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比べる2つの分布:仕切りを外す前と後

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第5章 Gibbs のパラドックス
目次
  1. 設定
  2. 条件を付けた分布の相対エントロピー
  3. エントロピーの差と相互情報量
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第5章 §2.5.1 ★★★ 混合のエントロピーは、混ぜる前の分布と混ぜた後の分布の相対エントロピーに等しく、それは種類と位置の相互情報量でもある

体積の等しい2つの容器に同じ温度・同じ圧力の気体を入れ、間の仕切りを外す。2つの気体が別の種類(たとえばヘリウムとネオン)なら、気体は互いに拡散して混ざり、エントロピーは 2N2N 個の粒子あたり 2NkBln⁡22N k_{\mathrm B}\ln2 だけ増える。2つの気体が同じ種類なら、仕切りを外しても巨視的には何も変わらず、エントロピーも変わらない。ここまでは熱力学の教科書に書いてある。Gibbs が問題にしたのは、2つの気体を少しずつ似せていったときの振る舞いである。種類がわずかでも違えば増加は 2NkBln⁡22N k_{\mathrm B}\ln2 のままで、まったく同じになった瞬間に 00 へ跳ぶ。似ている度合いは連続に変えられそうなのに、エントロピーの増加は不連続に変わる。これが Gibbs のパラドックスである(J. W. Gibbs (1876), Trans. Connecticut Acad. Arts Sci. 3, 108–248 の気体の拡散による混合を論じた部分)。統計力学の授業では、もう1つの形でも出てくる。区別できる粒子として状態を数えると、同じ気体どうしの仕切りを外すだけで 2NkBln⁡22N k_{\mathrm B}\ln2 が生じてしまい、エントロピーが示量的にならない。その修正として相空間の測度に 1/N!1/N! を入れる。

この章では、2つの問題を同じ1つの量で読む。比べる2つの分布は、仕切りを外す前の分布と、外した後の分布である。混合によるエントロピーの増加はちょうどこの2つの相対エントロピーに等しく(2.5.1 節)、それは「粒子の種類」と「粒子がいた側」の相互情報量でもある。当てる DD の性質はデータ処理不等式(第1部第4章)で、種類を見分ける能力が粗い観測者にとっては、DD が小さくなる(2.5.2 節)。見分ける能力を誤り確率 ε\varepsilon で表すと、混合のエントロピーは ε\varepsilon について連続に 00 まで下がる。不連続は「区別できるか、できないか」の2通りしかないと考えたときにだけ現れる。

出てくるものは3つある。1つ目は、混合のエントロピーが取り出せる仕事の上限 kBTk_{\mathrm B} T 倍であること(2.5.3 節)で、これによってエントロピーが「誰の無知か」という問いに、操作で確かめられる答えが付く。2つ目は、N!N! が「どの粒子がどれか」というラベルを忘れた分のエントロピー ln⁡N!\ln N! であること(2.5.4 節)。3つ目は、量子力学の同種粒子と、内部状態が重なり cc を持つ2種類の粒子の混合である(2.5.5 節)。後者では混合のエントロピーが cc の連続関数になり、Gibbs の不連続は量子力学の中で自然に解消する。

この章でも、エントロピーの対数は自然対数で、情報の量は nat で書く。熱力学のエントロピーは記法の正本どおり S=kBH(p)S= k_{\mathrm B} H(p)(kBk_{\mathrm B} 込み)とし、定義には ≔\coloneqq を使う。この章の確率変数は、粒子の種類 X∈{A,B}X\in\{\mathrm A,\mathrm B\} と、粒子が仕切りのどちら側にいるか Y∈{L,R}Y\in\{\mathrm L,\mathrm R\} である。位置を細かく指定するときは r\bm{r} と書く。

設定

体積 VV の箱を、体積 xVxV の左室と (1−x)V(1-x)V の右室に仕切る(0<x<10<x<1)。左室に気体 A の粒子を NA=xNN_{\mathrm A}=xN 個、右室に気体 B の粒子をNB=(1−x)NN_{\mathrm B}=(1-x)N 個入れる。両室の温度は TT で等しく、数密度も N/VN/V で等しいので、理想気体なら圧力も等しい。粒子どうしの相互作用は無視する(理想気体)。運動量の分布は温度だけで決まり、仕切りを外しても変わらないので、以下では位置の分布だけを比べる。

