ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第4章 §5.4.2 ★★★ 対の期待値 Δ を平均場として置くと、H は k ごとの 2×2 行列になる。対角化すると準粒子のエネルギー Ek=ξk2+Δ2 が出て、Fermi 面にギャップ Δ が開く
対の平均場
多数の対が重なり合っている状態では、対の消滅演算子 c−k↓ck↑ の期待値
bk≡⟨c−k↓ck↑⟩
が 0 でない値をとると考える。粒子数を2個減らす演算子の期待値が 0 でないのは、状態が粒子数の固有状態でないことを意味する。この点は例題 5.4.2で調べ、大きな系では粒子数のゆらぎの相対的な大きさが 0 に近づくことを見る。第5部第3章の Weiss 平均場で、スピン Sj をその平均 ⟨Sj⟩ とゆらぎに分けたのと同じく、対の演算子をc−k↓ck↑=bk+(c−k↓ck↑−bk) と分け、ゆらぎの2次を捨てる。そのうえで
Δ≡Vgk∑′bk(5.4.6)
と置くと、H は
HMF=kσ∑ξkckσ†ckσ−k∑(Δkck↑†c−k↓†+Δk∗c−k↓ck↑)+gV∣Δ∣2(5.4.7)
になる。ここで Δk は殻の中(∣ξk∣<ℏωD)で Δ、外で 0 とした。最後の定数は、ゆらぎの2次を捨てたときに残る −(g/V)∣∑′b∣2 の符号を反転した分の足し引きで、自由エネルギーを正しく数えるために要る(5.4.4節)。HMF は粒子数を保存しないが、生成消滅演算子の2次式なので、正確に対角化することができる。
2×2 行列と Bogoliubov 変換
k↑ の電子と −k↓ の正孔を組にした2成分の演算子
ψk=(ck↑c−k↓†)
を使うと、c−k↓c−k↓†=1−c−k↓†c−k↓ から
HMF=k∑ψk†(ξk−Δk∗−Δk−ξk)ψk+k∑ξk+gV∣Δ∣2(5.4.8)
と書くことができる。k ごとに独立な 2×2 行列の問題になった。行列の固有値は ±Ek で、
Ek=ξk2+∣Δk∣2(5.4.9)
である。以後、位相を選んで Δ を正の実数とする(位相の意味は5.4.4節で扱う)。固有値 +Ek の固有ベクトルを (uk,−vk) とすると
uk2=21(1+Ekξk),vk2=21(1−Ekξk),ukvk=2EkΔ(5.4.10)
(uk,vk≥0)である。固有ベクトルで新しい演算子
γk↑=ukck↑−vkc−k↓†,γ−k↓†=vkck↑+ukc−k↓†(5.4.11)
を作ると(Bogoliubov 変換。N. N. Bogoliubov (1958), Nuovo Cimento 7, 794)、u2+v2=1 から γ も反交換関係 {γk↑,γk↑†}+=1 を満たし、
HMF=k∑Ek(γk↑†γk↑+γ−k↓†γ−k↓)+k∑(ξk−Ek)+gVΔ2(5.4.12)
になる。γ† が作るものを準粒子(Bogoliubov 準粒子)と呼ぶ。準粒子は、k↑ の電子と −k↓ の正孔を uk:vk の割合で混ぜたものである。
ギャップと BCS の基底状態
準粒子1個を作るには、少なくとも Ek≥Δ のエネルギーが要る。正常な金属では Fermi 面の直上で ∣ξk∣→0 のいくらでも小さな励起があったが、対の平均場があると Fermi 面の上に幅 Δ のギャップが開く(図 5.4.1 の左)。
HMF の基底状態は、すべての γ に消される状態である。
∣BCS⟩=k∏(uk+vkck↑†c−k↓†)∣0⟩(5.4.13)
が γk↑∣BCS⟩=0 を満たすことは、k の因子だけを取り出して確かめることができる。γk↑(u+vck↑†c−k↓†)∣0⟩=uvc−k↓†∣0⟩−vuc−k↓†∣0⟩=0 である。この状態では、対 (k↑,−k↓) が確率 vk2 で占められ、確率 uk2 で空いている。電子の占有数は
⟨ck↑†ck↑⟩=vk2
