光学と量子エレクトロニクス 第3章 §3.2 ★★★ 近軸の流れで物体面へ引き戻した変数で見ると、4次の項の効果は1つの関数の微分で書け、像の上のずれは A∂W/∂P になる
物体面へ引き戻した変数
H=H2+H4 とし(定数 H0 は落とす)、H2 だけで決まる流れ(近軸の流れ)を z0 から z までの 4×4 の線形写像 M(z) で書く。回転対称な系では x と y が混ざらないので、M(z) は各成分に同じ ABCD 行列を当てたものである:
x=A(z)X+B(z)P,p=C(z)X+D(z)P,AD−BC=1.(3.6)
ここで (X,P) は、ある時刻 z の光線 (x,p) を近軸の流れで物体面 z0 まで引き戻した値である。H4 が無ければ (X,P) は z によらない定数で、物体面での光線の値そのものになる。H4 があると (X,P) はゆっくり変わる。その変わり方が収差である。
量子力学で H^=H^0+V^ の H^0 による時間発展を状態から取り除いて相互作用描像に移るのと同じ操作を、古典の光線にも当てる。
命題 3.1(相互作用描像の Hamiltonian ★★★)
(X,P) は正準変数で、その運動は Hamiltonian
K(X,P;z)=H4(AX+BP, CX+DP; z)(3.7)
の Hamilton 方程式 dX/dz=∂K/∂P, dP/dz=−∂K/∂X に従う。
証明
(x,p)↦(X,P) は近軸の流れの逆で、行列式 1 の線形写像を各成分に当てたものだから正準変換である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第12章)。運動方程式を直接確かめる。成分ごとに同じなので1成分で書く。逆写像は X=Dx−Bp, P=−Cx+Ap で、z で微分すると
X′=D′x−B′p+Dx′−Bp′.
x′=∂H2/∂p+∂H4/∂p, p′=−∂H2/∂x−∂H4/∂x のうち H2 の部分は、H4=0 なら X が一定であることから D′x−B′p とちょうど打ち消し合う。残るのは X′=D∂H4/∂p+B∂H4/∂x で、合成関数の微分で ∂K/∂P=B∂H4/∂x+D∂H4/∂p なので X′=∂K/∂P。同様に P′=−C∂H4/∂p−A∂H4/∂x=−∂K/∂X である。
1次の摂動と収差関数
K は X, P の4次なので、(X,P) の変化は (X,P) の3次で小さい。そこで Hamilton 方程式の右辺を物体面の値 (X0,P0) で評価し、z0 から像面 zi まで積分する。これが1次の摂動で、無視したのは5次以上の項である:
ΔX=∫z0zi∂P∂Kdz=∂P0∂W,ΔP=−∫z0zi∂X∂Kdz=−∂X0∂W,(3.8)
W(X0,P0)=∫z0ziH4(xpar(z),ppar(z);z)dz.(3.9)
xpar(z)=A(z)X0+B(z)P0 は物体面の値から出発した近軸の光線である。W を収差関数と呼ぶ(この章での呼び名。近軸の光線に沿って4次の Hamiltonian を積分したもの)。W は4次の項を積分したもので、Hamilton の特性関数(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第13章)の4次の部分に当たる。記法の正本で W は仕事や特性関数 W(q) に使われるので、この章では収差関数を必ず引数つきで W(X0,P0) と書く。
定理 3.2(像の上の3次のずれ ★★★)
物体面 z0 と像面 zi が近軸で結像の関係にある(B(zi)=0)とき、物体面の点 X0 を向き P0 で出た光線が像面で近軸の像 AX0 からずれる量は、3次までで
Δxi=A∂P0∂W(X0,P0)(3.10)
である。A=A(zi) は近軸の横倍率である。
証明
像面で x=AX+BP で、B=0 なので xi=A(X0+ΔX)。式 (3.8) を入れればよい。
定理 3.2 の要点は、像の上のずれ(2成分のベクトル)が、1つのスカラー関数 W の P0 についての勾配になっていることである。ずれを勝手な3次のベクトル関数とした場合より、許される形が少ない。この制限は流れが正準変換であることの帰結で、3.3節でコマの形に表れる。同じ式で A=0 の面(平行光が集まる焦点面)を見るときは、x=BP なので Δx=−B∂W/∂X0 になる。
例題 3.2 放物型の媒質で光線の周期が振幅による ★★
オリジナル例題 3.1 の放物型の媒質で、xz 面の中を進む光線を考える。H=H2+H4、H4=H22/(2n0) とする。
- (1) 近軸の H2 の作用変数を J とすると H2=αJ である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第14章)。H を J で書き、振動の角振動数(z についての)ω=∂H/∂J を求めよ。
- (2) 光軸から振幅 xmax で振動する光線について ω を αxmax で表し、αxmax=0.15 のとき、厳密な値 α/1−α2xmax2(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章)と比べよ。
解答
(1) H4 が H2 だけの関数なので、J は H2+H4 についても作用変数のままで、H=αJ+α2J2/(2n0)。したがって ω=α+α2J/n0。相互作用描像で言い換えると、K=H4 を近軸の1周期で平均したものが角変数の進みを α2J/n0 だけ速める。ここでは H4 が角変数によらないので平均は要らない。
(2) 光軸から最も離れた点では p=0 なので H2=n0α2xmax2/2、J=n0αxmax2/2 で、
ω=α(1+2α2xmax2).
αxmax=0.15 では ω/α=1.01125 で、厳密な値 1/1−0.0225=1.01144 と 2×10−4 だけ違う。この差は α4xmax4 の程度で、H6 が作る5次の効果である。振幅の大きい光線ほど速く光軸に戻るので、光軸の1点を出た光線は1周期の後に1点に集まらない。これは 3.3節で球面収差と呼ぶものの1つの例である。
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