仕切りを外すと、どの粒子も箱全体を一様に動き回るようになる。A の粒子は A のまま、B の粒子は B のままである(種類は保存する)。長い時間の後の状態は、各粒子の位置が箱全体で一様に独立に分布した状態になる。これを「後」の分布 p後p_{\mathrm{後}} と呼ぶ。「前」の分布 p前p_{\mathrm{前}} は、A の粒子がすべて左室にいて、B の粒子がすべて右室にいるという条件のもとで、各室の中では一様な分布である。

条件を付けた分布の相対エントロピー

p前p_{\mathrm{前}} と p後p_{\mathrm{後}} の関係は簡単である。p後p_{\mathrm{後}} のもとで「A がすべて左、B がすべて右」という事象を EE とすると、p前p_{\mathrm{前}} は p後p_{\mathrm{後}} を EE で条件付けたものに等しい。どちらも、許される配置の上で一様だからである。一般に、分布を事象で条件付けたときの相対エントロピーは、その事象の驚きに等しい。

命題 2.5.1(条件付けの相対エントロピー)

分布 pp と、p(E)>0p(E)>0 の事象 EE について、EE で条件付けた分布 p(⋅ ∣ E)p(\cdot\,|\,E) を作ると

D(p(⋅ ∣ E) ∥ p)=−ln⁡p(E).(2.5.1)D\bigl(p(\cdot\,|\,E)\,\big\|\,p\bigr)=-\ln p(E).\tag{2.5.1}

証明

ω∈E\omega\in E では p(ω ∣ E)=p(ω)/p(E)p(\omega\,|\,E)=p(\omega)/p(E)、ω∉E\omega\notin E では p(ω ∣ E)=0p(\omega\,|\,E)=0 である。したがってD=∑ω∈Ep(ω ∣ E)ln⁡p(ω)/p(E)p(ω)=ln⁡1p(E)∑ω∈Ep(ω ∣ E)=−ln⁡p(E)D=\sum_{\omega\in E}p(\omega\,|\,E)\ln\frac{p(\omega)/p(E)}{p(\omega)}=\ln\frac1{p(E)}\sum_{\omega\in E}p(\omega\,|\,E)=-\ln p(E)。

p後p_{\mathrm{後}} のもとでは各粒子が独立に箱全体で一様なので、A の粒子が1個左室にいる確率は xx、B の粒子が1個右室にいる確率は 1−x1-x で、

p後(E)=xNA(1−x)NB=(xx(1−x)1−x)N.p_{\mathrm{後}}(E)=x^{N_{\mathrm A}}(1-x)^{N_{\mathrm B}}=\bigl(x^x(1-x)^{1-x}\bigr)^N.

命題 2.5.1 から

D(p前 ∥ p後)=−N(xln⁡x+(1−x)ln⁡(1−x))=N hb(x)(2.5.2)D(p_{\mathrm{前}}\,\|\,p_{\mathrm{後}})=-N\bigl(x\ln x+(1-x)\ln(1-x)\bigr)=N\,h_{\mathrm b}(x)\tag{2.5.2}

を得る。ここで hbh_{\mathrm b} は二値エントロピーである。この式は Stirling の公式も NN が大きいことも使っていない、厳密な等式である。

エントロピーの差と相互情報量

2つの分布はどちらも、許される配置の集合の上で一様である。一様分布のエントロピーは配置の数の対数なので、エントロピーの差はln⁡(後の配置の数/前の配置の数)=−ln⁡p後(E)\ln(\text{後の配置の数}/\text{前の配置の数})=-\ln p_{\mathrm{後}}(E) になり、式 (2.5.2) と一致する。したがって

ΔSmix≔S後−S前=kB D(p前 ∥ p後)=−NkB(xln⁡x+(1−x)ln⁡(1−x)).(2.5.3)\Delta S_{\mathrm{mix}}\coloneqq S_{\mathrm{後}}-S_{\mathrm{前}}= k_{\mathrm B}\,D(p_{\mathrm{前}}\,\|\,p_{\mathrm{後}})=-N k_{\mathrm B}\bigl(x\ln x+(1-x)\ln(1-x)\bigr).\tag{2.5.3}

