ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第4章 §5.4.4 ★★★ 平均場の自由エネルギーを Tc の近くで Δ のべきに展開すると Ginzburg–Landau 理論の係数が全部決まり、比熱の跳び 12/(7ζ(3))=1.43 が出る。電流の応答は準粒子の熱励起で減るだけなので、Meissner 効果が残る
解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章では、複素の秩序変数 ψ とゲージ場の汎関数
F[ψ,A]=∫[2m∗1∣(−iℏ∇−qA)ψ∣2+a∣ψ∣2+2b∣ψ∣4+2μ0B2]d3r
を選び、変分から London 方程式・Meissner 効果・磁束の量子 h/(2e) を出した。そこでは q=−2e、a=a0(T−Tc)、b を現象論の係数として置いた。この節では、これらの係数を BCS の H から計算し、ψ が Δ に比例することを示す。
平均場の自由エネルギー
(5.4.12) は独立な準粒子の和なので、大きな正準ポテンシャルは直接計算することができる。k ごとの2つの準粒子の寄与 −2kBTln(1+e−βEk) と定数 ξk−Ek をまとめ、正常な状態(Δ=0)の値を引いて単位体積あたりにすると
f(Δ)≡VΩs−Ωn=gΔ2−2kBTN0∫−ℏωDℏωD[ln(2cosh2βE)−ln(2cosh2βξ)]dξ(5.4.23)
を得る(Ω はグランドポテンシャル)。Δ2 で微分すると
∂(Δ2)∂f=g1−N0∫0ℏωDEtanh(βE/2)dξ
で、これが 0 になる条件はギャップ方程式 (5.4.15) そのものである。ギャップ方程式は、平均場の自由エネルギーを Δ について停留させる条件だった。この見方は、第5部第3章の Weiss 平均場で、自己無撞着の式が平均場の自由エネルギーの最小の条件になっていたのと同じである。
Tc の近くの展開
Tc の近くでは Δ が小さいので、∂f/∂(Δ2) を Δ2 のべきに展開する。tanh の部分分数展開
Etanh(βE/2)=4kBTn=0∑∞E2+ωn21,ωn=(2n+1)πkBT
を使うと、Δ2 の1次の係数は
−4kBTn=0∑∞∫0∞(ξ2+ωn2)2dξ=−4kBTn=0∑∞4ωn3π=−π2(kBT)21n=0∑∞(2n+1)31=−8π2(kBT)27ζ(3)
になる(∑n≥0(2n+1)−3=87ζ(3))。Δ=0 の項は前節で求めた ln(2eγEℏωD/(πkBT)) で、1/g=N0ln(2eγEℏωD/(πkBTc)) と合わせるとℏωD が消え、
∂(Δ2)∂f=N0[lnTcT+8π2(kBT)27ζ(3)Δ2]+O(Δ4)
となる。Δ2 で積分して
f(Δ)=N0lnTcTΔ2+16π2(kBTc)27ζ(3)N0Δ4+⋯,lnTcT≈−(1−TcT)(5.4.24)
を得る(4次の係数では T を Tc に置き換えた)。これは Landau の自由エネルギーの形で、2次の係数が Tc で符号を変える。最小はΔ2=7ζ(3)8π2(kBTc)2(1−T/Tc) で、(5.4.20) が出る。
勾配の項
Δ が場所によってゆっくり変わるときは、全運動量 ℏq を持つ対 (k+q/2,−k+q/2) の平均場を考えればよい。2個の電子のエネルギーは ξk±21ℏvk⋅q にずれ(vk は Fermi 面の上の群速度)、上の q=0 の計算で ωn が ωn+2iℏvk⋅q に置き換わる。ξ で積分した π/ωn を q の2次まで展開し、Fermi 面の上で向きを平均すると(⟨(vk⋅q)2⟩=vF2q2/3)、2次の係数に q の2次の項 cq2 が加わる。q の2次を空間微分に戻すと
f∋c∣∇Δ∣2,c=48π27ζ(3)(kBTc)2N0ℏ2vF2(5.4.25)
である。c は Δ4 の係数の計算に現れた 7ζ(3)/(8π2(kBTc)2) に N0ℏ2vF2/6 を掛けたもので、61 は (21)2 と向きの平均の 31 と展開の2次の係数の比 2 の積である(不純物の無い3次元の金属。L. P. Gor'kov (1959), Sov. Phys. JETP 9, 1364 が Green 関数で初めて導いた)。
