ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第2章 §5.2.6 ★★ Curie 則の傾きで peff を、2量体の磁化率の山の温度で J を、中性子の非弾性散乱で1重項と3重項の差を、弱い自発磁化で DM 相互作用を確かめる。授業の −2J の流儀・結合の数え方・スピンだけの公式と、この章の式を並べる
磁化率で確かめる
5.2.3節の Hund 則は、常磁性の塩の磁化率 χm を温度の逆数に対してプロットした傾き、すなわち Curie 定数で確かめる。式 (5.2.13) から Curie 定数 χmT はイオンの数密度 n と peff2 に比例するので、n を化学式から求めれば peff が読める。表 5.2.1 の2つの列のどちらに近いかが、軌道角運動量が残っているかどうかの判定になる。
交換相互作用 J を直接に測る最も簡単な対象は、2つの磁性イオンが組になった分子や結晶(2量体)である。2量体の Hamiltonian JS^1⋅S^2+gμBB(S^1z+S^2z) の準位は、1重項 −43J と3重項 4J+gμBBm(m=0,±1)で、磁場の1次の磁化から2量体の数密度 nd あたりの磁化率は
χm=kBTμ0nd(gμB)2⋅3+eJ/kBT2(5.2.21)
になる(Bleaney, Bowers(1952)、Proceedings of the Royal Society A 214、451。酢酸銅の2量体の磁化率をこの形で解析した)。高温 kBT≫J では χm→μ0nd(gμB)2/(2kBT) で、スピン 21 が2個ずつ独立にある Curie 則に戻る。低温 kBT≪J では3重項に励起されるイオンが e−J/kBT で減り、磁化率は 0 に向かう。その間に山があり、山の位置 kBTmax=0.624J から J を読むことができる(図 5.2.5)。

図 5.2.5 反強磁性の2量体の磁化率 (5.2.21)(点線)と、高温の Curie 則(実線)。x=kBT/J。山は x=0.624、高さは 0.402 である。
磁化率は熱平均を通して J を見るので、模型の形を仮定した当てはめになる。中性子の非弾性散乱は、中性子のスピンが試料のスピンをひっくり返すときに失うエネルギーを測り、1重項から3重項への励起のエネルギー J を直接に測ることができる。格子の上では、この励起が波数を持って伝わるスピン波になり、その分散を第5部第3章で計算する。DM 相互作用は、反強磁性の物質で結晶の対称性から決まる向きに現れる小さな自発磁化(弱い強磁性)で確かめ、その大きさの目安は電子スピン共鳴で測る g 因子のずれ Δg から得る。電子スピン共鳴はスピンの歳差運動の共鳴で、その運動方程式は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第5章で扱う。
授業で習った形との対応
磁性の授業や教科書の多くは、交換相互作用を
H^=−2JK⟨ij⟩∑S^i⋅S^j(JK>0 で強磁性)(5.2.22)
と書く。この章の J∑⟨ij⟩S^i⋅S^j とは J=−2JK で対応し、符号の向きも係数も違う。2つのスピンの1重項と3重項の差は、この章では ET−ES=J、式 (5.2.22) では ES−ET=2JK である。式 (5.2.9) の直接交換では JK=Kab になり、「交換積分 JK が正なら強磁性」という授業の言い方は、命題 5.2.2 の交換積分を指している。もう1つの違いは和の取り方で、∑i=j(各組を2回数える)と書く教科書では J が半分の値になる。運動交換が 2t2/U と書かれていたら、この数え方の違いを疑う。
Hund 則は授業では「スピンを最大に、次に L を最大に、J は半分を境に ∣L−S∣ か L+S」という手順として習う。この章では第1の規則を交換積分の正値性(命題 5.2.2)から、第3の規則をスピン軌道相互作用の係数 λ の符号(式 (5.2.11))から出した。磁気モーメントについては、不対電子の数 Nu=2S を使った「スピンだけの公式」peff=Nu(Nu+2) が使われる。これは 2S(S+1) と同じ式で、5.2.5節の軌道角運動量の消失を前提にしている。DM 相互作用は授業でも Dij⋅(S^i×S^j) と書かれ、Dij=−Dji である(i と j を入れ替えると外積の符号が変わる)。
例題 5.2.8 2量体の磁化率から J を読み、流儀を直す ★★
オリジナル
- (1) 式 (5.2.21) の山の位置が kBTmax=0.624J、山の高さが 0.402μ0nd(gμB)2/J であることを、x=kBT/J の関数 f(x)=x(3+e1/x)2 の最大として確かめよ。
- (2) 磁化率の山が 181K にある2量体の J を meV で求めよ。式 (5.2.22) の流儀ではいくらと書かれるか。
- (3) Mn2+ が n=1.0×1028m−3 ある常磁性の塩の Curie 定数 χmT を求めよ。
解答
(1) f′(x)=0 を数値で解くと x=0.6236 で、f(0.6236)=0.402 である。高温では f→2x1、低温では f≈x2e−1/x で、どちらの側も 0 へ向かうので最大が1つある。
(2) J=kBTmax/0.624=(1.381×10−23×181)/0.624J=4.00×10−21J=25.0meV。式 (5.2.22) の流儀では JK=−J/2=−12.5meV(負なので反強磁性)と書かれる。
(3) Mn2+ は peff=5.92(表 5.2.1)。χmT=μ0npeff2μB2/(3kB)=1.257×10−6×1028×35.0×(9.274×10−24)2/(3×1.381×10−23)=0.913K。室温 300K では χm=3.0×10−3 で、常磁性の磁化率は1よりずっと小さい。(検算 scripts/verify_ch5-02.py)
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com