これは熱力学の教科書の混合エントロピーそのものである。この章の見方では、混合のエントロピーは「混ぜた後の分布を信じている人が、混ぜる前の状態を見たときの驚き」であり、自発的に混ざる前の配置に戻る確率 e−ΔSmix/kB\mathrm{e}^{-\Delta S_{\mathrm{mix}}/ k_{\mathrm B}} の対数でもある。

同じ量は、1個の粒子についての相互情報量としても読める。1個の粒子を無作為に選び、その種類を XX、いた側を YY とする。前の分布では XX と YY は完全に相関していて、p前(A,L)=xp_{\mathrm{前}}(\mathrm A,\mathrm L)=x、p前(B,R)=1−xp_{\mathrm{前}}(\mathrm B,\mathrm R)=1-x、他は 00 である。後の分布では種類と位置は独立で、p後(X,Y)=pX(X) pY(Y)p_{\mathrm{後}}(X,Y)=p_X(X)\,p_Y(Y)、周辺分布はどちらも (x,1−x)(x,1-x) のままである。したがって、第1部第3章 の相互情報量の定義から

ΔSmixNkB=D(p前XY ∥ pXpY)=I(X;Y)前=H(X)=hb(x).(2.5.4)\frac{\Delta S_{\mathrm{mix}}}{N k_{\mathrm B}}=D(p_{\mathrm{前}}^{XY}\,\|\,p_Xp_Y)=I(X;Y)_{\mathrm{前}}=H(X)=h_{\mathrm b}(x).\tag{2.5.4}

仕切りを外すことで失われるのは、「粒子の種類を知れば、どちら側にいるかが分かる」という相関であり、混合のエントロピーはその相関の量である。位置を YY でなく細かい r\bm{r} で表しても、前の分布で XX が r\bm{r} から決まることは変わらないので、I(X;r)前=H(X)I(X;\bm{r})_{\mathrm{前}}=H(X) で値は同じである。

比べる2つの分布

仕切りを外す前の分布 p前p_{\mathrm{前}} は、外した後の分布 p後p_{\mathrm{後}} を「A がすべて左、B がすべて右」で条件付けたものである。混合のエントロピーは kBD(p前 ∥ p後)=−kBln⁡p後(E)k_{\mathrm B} D(p_{\mathrm{前}}\,\|\,p_{\mathrm{後}})=- k_{\mathrm B}\ln p_{\mathrm{後}}(E) で、粒子1個あたりでは種類と位置の相互情報量 I(X;Y)前I(X;Y)_{\mathrm{前}} である。

例題 2.5.1 1モルの混合と、自発的に元に戻る確率 ★★

オリジナルx=1/2x=1/2 とし、ヘリウムとネオンを合わせて NN 個の粒子を混ぜる。

  1. (1) 合わせて 1 mol1\,\mathrm{mol} のとき、ΔSmix\Delta S_{\mathrm{mix}} を J K−1\mathrm{J\,K^{-1}} で求めよ。
  2. (2) N=100N=100 のとき、混ざった後の気体を見て、ヘリウムがすべて左室、ネオンがすべて右室にいる確率を求め、−ln⁡-\ln がちょうど ΔSmix/kB\Delta S_{\mathrm{mix}}/ k_{\mathrm B} になることを確かめよ。
解答

(1) 式 (2.5.3) で x=1/2x=1/2 とすると ΔSmix=NkBln⁡2\Delta S_{\mathrm{mix}}=N k_{\mathrm B}\ln2。NkBN k_{\mathrm B} は気体定数 R=8.314 J K−1 mol−1R=8.314\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}} に 1 mol1\,\mathrm{mol} を掛けたものなので、ΔSmix=Rln⁡2=5.76 J K−1\Delta S_{\mathrm{mix}}=R\ln2=5.76\,\mathrm{J\,K^{-1}}。

(2) 各粒子は独立に確率 1/21/2 で左右どちらかにいるので、50 個のヘリウムがすべて左、50 個のネオンがすべて右にいる確率は2−100=7.89×10−312^{-100}=7.89\times10^{-31}。その −ln⁡-\ln は 100ln⁡2=69.3100\ln2=69.3 で、(1) と同じ式 Nln⁡2N\ln2 の N=100N=100 の値である。1 mol1\,\mathrm{mol} なら確率は 2−6.02×10232^{-6.02\times10^{23}} で、混ざった気体が自発的に分かれることは実際には観測されない。

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