ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第4章 §5.4.3 ★★★ ギャップ方程式 1=λ∫0ℏωDtanh(βE/2)dξ/E から、Δ0≈2ℏωDe−1/λ・kBTc=1.13ℏωDe−1/λ・物質によらない比 2Δ0/(kBTc)=3.53 が出る
ギャップ方程式
(5.4.14) を (5.4.6) に入れると、Δ についての自己無撞着の式
Δ=Vgk∑′2EkΔtanh2βEk
を得る。Δ=0 は常に解だが、それ以外の解は両辺を Δ で割った式を満たす。和を積分に直し、被積分関数が ξ について偶関数であることを使うと
1=λ∫0ℏωDξ2+Δ2dξtanh2kBTξ2+Δ2(5.4.15)
になる。これがギャップ方程式である。右辺は Δ についても T についても減少関数なので、各温度で解は高々1つで、温度を上げると Δ は小さくなる。
絶対零度のギャップ
T=0 では tanh→1 で、積分は arsinh(ℏωD/Δ0) になる。1=λarsinh(ℏωD/Δ0) を解くと
Δ0=sinh(1/λ)ℏωD≈2ℏωDe−1/λ(λ≪1)(5.4.16)
である。Cooper の問題の (5.4.5) と比べると、指数が 2/λ から 1/λ に変わり、ギャップは Cooper 対1個の束縛エネルギーよりずっと大きい。Cooper の問題では Fermi 面の外側の電子だけが対を作ったが、BCS では Fermi 面の内側の電子も対を作り、状態密度を2倍使えることがこの違いの理由である。ここでもギャップは λ のべき級数に現れない。
転移温度
温度を上げると Δ は減り、ある温度 Tc で 0 になる。Tc では (5.4.15) で Δ→0 として
1=λ∫0ℏωDξdξtanh2kBTcξ
が成り立つ。x=ξ/(2kBTc) と置き、上端 X=ℏωD/(2kBTc) が大きいとすると、積分は部分積分で
∫0Xxtanhxdx=lnXtanhX−∫0Xcosh2xlnxdx≈lnX+lnπ4eγE
となる(∫0∞lnx/cosh2xdx=−ln(4eγE/π)、γE=0.5772 は Euler の定数)。したがって
kBTc=π2eγEℏωDe−1/λ=1.134ℏωDe−1/λ(5.4.17)
である。(5.4.16) と比べると、ℏωD と λ が消え、
kBTcΔ0=eγEπ=1.764,kBTc2Δ0=3.528(5.4.18)
という物質によらない数が残る。λ≪1 の極限での比なので、λ が大きい物質ではずれる(5.4.5節)。(5.4.17) は、Tc が格子振動のエネルギー ℏωD に比例することを含む。同じ元素の同位体では ωD∝M−1/2(M はイオンの質量)なので、Tc∝M−1/2 になる。これが5.4.6節で述べる同位体効果である。
ギャップの温度変化
0<T<Tc では (5.4.15) を数値で解く。絶対零度の式を引いて ℏωD を消すと、λ≪1 で
lnΔ(T)Δ0=2∫0∞Ef(E)dξ,E=ξ2+Δ(T)2(5.4.19)
となり、Δ(T)/Δ0 は T/Tc だけの関数になる(図 5.4.2)。Tc の近くでは
Δ(T)≈7ζ(3)8π2kBTc1−TcT=3.06kBTc1−TcT(5.4.20)
で、Δ は (Tc−T)1/2 で立ち上がる(ζ(3)=1.202。導出は5.4.4節)。低温では、熱で励起される準粒子の数が e−Δ0/(kBT) に比例して少ないので、Δ は T≲0.3Tc でほとんど Δ0 から動かない。

図 5.4.2 ギャップ Δ(T)/Δ0(濃い青の実線。(5.4.19) を数値で解いた値)と、5.4.4節で求める超流体の密度の割合 ns(T)/n(明るい青の実線)。点線は Tc の近くの式 (5.4.20) を Δ0 で割った 1.741−T/Tc。数値は verify_ch5-04.py。
