相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第7章 §7.7.7 ★★★ 日記の違う2つの放射の D は、島なしの間は 0、Page 時間の後は島に入った日記の D に等しく、その値は半古典的な重力の一般化エントロピーの極値とレプリカ・ワームホールから計算される
この章で比べた2つの状態は、同じブラックホールに違う日記を落とした2つの世界の放射の状態だった。Hawking の計算ではその相対エントロピーがいつまでも 0 で、ユニタリ性は Page 時間の後にそれが日記の情報量まで増えることを要求する。放射の状態を Hawking の状態と比べた D も同じで、Page 曲線は S(R)=lndR−D(ρ^R∥π^R) のD の立ち上がりとして読めた。
当てた D の性質は2つあった。D の単調性(量子データ処理不等式)からは、地平面の外の場の D と面積の変化をまとめた一般化エントロピーSgen=A/(4ℓP2)+Sbulk の第二法則が導かれた。JLMS の関係によれば境界の D はエンタングルメント・ウェッジの中の場の D に等しく、これを量子極値曲面の規則 S(B)=minextSgen と組み合わせて、どの領域の情報がどこから読み出せるかを判定した。
出てきたものは3つあった。島の公式 S(R)=minextI[A(∂I)/(4ℓP2)+Sbulk(R∪I)] は、島なし(Hawking の計算)と島あり(ほぼ SBH)の小さい方を取り、Page 時間に極値曲面が入れ替わって Page 曲線になった。蒸発の模型ではtP/tev=1−(α/(1+α))3/2 だった。JT 重力に浴をつないだ模型では、島の端は地平面の外にa−b=2πβln(1+12ΔS/cM) の位置にでき、その張り出しが Hayden–Preskill のスクランブリング時間になった。島の公式の根拠はレプリカの方法で、重力の経路積分に複製の内部をつなぐレプリカ・ワームホールが加わり、その寄与 e(1−n)SBH を足して初めて、放射が Hawking の状態から見分けられるようになる(D(ρ^R∥π^R)≤ln(1+k/d))。授業で習う形との対応では、レプリカの方法が S=kB(lnZ+β⟨E⟩) の一般化で、Page 曲線の折れ曲がりが1次相転移の自由エネルギーの折れ曲がりと同じ形であることを見た。
次の終章(第7部第8章)では、Shannon の符号化定理からこの章の島の公式までを、相対エントロピー1本で何が言えたかの表にまとめる。
この章の道具
- Hawking の計算:D(ρ^RHawk,(1)∥ρ^RHawk,(2))=0。ユニタリ性:S(R)=S(B)≤min{S(ρ^RHawk),A/(4ℓP2)}。
- S(ρ^)=lnd−D(ρ^∥π^)。日記の Holevo 量 χR=21∑jD(ρ^R(j)∥ρˉR)。
- 一般化エントロピー Sgen=A/(4ℓP2)+Sbulk、量子極値曲面 S(B)=minextSgen、JLMS DB=DEW(B)bulk。
- 島の公式 S(R)=minextI[A(∂I)/(4ℓP2)+Sbulk(R∪I)]。
- 蒸発の模型:tP/tev=1−(α/(1+α))3/2(α=2 で 0.456)。
- JT+浴:島なし 3β2πcMt、島あり 2SBH、a−b=2πβln(1+12ΔS/cM)、tP=3βSBH/(πcM)。
- レプリカ:⟨Trρ^R2⟩=(k+d)/(kd+1)≈1/k+1/d、Sn≈min{lnk,lnd}、D(ρ^R∥π^R)≤ln(1+k/d)。
- 熱状態で Trρ^n=Z(nβ)/Z(β)n。
総合問題 永遠のブラックホールに落とした日記はいつ放射から読めるか ★★★
オリジナル7.7.4 節の JT 重力の模型で、β=2π、ϕ0=0、ΔS=1000(したがって SBH=1000)、cM=12、放射を集める位置 b=1 とする。時刻 t0 に、互いに直交する2つの日記の一方を等確率で境界から内向きの光で落とす。
- (1) 島なしの S(R) の遅い時刻の傾きを求め、Page 時間 tP を出せ。島なしの値がいずれ破る上限を、式 (7.7.1) から説明せよ。(使う道具:7.7.4 節・7.7.1 節・第5部第1章の区間のエントロピー)
- (2) 島の端の位置 a∗ を求め、張り出し a∗−b をスクランブリング時間 2πβlnSBH と比べよ。(使う道具:7.7.4 節・第7部第4章のスクランブリング時間)
