光学と量子エレクトロニクス 第11章 §11.3 ★★★ 共鳴が1つの振動子の εr(ω) は、局所場で共鳴が低い側へずれる。共鳴の幅 γ の中だけ屈折率が周波数とともに下がり、密な媒質では共鳴の上に εr<0 の全反射の帯が開く
局所場を入れた誘電関数
共鳴が1つ(振動子強度 f=1)の Lorentz 振動子を Clausius–Mossotti の関係 (11.8) に入れる。Nα/ε0=ωp2/(ω02−ω2−iγω) なので、χ=(Nα/ε0)/(1−Nα/(3ε0)) は
εr(ω)=1+ωt2−ω2−iγωωp2,ωt2=ω02−3ωp2(11.9)
になる。局所場を入れても形は Lorentz 振動子のまま変わらず、共鳴の位置だけが ω0 から低い ωt へずれる。原子が並ぶと、各原子の電子は周りの双極子から自分の変位と同じ向きの力を受け、ばねが実効的に弱くなるからである。ωt は横波の電場に対する共鳴なので、添字 t(transverse)を付ける。
γ→0 では、εr(ω) は ωt に極を持ち、
ωl2=ωt2+ωp2(11.10)
で 0 になる。εr=0 の所では Gauss の法則 ∇⋅(ε0εrE)=0 が ∇⋅E=0 の縦波を許すので、ωl は縦波の振動の角周波数で、添字 l(longitudinal)を付ける(どちらもレーザーの角周波数 ωL とは別の記号である)。
薄い気体の共鳴の形
まず ωp≪ω0 の薄い気体で、共鳴の近く ∣ω−ω0∣≪ω0 を見る。ω02−ω2≈2ω0(ω0−ω)、γω≈γω0 とおくと
χ(ω)≈2ω0ωp2ω0−ω−iγ/21=2ω0ωp2(ω0−ω)2+γ2/4(ω0−ω)+iγ/2(11.11)
である。虚部は半値全幅 γ の Lorentz 型の吸収の線で、中心の値は Imχ(ω0)=ωp2/(ω0γ)。実部は中心で 0 を横切る分散の形で、ω0−ω=±γ/2 で極値 ±ωp2/(2ω0γ) を取る。
実部の傾きの符号で、周波数の範囲が2つに分かれる。共鳴から γ/2 より離れた所では dn/dω>0 で、周波数が高いほど屈折率が大きい。これを正常分散と呼ぶ。可視域で透明なガラスが青い光を赤い光より強く曲げる(プリズムの虹の順)のは、共鳴が紫外にあり、可視光がその低い側の正常分散の範囲にあるからである。共鳴の中心から γ/2 以内では dn/dω<0 になり、これを異常分散と呼ぶ。異常分散の範囲は吸収の線の幅と一致するので、異常分散が見えるのは光が強く吸収される所に限られる。この「吸収のある所でだけ分散の向きが逆になる」という対応は、Lorentz 振動子に固有の性質ではなく、因果律から一般に言えることで、第12章(第12章)の Kramers–Kronig の関係がそれを定式化する。
例題 11.3 アルカリ原子の蒸気の共鳴線 ★★
オリジナル共鳴の波長 589nm、振動子強度 f=1、線幅 γ=2π×10MHz の原子の蒸気(数密度 N=1.0×1017m−3)を考える。式 (11.11) を使う。
- (1) 屈折率 n−1 の極値と、それを取る周波数を求めよ。
- (2) 中心での吸収係数 αabs を、ωp・γ・c で表して数値を出せ。
- (3) (1) の極値と中心の κ の比が、パラメータに依らず 1/2 であることを示せ。
解答
(1) ωp2=Ne2/(ε0m)=3.18×1020s−2、ω0=2πc/λ=3.20×1015s−1。式 (11.4) と (11.11) から、ω=ω0∓γ/2 で
n−1=±4ω0γωp2=±4×3.20×1015×6.28×1073.18×1020=±3.96×10−4.