凝縮エネルギーと臨界磁場
絶対零度の超伝導状態は、正常な状態よりどれだけエネルギーが低いか。(5.4.12) の基底状態のエネルギーから Δ=0 の値を引き、単位体積あたりにすると
VEs−En=N0∫−ℏωDℏωD(∣ξ∣−ξ2+Δ02)dξ+gΔ02
である。ℏωD≫Δ0 で積分は −N0Δ02[21+arsinh(ℏωD/Δ0)] になり、ギャップ方程式 arsinh(ℏωD/Δ0)=1/λ から第2項 Δ02/g=N0Δ02/λ と打ち消し合って、
VEs−En=−21N0Δ02(5.4.21)
が残る。Fermi 面のまわり幅 Δ0 の殻にいる N0Δ0 程度の電子が、1個あたり Δ0 程度ずつエネルギーを下げた、と読むことができる。磁場を押し出すには B2/(2μ0) の仕事が要るので、凝縮エネルギーがこれに等しくなる磁場で超伝導は壊れる。これが熱力学的な臨界磁場で、
2μ0Bc(0)2=21N0Δ02,Bc(0)=Δ0μ0N0(5.4.22)
である(Bc の定義は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章と同じ)。
例題 5.4.3 アルミニウムの結合の強さ・ギャップ・臨界磁場 ★★★
オリジナルアルミニウムは面心立方格子(単位胞に原子 4 個)で、格子定数を a=0.4050nm、1原子あたりの伝導電子を 3 個とし、自由電子気体として扱う。転移温度 Tc=1.175K、Debye 温度 ΘD=428K(ℏωD=kBΘD)とする(どれも与えられた値として使う)。ℏ=1.0546×10−34Js、m=9.109×10−31kg、e=1.602×10−19C、kB=1.381×10−23JK−1、μ0=4π×10−7Hm−1、h=6.626×10−34Js とする。
- (1) (5.4.17) から λ を求めよ。
- (2) Δ0 と 2Δ0 を meV で求め、2Δ0 に等しいエネルギーの光子の周波数を求めよ。
- (3) n・εF・N0 を求め、(5.4.21) の凝縮エネルギーと Bc(0) を求めよ。
- (4) 凝縮エネルギーを伝導電子1個あたりに割ると 83(Δ0/εF)Δ0 になることを示し、その値を求めよ。
解答
(1) 1.134ΘD/Tc=1.134×428/1.175=413.0 なので、1/λ=ln413.0=6.02、λ=0.166 である。小さな λ の値で、弱い結合の側にある。
(2) Δ0=1.764kBTc=2.86×10−23J=0.179meV、2Δ0=0.357meV。周波数は 2Δ0/h=86.4GHz で、ミリ波の領域にある。これより低い周波数の電磁波は、対を壊して準粒子を作ることができない。
(3) n=12/a3=1.81×1029m−3、kF=(3π2n)1/3=1.75×1010m−1、εF=ℏ2kF2/(2m)=11.65eV。N0=D(εF)/2=3n/(4εF)=7.26×1046J−1m−3=11.6eV−1nm−3 である。凝縮エネルギーは 21N0Δ02=29.7Jm−3、Bc(0)=Δ0μ0N0=8.64mT である。地磁気の数百倍の磁場で超伝導は壊れる。
(4) N0=3n/(4εF) から 21N0Δ02/n=83(Δ0/εF)Δ0 である。値は 83×(0.179×10−3/11.65)×0.179meV=1.03×10−9eV で、kBTc=0.101meV の 10−5 倍しかない。エネルギーを下げるのは Fermi 面のまわりの Δ0/εF∼10−5 の割合の電子だけで、凝縮エネルギーは Fermi エネルギーに比べてきわめて小さい。
ほかの巻では
- 近似の数理 第13章:e−1/λ が摂動のどの次数にも現れない平坦さの証明と、BCS から GL への極限の定理が読める
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com