Ginzburg–Landau の係数
(5.4.24) と (5.4.25) を合わせると、BCS の自由エネルギーは Tc の近くで
f=c∣∇Δ∣2−N0(1−TcT)∣Δ∣2+16π2(kBTc)27ζ(3)N0∣Δ∣4
になる(Δ を複素数に戻した)。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章の汎関数と比べると、ψ∝Δ で、係数は次のように決まる。
1つ目に、秩序変数の電荷は q=−2e である。Δ は c−k↓ck↑ の期待値なので、ゲージ変換 c→e−ieΛ/ℏc(電子の電荷 −e)でΔ→e−2ieΛ/ℏΔ と変わる。∇Δ はゲージ不変な形 (∇+2ieA/ℏ)Δ でしか現れない。磁束の量子が h/(2e) になるのはこのためである。2つ目に、m∗ と ψ の規格化は選び方の自由があり、物理の量には c だけが入る。ψ=2m∗cΔ/ℏ と置くと勾配の項が ∣ℏ∇ψ∣2/(2m∗) になり、a・b も決まる。3つ目に、どの係数も N0・vF・Tc だけで書け、λ や ℏωD は Tc を通してしか入らない。
これで長さの尺度が2つ決まる。秩序変数の変化の長さ(コヒーレンス長)は勾配の項と2次の項の比から
ξ(T)2=N0(1−T/Tc)c=48π27ζ(3)(kBTc)2(1−T/Tc)ℏ2vF2,ξ(T)=1−T/Tc0.739ξ0(5.4.26)
で、ここで ξ0≡ℏvF/(πΔ0) は BCS のコヒーレンス長である(Δ0=πe−γEkBTc を使って書き直した)。ξ0 は例題 5.4.1 の対の大きさ ℏvF/∣E∣ に当たる長さである。
磁場の侵入長は、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章の λL2=m∗/(μ0q2∣ψ0∣2) に q=−2e、∣ψ0∣2=2m∗c∣Δ∣2/ℏ2 を入れると m∗ が消え、
λL(T)21=ℏ28μ0e2cΔ(T)2=34μ0e2N0vF2(1−TcT)
になる。自由電子では N0vF2=3n/(2m) なので
λL(T)=2(1−T/Tc)λL(0),λL(0)≡μ0ne2m(5.4.27)
である。λL(0) は、すべての伝導電子が超流体として動くときの London の侵入長である。この見方が正しいことを、次に Tc から離れた温度でも確かめる。
Meissner 効果を微視的に見る
一様な静磁場の中に置いた超伝導体で、ゆっくり変わるベクトルポテンシャル A(∇⋅A=0)に対する電流を求める。電子の速度は (ℏk+eA)/m なので(電荷 −e。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第6章の最小結合)、電流密度は2つの部分に分かれる。1つ目は A が速度を直接ずらす分で、すべての電子が寄与して −(ne2/m)A になる(反磁性の電流)。2つ目は、A が準粒子のエネルギーを Ek→Ek+evk⋅A のように1次でずらし(vk=ℏk/m。電子の成分も正孔の成分も同じだけずれる)、準粒子の占有が変わることによる分である(常磁性の電流)。後者は f(E+δ)−f(E)≈δ∂f/∂E で、Fermi 面の上の向きを平均すると
jpara=mne2Y(T)A,Y(T)≡∫−∞∞(−∂E∂f)dξ,E=ξ2+Δ(T)2
になる(N0vF2=3n/(2m) を使った)。Y(T) を Yosida 関数と呼ぶ(K. Yosida (1958), Phys. Rev. 110, 769)。合わせると
j=−mns(T)e2A,ns(T)=n(1−Y(T))(5.4.28)
で、これは London 方程式である。ns が超流体の密度で、侵入長は λL(T)=m/(μ0ns(T)e2) になる。