- (3) t0=600 と t0=100 のそれぞれで、日記の Holevo 量 χR が 0 から ln2 に変わる時刻を求めよ。そのとき放射の D が日記の D 以上になる理由を、式 (7.7.15) と量子データ処理不等式で説明せよ。(使う道具:7.7.2 節・7.7.3 節・第3部第3章の量子データ処理不等式・第3部第7章の Holevo 量)
- (4) Page 時間ちょうどを、乱数の状態の模型で k=d=25 として表す。⟨Trρ^R2⟩ の2つの鞍点の寄与の比、S2 と lnk の差、D(ρ^R∥π^R) の上限を求め、Page の平均 lnk−⟨S⟩ と比べよ。(使う道具:7.7.5 節・7.7.6 節・第7部第3章の Page の式・第2部第3章の D の上限)
解答
(1) 式 (7.7.18) の傾きは 2πcM/(3β)=2π×12/(3×2π)=4 で、S島なし≈4t−4ln2+(切断の定数) である。島ありは ≈2SBH=2000 なので、tP≈2000/4=500(式 (7.7.23) の 3βSBH/(πcM)=500 と同じ)。全体は純粋なので S(R) は補集合(両側のブラックホールと浴の 0<y<b の部分)のエントロピーに等しく、その状態空間の次元の対数を超えない。両側のブラックホールの状態の数は e2SBH なので、S(R)≤2SBH+(浴の短い区間の分) で、時間に比例して増える島なしの値は t≈500 を過ぎると破る。
(2) a∗=1+ln(1+12×1000/12)=1+ln1001=7.909(停留の条件 (7.7.20) の数値解は 7.9086)。a∗−b=6.909 は 2πβlnSBH=ln1000=6.908 とほぼ一致する。島の端は地平面の外にあり、境界から測って放射の集まる位置 b よりスクランブリング時間だけ深い。
(3) 日記は時刻 t に y=−(t−t0) にあり、島(y<−a∗)に入るのは t>t0+a∗ のとき、ただし島が存在するのは t>tP のときに限る。t0=600 では、すでに島があるので t=600+7.909=607.9 で χR が ln2 に跳ぶ(落としてから b と t∗ の和だけ後)。t0=100 では、t=107.9 に日記は y<−a∗ の深さまで達するが、そのとき島はまだ無いので放射には出ず、t=tP≈500 に島が現れた時点で χR=ln2 になる。Page 時間の前に落とした情報は Page 時間まで出てこず、後に落とした情報はスクランブリング時間で出てくる、という Hayden–Preskill の結論と同じである。読み出せる理由:島がある時刻には R のエンタングルメント・ウェッジが R∪I で、式 (7.7.15) によりD(ρ^R(1)∥ρ^R(2))=D(ρ^R∪Ibulk,(1)∥ρ^R∪Ibulk,(2))。日記が I の中にあれば、R∪I から日記の部分系への部分トレースは量子チャネルなので、量子データ処理不等式により右辺は日記の状態どうしの D(直交するので ∞)以上になる。Holevo 量では、各 D(ρ^R(j)∥ρˉR) が日記の側の ln2 以上になり、χR≤ln2(日記の次元の対数)と合わせて χR=ln2 である。島が無い間は R の場の状態は日記によらないので D=0、χR=0 である。
(4) k=d=32 では ⟨Trρ^R2⟩=2k/(k2+1)=64/1025=0.06244。つながらない鞍点の寄与 kd2/(kd(kd+1)) とレプリカ・ワームホールの寄与 k2d/(kd(kd+1)) はk=d で等しく、比は 1 である。S2=ln(1025/64)=2.774 で、lnk=3.466 との差は 0.692≈ln2(式 (7.7.32) の交点の丸まり ln2 と同じ)。D の上限は ln(k⋅2k/(k2+1))=ln(2048/1025)=0.692≈ln2。Page の平均は lnk−⟨S⟩=0.499≈1/2 で、上限 ln2 の中に収まる。Page 時間ちょうどでは2つの鞍点が同じ重みで競り、放射は Hawking の状態から O(1) だけ外れ始める。その外れは SBH=1000 に比べて小さく、(1) の折れ曲がりは O(1) の幅で丸まるだけである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com