ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第4章 §5.4.6 ★★ 同位体効果・比熱の跳びと指数関数の減り方・トンネル分光で見る準粒子の状態密度が BCS を確かめる量。授業の N(0)V はこの章の λ、二流体模型の 1−t4 は Yosida 関数の近似
何の実験の量で確かめるか
同位体効果。(5.4.17) の Tc∝ωD∝M−1/2 は、超伝導が格子の振動に由来することを示す。水銀の同位体で Tc が質量とともに下がることは、BCS の理論より前に報告された(E. Maxwell (1950), Phys. Rev. 78, 477;C. A. Reynolds, B. Serin, W. H. Wright, L. B. Nesbitt (1950), Phys. Rev. 78, 487)。例題 5.4.5 で見たように、Coulomb の反発は指数 α を 21 より小さくする。
比熱。Tc での比熱の跳び (5.4.29) と、低温での指数関数の減り方 e−Δ0/(kBT) は、どちらも比熱の測定で直接読める。後者の指数からギャップの大きさを測り、Tc と比べて (5.4.18) を確かめることができる。
トンネル分光。正常な金属と超伝導体を薄い絶縁膜で隔てた接合(N–I–S 接合)に電圧 Vb をかけると、電子は絶縁膜を通り抜けて超伝導体の準粒子の状態に入る。第4部第7章の Bardeen のトンネル電流の式で、正常な金属の状態密度を一定とすると、絶対零度の微分伝導度は超伝導体の準粒子の状態密度に比例し、
GnG(Vb)=N0Ns(eVb),N0Ns(E)=⎩⎨⎧E2−Δ2∣E∣0(∣E∣>Δ)(∣E∣<Δ)(5.4.31)
になる(Gn は正常な状態の伝導度)。状態密度の形は、N0dξ=Ns(E)dE と E=ξ2+Δ2 から出る。ギャップの中の状態は、ギャップの縁のすぐ上に積み上がる(図 5.4.4)。Giaever はこの方法で超伝導体のギャップを直接測った(I. Giaever (1960), Phys. Rev. Lett. 5, 147)。有限温度では、正常な金属の側の Fermi 分布の幅 kBT で縁がなまる。

図 5.4.4 準粒子の状態密度 (5.4.31)(実線)と正常な金属の N0(点線)。ギャップの中の状態はギャップの縁に移り、縁で 1/E−Δ の形で発散する。絶対零度の N–I–S 接合の微分伝導度は、この曲線そのものになる。
磁束の量子とマイクロ波の吸収。超伝導の輪を通る磁束が h/(2e) の整数倍になること(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第6章)は、秩序変数の電荷が −2e であること、つまり対が凝縮していることの直接の証拠である。また、2Δ0/h より高い周波数の電磁波だけが対を壊して吸収される(例題 5.4.3 では 86GHz)。
授業で習った形との対応
BCS の公式。固体物理の授業では、BCS の結果を
kBTc=1.13ℏωDe−1/N(0)V,Δ(0)=2ℏωDe−1/N(0)V,2Δ(0)=3.52kBTc
と書くことが多い。N(0) は1スピンあたりの Fermi 準位の状態密度、V は引力の行列要素で、N(0)V はこの章の λ=gN0 (5.4.3) と同じものである。状態密度を両スピンで数える教科書では指数が e−2/(D(εF)V) と書かれるので、比べるときは数え方を先に確かめる。
London 方程式と二流体模型。電磁気の授業では、超伝導体を「抵抗の無い電子(密度 ns)と正常な電子(密度 n−ns)の混合」とみなし、London 方程式 js=−(nse2/m)A と、経験式 ns/n=1−(T/Tc)4(Gorter–Casimir の二流体模型)を習う。この章では、前者が (5.4.28) として出て、ns が Yosida 関数で n(1−Y(T)) と決まる。対の密度 ns/2・電荷 2e・質量 2m と数えても、nse2/m=(ns/2)(2e)2/(2m) なので侵入長は変わらない。
熱力学の式。熱力学の授業では、臨界磁場 Bc(T) を測って凝縮エネルギー Bc2/(2μ0) と、Rutgers の式 ΔC=(Tc/μ0)(dBc/dT)2 を習う。(5.4.22) と (5.4.24) は、これらを微視的な量 N0・Δ0・Tc で書いたものである(総合問題 (3))。
例題 5.4.6 トンネル分光の伝導度と二流体模型の比較 ★★
オリジナル
- (1) 絶対零度の N–I–S 接合で、eVb=1.05Δ と 2Δ での G/Gn を求めよ。
- (2) ∫0X(Ns(E)−N0)dE が X→∞ で 0 に近づくことを示し、その意味を述べよ。
- (3) T=0.5Tc で、BCS の ns/n=1−Y は数値で 0.834 である。二流体模型の 1−(T/Tc)4 と比べ、侵入長の比 λL(T)/λL(0) をそれぞれで求めよ。
解答
(1) 1.05/1.052−1=1.05/0.320=3.28、2/3=1.155 である。ギャップの縁のすぐ上で伝導度は正常な値の3倍を超え、2Δ では正常な値に近づく。
(2) ∫ΔXE2−Δ2EdE−X=X2−Δ2−X=−X2−Δ2+XΔ2→0。状態は消えたのではなくギャップの縁へ移っただけで、全体の状態の数は保たれる。ξ と E が1対1に対応し、N0dξ=NsdE だからである。
(3) 二流体模型では 1−0.54=0.9375 で、BCS の 0.834 より大きい。侵入長の比は 1/ns/n で、二流体模型で 1.033、BCS で 1.095 である。BCS では T=0.5Tc でも準粒子の熱励起の分だけ超流体が 17% 減っており、二流体模型はこの減り方を小さく見積もる。一方、Tc の近くでは BCS の 2(1−t) に対して二流体模型は 4(1−t) で、傾きが2倍違う。二流体模型は全体の形を覚えるための経験式である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com