共鳴より γ/2 低い周波数で最大、γ/2 高い周波数で最小になる。気体の密度は 1 気圧の空気の 4×10−9 倍にすぎないが、共鳴の近くでは n−1 が空気と同じ桁になる。
(2) 中心で κ=21Imχ=ωp2/(2ω0γ) なので
αabs=c2ω0κ=cγωp2=3.00×108×6.28×1073.18×1020=1.69×104m−1.
強度は 59μm ごとに 1/e になり、共鳴の中心の光はこの蒸気をほとんど通らない。ω0 が消えるので、吸収係数は振動子の数と線幅だけで決まる。
(3) 極値は ωp2/(4ω0γ)、中心の κ は ωp2/(2ω0γ) で、比は 1/2。Lorentz 型の線では、屈折率の振れの大きさが吸収の高さの半分に固定される。吸収の線の形を測れば、屈折率の振れは測らなくても決まる。これは第12章の Kramers–Kronig の関係の、最も簡単な例になっている。
密な媒質:全反射の帯
次に ωp が ωt と同じ桁の密な媒質を見る。図 11.2 は式 (11.9) から計算した n と κ である。ω<ωt では正常分散で、静電場の極限 εr(0)=1+ωp2/ωt2 から共鳴に向かって屈折率が増える。ωt<ω<ωl では、γ→0 の極限で εr<0 になり、n~=i−εr が純虚数になる。この範囲の光は媒質の中を進めず、場は表面から指数関数的に減衰する。真空から垂直に入射した光の反射率は、第14章(第14章)で示す Fresnel の式から R=∣(n~−1)/(n~+1)∣2 で、n~ が純虚数なら分子と分母の絶対値が等しく R=1 になる。減衰が無ければ、この範囲の光は吸収されずに全部反射される。
イオン結晶の格子振動(光学フォノン)は、正負のイオンが逆向きに変位する振動子で、赤外に ωt を持つ。白色の赤外光を結晶の表面で何度も反射させると、この帯の光だけが残るので、この帯を残留線(Reststrahlen)の帯と呼ぶ。式 (11.10) の比 ωl2/ωt2=εr(0) は、背景の誘電率を入れた形
ωt2ωl2=εr(∞)εr(0)(11.12)
に一般化され、Lyddane–Sachs–Teller の関係と呼ばれる(R. H. Lyddane, R. G. Sachs, E. Teller (1941)、Phys. Rev. 59, 673)。εr(∞) は格子振動より十分高く電子の共鳴より十分低い周波数の比誘電率である。

図 11.2 局所場を入れた Lorentz 振動子の複素屈折率 (11.9)(ωp2=1.5ωt2、γ=0.05ωt)。実線が n、破線が κ。ωt の下は正常分散、共鳴の幅の中で異常分散、色を付けた ωt<ω<ωl では n が小さく κ が大きい(全反射の帯)。ωl=2.5ωt=1.58ωt。
例題 11.4 残留線の帯の位置 ★★
オリジナルある立方晶のイオン結晶の比誘電率を、静電場で εr(0)=5.9、格子振動より十分高い周波数で εr(∞)=2.25 とし、横の光学フォノンの周波数を νt=5.0THz とする。
- (1) 背景の誘電率 εr(∞) を持つ振動子の誘電関数 εr(ω)=εr(∞)+[εr(0)−εr(∞)]ωt2/(ωt2−ω2) の零点から、式 (11.12) を導け。
- (2) 縦の光学フォノンの周波数 νl を求め、全反射の帯を真空中の波長で表せ。
解答
(1) εr(ωl)=0 とおくと εr(∞)(ωt2−ωl2)+[εr(0)−εr(∞)]ωt2=0、すなわち εr(∞)ωl2=εr(0)ωt2 で、式 (11.12) になる。εr(∞)=1 とおけば、式 (11.9) の εr(0)=1+ωp2/ωt2 と式 (11.10) の比に戻る。
(2) νl=νt5.9/2.25=5.0×1.619=8.10THz。帯は 5.0〜8.10THz、真空中の波長で c/ν から 37.0〜60.0μm の遠赤外である。静電場の比誘電率と高周波の比誘電率という、測りやすい2つの量だけから、反射の帯の両端が決まる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com