で、Fermi 面のまわりの幅 Δ の範囲で 1 から 0 へなめらかに下がる(図 5.4.1 の右)。正常な金属の絶対零度の階段は、対を作るために Fermi 面のまわりの席を少しずつ空けた形に変わる。

図 5.4.1 左:HMF の 2×2 行列の固有値 ±Ek(実線)と、Δ=0 の正常な金属の ±ξk(点線)。ξk=0 で上下の枝の間に幅 2Δ が開く。右:BCS の基底状態での電子の占有数 vk2(実線)と、正常な金属の絶対零度の階段(点線)。
この 2×2 行列の形は、第2部第8章の Peierls 転移で現れた行列と同じ構造をしている。Peierls 転移では、格子の2量体化が波数 k と k±π/a の電子を混ぜ、Fermi 点にギャップを開いた。BCS では、対の平均場が k↑ の電子と −k↓ の正孔を混ぜる。−k↓ の正孔のエネルギーは −ξ−k=−ξk で、k↑ の電子のエネルギー ξk と Fermi 面の上で必ず縮退する。Peierls 転移では Fermi 面のうち特定の向き(1次元の2点)しか縮退しなかったが、BCS では Fermi 面のすべての点が同時に縮退する。そのため、BCS のギャップは次元や Fermi 面の形によらず開く。
有限温度
有限温度では、準粒子は互いに独立な Fermi 粒子なので、占有数は Fermi 分布 f(Ek)=1/(eβEk+1) に従う(β=1/(kBT))。(5.4.11) を逆に解いて c を γ で書き、期待値をとると
bk=⟨c−k↓ck↑⟩=ukvk(1−2f(Ek))=2EkΔtanh2βEk(5.4.14)
を得る。熱で準粒子が励起されるほど対の期待値は減る。これを (5.4.6) に戻したものが次節のギャップ方程式である。
例題 5.4.2 BCS 状態の粒子数のゆらぎ ★★
オリジナル
- (1) (5.4.13) の状態で、全粒子数 N^=∑kσckσ†ckσ の分散が ∑k4uk2vk2 になることを示せ(全粒子数の演算子だけは区別のため帽子を付けて書く)。
- (2) 殻の幅が Δ より十分大きい(ℏωD≫Δ)とき、単位体積あたりの分散が πN0Δ になることを示せ。
- (3) アルミニウムの値 N0=11.6eV−1nm−3、Δ=0.179meV、電子の密度 n=1.81×1029m−3(例題 5.4.3 で求める値)を使い、一辺 1μm の立方体の試料での平均の粒子数・粒子数の標準偏差・その比を求めよ。
解答
(1) 状態は k ごとの因子の積なので、k ごとの対の数 n^k=ck↑†ck↑+c−k↓†c−k↓ は互いに独立な確率変数である。各因子では、確率 vk2 で n^k=2、確率 uk2 で 0 になる。分散は 4v2−(2v2)2=4v2(1−v2)=4u2v2 で、独立な和なので全体の分散は ∑k4uk2vk2 になる(N^=∑kn^k の和は対 (k,−k) を1回ずつ数える)。
(2) (5.4.10) から 4u2v2=Δ2/E2 で、和を積分に直すと
V1k∑ξk2+Δ2Δ2=N0∫−ℏωDℏωDξ2+Δ2Δ2dξ≈N0Δ∫−∞∞x2+1dx=πN0Δ
である。ゆらぐのは Fermi 面のまわり幅 Δ の殻の中の対だけである。
(3) V=10−18m3 で、平均の粒子数は nV=1.81×1011 個。N0=11.6×(1.602×10−19)−1×1027=7.26×1046J−1m−3、Δ=2.86×10−23J なので、分散は πN0ΔV=6.5×106、標準偏差は 2.55×103 個、比は 1.4×10−8 である。標準偏差は体積の 1/2 乗、平均は体積の1乗で増えるので、比は V−1/2 で 0 に近づく。粒子数の決まらない状態を使っても、大きな系の熱力学の量には影響が残らない。化学ポテンシャル μ を固定した大きな正準集団で考えているのと同じことである。
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