ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部 第3章 §3.3.4 ★★ 単位胞に原子が複数あると、1フォノン散乱にも「構造因子」が付く。測る Brillouin 域を選ぶと、音響と光学の枝を明るさで分けられる
1フォノンの構造因子
単位胞に原子が r 個(位置 dν、質量 mν、散乱長 bν)ある結晶に、命題 3.3.1 を広げる。基準振動の変位をu^lν∝(eνs/mν)eik⋅(Rl+dν) の形に取ると(eνs は質量で重みをつけた力の定数行列の固有ベクトルで、∑ν∣eνs∣2=1)、同じ計算で、フォノンを作る側の1フォノン散乱は
dΩdE′d2σ生成=kk′Nc2ωsℏ∣Fs(κ)∣2(nB+1)δ(ℏω−ℏωs),Fs(κ):=ν∑mνbνe−Wν(κ⋅eνs)eiG⋅dν(3.3.13)
になる(Nc は単位胞の数、κ=k+G)。Fs を1フォノンの構造因子と呼ぶ。原子が1種類なら ∣Fs∣2=b2e−2W(κ⋅es)2/M で式 (3.3.9) に戻る。第1部第3章の構造因子 SG=∑νsνe−iG⋅dν と比べると、各原子の振幅に「その原子がこの振動でどれだけ動くか」の重み (κ⋅eνs)/mν が掛かった形をしている。
Γ 点の近くでは、音響の枝はすべての原子が同じ向きに動き(eν∝mν)、F は Bragg 反射の構造因子 ∑νbνeiG⋅dν に比例する。したがって音響の枝は強い Bragg 反射の近くで明るく、Bragg 反射の弱い逆格子点の近くで暗い。光学の枝は原子が逆向きに動くので、eiG⋅dν の符号と組み合わさって、音響の枝と逆の逆格子点の近くで明るくなる。

図 3.3.3 2種類の原子(m2=2m1)を交互にばね定数 K でつないだ列の分散関係(第3部第1章)。a は単位胞の長さ。光の散乱は左端の帯(実際は Brillouin 域の 10−3 程度)しか見ず、Brillouin 散乱は音響の枝の原点の傾きを、Raman 散乱は光学の枝の Γ 点 3K/m1 を測る。中性子は全域を測る。
LO と TO
イオン結晶では、光学の振動で正負のイオンが逆向きに動くと分極ができ、縦波(LO)では分極が作る電場が復元力を足すので、横波(TO)より周波数が高くなる。赤外吸収と Raman 散乱で測る Γ 点の値はこの2つで、比は静的と高周波の誘電率の比 ωLO2/ωTO2=εr(0)/εr(∞)(Lyddane–Sachs–Teller の関係)で結ばれる。導出は光学応答の章(第4部第6章)で行う。ばねだけの模型には長距離の電場が入っていないので、図 3.3.3 は LO と TO を分けない。
例題 3.3.5 どの Brillouin 域で光学の枝を測るか ★★
オリジナル1次元の列で、単位胞(長さ a)の d1=0 に質量 m1・散乱長 b1 の原子、d2=a/2 に質量 m2・散乱長 b2 の原子がある。Γ 点の近くの1フォノンの構造因子を考える(Debye–Waller 因子は 1 とおく)。
- (1) Γ 点の質量で重みをつけた固有ベクトルが、音響で (m1,m2)/m1+m2、光学で (m2,−m1)/m1+m2 であることを、重心が動かない条件から確かめよ。
- (2) κ≈G=2π/a と κ≈4π/a のそれぞれで、音響と光学の Fs/κ を求めよ。
- (3) b1=b2 のとき、それぞれの Brillouin 域でどちらの枝が見えるか。
解答
(1) 実際の変位は uν=eν/mν。音響は u1=u2=1/m1+m2 で一様な並進。光学は m1u1+m2u2=(m1m2−m1m2)/m1+m2=0 で重心が止まる。2つのベクトルは直交し、大きさは 1 である。
(2) eiGd2 は G=2π/a で −1、G=4π/a で +1。Fs/κ=∑ν(bν/mν)eνeiGdν に入れて、Mt=m1+m2 と書くと
G=a2πG=a4π:Fac=Mtb1−b2,Fop=Mtb1m2/m1+b2m1/m2,:Fac=Mtb1+b2,Fop=Mtb1m2/m1−b2m1/m2
(F の後ろの κ は省いた)。
(3) b1=b2 なら、G=2π/a の近くでは音響の F が 0 で光学だけが見え、G=4π/a の近くでは音響が強く、光学は m2/m1−m1/m2 に比例して弱い。G=2π/a は Bragg 反射で言えば b1−b2 に比例する「弱い反射」の点で、そこでは光学の枝が明るい。測りたい枝に合わせて Brillouin 域を選ぶ理由がこれである。
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