正常な状態(Δ=0)では −∂f/∂ξ の積分は 1 なので Y=1、ns=0 で、反磁性と常磁性の電流は打ち消し合って Meissner 効果は無い。超伝導状態では準粒子の励起にギャップ Δ が要るので常磁性の電流が減り、打ち消しが不完全になって反磁性の電流が残る。絶対零度では準粒子が1個も無いので Y=0、ns=n で、すべての電子が超流体になる。Tc の近くでは数値で 1−Y≈2(1−T/Tc) となり(図 5.4.2)、(5.4.27) と一致する。低温では Y≈2πΔ0/(kBT)e−Δ0/(kBT) で、侵入長の温度変化は指数関数的に小さい。
比熱の跳び
(5.4.24) の Landau 型の自由エネルギーでは、最小の値は fmin=−7ζ(3)4π2N0(kBTc)2(1−T/Tc)2 である。比熱の差は −T∂2fmin/∂T2 で、Tc で
ΔC=7ζ(3)8π2N0kB2Tc
だけ跳ぶ。正常な状態の電子比熱は Cn=γT、γ=3π2D(εF)kB2=32π2N0kB2(第4部第1章)なので、
γTcΔC=7ζ(3)12=1.43(5.4.29)
になる。これも物質によらない数である。全温度の比熱は、準粒子のエントロピー S=−2kB∑k[flnf+(1−f)ln(1−f)] を数値で微分して求める(図 5.4.3)。低温では準粒子を作るのに Δ0 が要るので、比熱は e−Δ0/(kBT) に比例して小さくなる。

図 5.4.3 BCS の電子比熱(実線)と正常な状態の γT(点線)。Tc で ΔC/(γTc)=12/(7ζ(3))=1.43 だけ跳び、低温では指数関数的に小さくなる。数値は準粒子のエントロピーを数値で微分した値(verify_ch5-04.py)。
例題 5.4.4 アルミニウムの長さの尺度と第1種・第2種の判定 ★★
オリジナル例題 5.4.3 のアルミニウムの値(n=1.81×1029m−3、vF=ℏkF/m、Δ0=0.179meV)を使う。
- (1) λL(0) と ξ0 を求めよ。
- (2) (5.4.26) と (5.4.27) から、Tc の近くの GL パラメータ κ=λL(T)/ξ(T) が温度によらない値 0.957λL(0)/ξ0 になることを示し、その値を求めよ。アルミニウムは第1種と第2種のどちらか(境目は κ=1/2。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章)。
- (3) (5.4.24) の Landau 型の自由エネルギーから (5.4.29) を導き、γ の値を 1mol あたりで求めよ(NA=6.022×1023mol−1)。
解答
(1) λL(0)=m/(μ0ne2)=12.5nm。vF=ℏkF/m=2.02×106ms−1、Δ0=2.86×10−23J からξ0=ℏvF/(πΔ0)=2.37μm である。
(2) κ=0.739ξ0/1−tλL(0)/2(1−t)=2×0.739ξ0λL(0)=0.957ξ0λL(0)(t=T/Tc)で、(1−t) が打ち消し合う。値は 0.957×12.5nm/2.37μm=0.0050 で、1/2 よりはるかに小さいので第1種である。ただし ξ0 が λL(0) の 190 倍もあるので、磁場が変わる長さの中で電流が局所的に決まるという London 方程式の前提が破れ、実際の侵入長は λL より長くなる(5.4.5節)。κ≪1/2 という結論はそれでも変わらない。
(3) f=−N0(1−t)Δ2+BΔ4(B=7ζ(3)N0/(16π2(kBTc)2))の最小は fmin=−N02(1−t)2/(4B)=−7ζ(3)4π2N0(kBTc)2(1−t)2。−T∂2fmin/∂T2 を T=Tc で求めると 7ζ(3)8π2N0kB2Tc で、γTc=32π2N0kB2Tc で割ると 7ζ(3)8⋅23=7ζ(3)12=1.426 である。γ=32π2N0kB2 は 1m3 あたり 91.1JK−2m−3 で、1 mol の体積 NAa3/4=1.00×10−5m3 を掛けると 0.911mJmol−1K−2 である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com