=1∞1/n2=π2/6 を使え。厳密な値は 0.0934εX である。
- (2) 第1の境界と第2の境界(Γ 点の 4εX)のギャップを NFE で求めよ。厳密な値はそれぞれ 0.193εX と 0.200εX である。
- (3) 第1のギャップの下の端が g によらず厳密に εX にある理由を、波動関数の形から述べよ。
解答
(1) V0=VG=2g/π2εX=0.1013εX である。1次では底は V0=0.1013εX に上がる。2次は、k=0 の状態と G=2πn/a の平面波(エネルギー 4n2εX)の反発で
n=0∑0−4n2εXVG2=−εXVG2⋅2n=1∑∞4n21=−12π2εXVG2=−0.0084εX
なので、2次までで 0.0929εX である。厳密な 0.0934εX との差は1次で 0.008、2次で 0.0005 に縮む。
(2) NFE ではどの境界のギャップも 2VG=0.203εX である。厳密な値 0.193・0.200 と 5%・1.5% で一致する。高い境界ほど VG と運動エネルギーの比が小さくなるので、摂動がよく当たる。
(3) 下の端の状態は sin(πx/a) で、δ 関数のある x=na でちょうど節を持つ。ψ(na)=0 なので導関数の跳び ∝αψ(na) は 0 で、δ 関数が無いのと同じ方程式を満たす。そのためエネルギーは自由電子の εX のまま変わらない。
ほかの巻では
- 近似の数理 第12章:δ 関数の列を判別式で解き、1次元では周期ポテンシャルがあれば必ずギャップが開くことが読める。記号の対応:向こうの g はこの巻の 2g(ℏ2/2m=1、a=1 の単位)
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